間抜けな黒猫 8
「若様……いままでどこで何をされていたのですか?」
老人、俺、ヴィオ。俺達三人は仕方なく三人、客席に座った。
老人は辛そうな顔で俺に訊ねてくる。俺はその顔は既に何度も見ていたので、別に辛くはなかった。むしろ嫌だった。
「……何もしていない。あの家を出てから、俺は何もしていないさ」
「若様……かつて仰っていたではないですか。いつか、旦那様と奥様を呪縛から開放するのだ、と。それなのに……」
老人はそういって悲しそうに俯く。ヴィオだけが完全に状況を理解していないようで、困り顔で俺を見ていた。
「お前こそ、こんなところで何をしているんだ。よくもまぁ、こんな客のいないような店、やっていけているものだな」
「……若様と同じです。旦那様と奥様が残して下さった遺産があるからこそ、私も若様もこうやって生き延びているのです。ですから、若様……」
「無理だ」
俺はぴしゃりとそう言った。老人は悲しそうに俺を見ている。
「……俺は、既にお前以上に親父と母さんがやったことを理解している。だからこそ、何もしていないんだ」
「若様……」
「とにかく、コイツの面倒を見てやってくれ。こんな見た目だが、コイツ、猫なんだ。エサはミルクとか……そんなんでいいだろ」
「え……ちょ、ちょっと!? 御主人様!?」
慌てたと様子で俺を引きとめようとするヴィオ。それでも、俺は無視して立ち上がる。
いい加減嫌になったのだ。このままではいられない。
そのまま店を出ようとする。
「あらあら。随分と人任せなのね、タイラー」
と、そこへ聞こえてこないはずの声が聞こえて来た。
「な……お前……」
「まったく……子猫ちゃんをどうするかと思えば他人に押し付けちゃうなんて……ま。子猫ちゃんのことはどうでもいいわ。それより、アナタ、一体どうしてそんな不機嫌なのかしら?」
アニマは鋭い目つきで俺を観る。咄嗟に、俺はアニマが今までの俺の言動を見ていて、真実を白状しなければいけないことが理解できた。




