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君がいた思い出 4

「あれが、俺の母さんだ」


 そういって出てきた俺、アニマ、ヴィオ。


 三人共何も言わず、無言のままに廊下を歩く。


「……えっと、お母さんは身体が悪いのですか?」


 ヴィオが遠慮がちに俺にそう言ってきた。


「ああ。俺が生まれた頃からそうだったらしい。親父はそんな母さんを1人で面倒見ていた。母さんの面倒だけはキンケイドにも任せていなかった。


「……その代わり、アナタの面倒をキンケイドにさせていた、ってことね」


 アニマにそう言われ、俺は無言で頷いた。


「だから、俺は母さんとは数えた程しか喋ったことがない。俺の記憶の中にある母さんはいつもベッドの上で窓の外を寂しげに眺めていた……」


 思わず俺らしくもなく鑑賞に浸ってしまったが、問題はそこではない。


「……まぁ、母さんも今はいないんだ。過去の存在だ。あまり気にしないでくれ」


「ええ。アナタが母さんが魔宝具を暴走させていないと思ったのは、お母さんが歩けないと思ったからね」


「ああ。歩いているところなんて見たこと無い。だから、魔宝具を暴走させたのはあの親父だよ」


 そういって俺達は親父が戻ってこない内にと、急いで客間の方へ戻っていった。


 客間に戻って数分、親父は笑顔で俺達の下に戻ってきた。


「いやぁ。待たせてすまない。料理はできたんだが……やれやれ。執事はまだ息子をつれて帰ってこないな。大方、息子のわがままにでも付き合わされているんだろう」


 親父の言葉にアニマが俺を見る。


「……ああ。あの時俺はキンケイドに誕生日のプレゼントを強請ったんだ。だから、屋敷に戻るのが夜遅くになったんだよ」


「そう……だから、アナタは魔宝具の影響を受けなかった、ってわけね」


 俺が頷くとアニマは悲しそうに俺を見た。


 なんとなくだが……アニマはもしかして、既にこの屋敷で何が起こっているかわかっているのではないか……俺には直感的にそう感じられた。


「しかし……可愛い息子なんだ。1人息子だからかな……とにかく私と妻の良い所を総て受け継いだような息子なんだよ」


 と、急に親父は俺の話を始めた。


 何度も来ているのでわかっているが、やっぱりこれは恥ずかしかった。おまけに今回は俺1人ではない。一番その話を聞いてほしくないアニマも一緒である。


「そうなんですか。お子様、将来が楽しみですね」


 アニマはわざとらしくニッコリと笑ってそう言った。


「ああ。きっと将来は優秀な学者か……立派な騎士になって国に使えるような存在になるだろうな」



 親父は1人で勝手にそう言った。


 俺は内心腹が立っていた。そんな未来……もしかしてあったかもしれない未来を壊したのはこの親父だというのに。


「まぁ、とにかく主役である息子が帰ってこないと始まらない。悪いがお客人。もうしばらく待っていてくれたまえ」


 そういって親父はまた客間から出て行った。


「……いいお父さんじゃない」


 アニマが皮肉たっぷりにそう言った。


「……で、これでこの過去は大体終わった」


「過去が終わった? どういうこと?」


 アニマとヴィオが不思議そうな顔で俺を見る。俺は時計を見てから確認した。


「……過去が終わるんだ。永遠に続く過去がな」


 柄にもなく俺は意味深にそう呟いてしまったのだった。

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