魔女の日記 第四巻 5
「まったく……何度読み返しても嫌な記憶ね」
「え? ……って、あれ? 戻ってきてる……」
気付くと、既に俺とアニマはマジック・ジャンクに戻ってきていた。
「どうだったかしら。昔の私。可愛そうだったでしょ?」
「え……ま、まぁ……」
「……私はね、メンテに捨てられてから、誰かが離れていくのが怖くて仕方なかった。だから、こんな辺鄙な所で中古の魔宝具売りなんてやっているのよ……それなのに、アナタのせいよ、タイラー」
「え? お、俺?」
すると、アニマは頬をふくらませて俺を睨んだ。
「そうよ……アナタと出会わなければ……私だってこんな気持にならなかったのに……」
「あ、ああ……わ、悪かったな……」
「……ぷっ。あはは……謝ってどうするのよ。別にアナタは悪くないんだから」
よくわからないが、アニマは別に怒っていないようだった。
でも、俺は未だになんだかもやもやとした気分を胸に残していた。
メンテとアニマ……そして……
「……なぁ、アニマ。あの時メンテが話していた『カルマ』って誰なんだ?」
俺がそう言うと、アニマの表情が瞬時に険しいものだった。
俺としても、それがアニマにとって聞いてほしくないことだということは理解できた。
「……それは、後もう少し経たないと教えられないわね」
「え……後少しって?」
「そうねぇ……100年経って、アナタがまだ生きていたら教えてあげるわ」
アニマはいたずらっぽく笑うが、本気でそう言っているようだった。
俺が生きている間は「カルマ」の話はしたくない……そんな感じに俺には見えた。
「……ったく、わかったよ。相変らず秘密が多いんだな」
「あら? 魔女っていうのは、秘密が多い人種なのよ? その方が魅力的でしょ?」
そういって妖艶な笑みを浮かべるアニマ。正直、その時のアニマは十分に魅力的に思えた。
「……あ、でもよぉ。1つだけお前に言っておくぞ」
「ええ。何かしら?」
アニマがキョトンした顔で俺を観る。
「俺は、お前のこと捨てたりしないぞ。確かにお前は偏屈で、皮肉屋で……美人でスタイルがいい所くらいしか取り柄がないが……俺は暇人だからな。この店以外にそもそも行くところ、賭場くらいしかない。だから、お前が嫌がったって、お前に付きまとってやるからな」
俺がそう言うとアニマは少し嬉しそうな顔をしたあと、いつもの癖で大きくため息をついた。
「……まったく。アナタのそのひん曲がった根性だけは、今まで長い期間生きてきた私でも敵わないわね」