求める鎧
「騎士になるには、まず鎧がちゃんと着れるかどうか……それが最初にして最大の難関である」
「なんだこれ……鎧?」
『マジック・ジャンク』の前に行くと、なにやら大きな鎧が店の前に置いてあった。
「ああ、タイラー。丁度いいところに来たわね。これ、着てくれない?」
店の奥から出てきたアニマは完全におあつらえ向きの人材がやってきたとして、俺にそう言っているように思えた。
「……なんだよ。俺に着ろっていうのか?」
「ええ。そうよ。ほら、着てみて」
「着ろって……俺、鎧なんて着たこと無いぞ?」
「大丈夫よ。ほら」
仕方なく、俺はとりあえず、言われるままに鎧を手にとった。
そして、足の部分、胸当て、篭手、そして、甲冑……
「なんだ。簡単に着れるな」
案外簡単に着れてしまった。
鎧を着るのは大変だと聞いたことがあるのだが、なんだか予想外である。
「何か、変化はない」
「え? 変化……あれ? おい、動けないぞ?」
つい先程まで動けたにも拘らず、動けなくなった事に気づき、俺は思わず焦った。
「あ、やっぱり?」
「はぁ? お前……確信犯かよ?」
「あはは……でも、大丈夫。そうねぇ……そういえば、最近、ちょっと先の街で小競り合いの争いがあったわよね?」
「はぁ? ああ……まぁ、噂では聞いたが……この領地の話じゃないぞ? それに争いって言っても、小さな争いで……うおっ!?」
と、いきなり俺の身体が動き出した……というよりも、鎧が勝手に動いているのである。俺は必死に抗おうとするが、鎧の力が圧倒的である。
「お、おい! アニマ!? どうなってんだ!?」
「その鎧は魔宝具よ」
「はぁ? 魔宝具!?」
「ええ。『求める鎧』。自分では動けないけど、鎧を着た人の身体を操って、戦場を求めて動き出す鎧なの」
そういうアニマの言葉も最期までまともに聞けなかった。
俺は鎧の力に負け、そのまま外に出て、走りだしてしまった……というより、走らされたのである。
そして、『マジック・ジャンク』に戻って来られたのは、翌日になってからのことであった。
「あら、よく生きて戻って来られたわね」
意外そうな顔でアニマは俺を見る。
俺はなるべく怨みを込めてアニマを睨みつけてやった。
「ああ……あの鎧、俺が気に入らなかったらしいからな」
「え? どういうこと?」
「……しばらくは俺を操っていたんだが、戦場にいく途中、鎧の無い若い兄ちゃんと出くわしたんだ。そしたら、アイツ、いきなりバラバラになりやがって……兄ちゃんに鎧は押し付けて帰ってきたんだよ」
すると、プッと、小さくアニマは笑いやがったのである。
「お、お前なぁ……」
「ああ、ごめんなさい。あの鎧、元は高名な女騎士の持ち物だったらしいから……ハンサムなお兄さんの方が、あの鎧の好みだったのかしらね?」
「なんだそりゃ……ったく、俺は鎧にフラれたっていうのかよ?」
「まぁ、そうなるわね。良かったわね。失恋できて」
なぜか御機嫌のアニマとは正反対に、鎧にフラれたという事実は、少し俺の人間としてのプライドを傷つけたのだった。