間抜けな黒猫 3
「で、どういう理由があって偽物の魔宝具なんて売っているのかしら?」
路地裏に入ると、アニマが単刀直入に訊ねた。
「え、えっと……仕方なかったんです! お金がなくて……」
「お金? だったら、普通の仕事をしなさい。この街ならアナタくらいの若い娘がお金を得る手段なんて腐るほどあるわよ」
案外えげつないことを言うものだと思ったが、アニマとしては、偽物の商売品を売られていたことに腹を立てているのだろう。
「え……ど、どうすればいいんですか?」
「アナタ……本気でそれ、訊いているの?」
「え、ええ……その……アタシ、あんまり働いたこととか無くて……」
女の子は申し訳無さそうにそう言った。アニマと俺は再び顔を見合わせる。
「なぁ、アンタ。もしかして、その……実は元々はすごい金持ちだったとか、そういう境遇なのか?」
「え? お金……そうですね。お金はあったと思います。少なくとも御主人様は私に毎日エサをくれましたから」
「え……エサ?」
俺が思わず尋ね返すと、女の子はしまった、という顔で俺から目を逸らした。
「……なるほど。そういうこと」
しかし、アニマはすぐに理解したようだった。
「なんだ? 一体どうしたんだよ、アニマ」
「タイラー。お金をあげるから、市場で魚を一匹、なんでもいいから買ってきてくれるかしら?」
「はぁ? 魚? なんで?」
すると、アニマは顎で少女の方を指し示した。
見ると、なぜか女の子は目をギラギラさせてこちらを見ていた。
「え……何?」
「あ……え、えっと。お兄さん、その……お魚、くれるんですか?」
「え? いや、アンタにはやらないけど……」
「え!? そ、そんなぁ……ヴィオ、なんでもしますよ? だから、アタシにお魚を……」
すると、なぜかアニマはプッと吹き出した。
「え……どうしたんだよ、アニマ」
「ああ、ごめんなさい……その子猫ちゃんが、あまりにもわかりやすすぎるものだったから……」
「え? 子猫?」
俺は少女の方を見てみる。
すると驚いたことに、なぜか黒いフードで覆われていた頭から、猫の耳のようなものが見えていたのだった。




