別れの言葉 4
「……これ、どうするの?」
母さんに手渡された本を見て、アニマは俺に訊ねた。
黒い本……ベッドの下にあったせいか、薄く埃を被っている。
「……母さんが言っていたとおりだ。これは魔宝具なんだ。これを消滅させればこの屋敷は過去から開放される……だったら――」
「本当に、それでいいの?」
アニマが俺に訊ねる。俺はアニマの方を見た。
「……ああ。良い。むしろ本望だ。俺だって、そろそろ過去から開放されたいしな」
俺がそう言うとアニマも理解してくれたようだった。
「……わかったわ。それじゃあ――」
と、アニマが右手に黒い炎を灯した時だった。
なぜかアニマがもう一度俺のことを見た。
「ん? どうした? アニマ」
すると、なぜかアニマはものすごく悲しそうな目つきで俺のことを見る。
「……嫌……嫌よ……どうして……」
「は? お、おいおい、どうしたんだよ」
するとアニマは本をギュッと抱きしめて俺から距離を取る。
「嫌よ! ジョセフと離れるなんて嫌! どうして? どうしてそんな酷い事言うの?」
「アニマ……ジョセフって、お前……」
すると、アニマは黒い炎をいきなり廊下一面に向かって放出した。
あっという間に、辺りは一面、火の海になる。
「はぁ!? な、なにやってんだよ! アニマ!」
「嫌よ……絶対離れない……ジョセフと私はずっと一緒にいるの……あの人は私を捨てた……だから、ジョセフだけは……」
アニマは完全に錯乱しているようだった。というか、ジョセフと呼んでいるということは……
「母さん! やめるんだ!」
俺がすぐにその時アニマの身体に起きていることを理解し、母さんがいるであろう部屋の扉を開けることにした。
まだ火の手があがっていない母さんの部屋の扉を、思いっきり開ける。
「……え?」
しかし、そこにいたのは母さんではなかった。
すでに白骨化してずいぶんと経っているであろう骸骨が、古びたベッドの上に横たわっていたのである。




