魔界へ
宮殿の奥へと進むと時空の歪みがあり、見慣れた風景が広がっていた。
殺伐とはしているが、紛れもなくここは魔界……。
真新しいイシュケル魔城が、それを物語っていた。
「ここは魔界?」
「そのようだな。確かガームが言っていた。黒き三人衆は異界と魔界を守る門番だと……」
頑強な岩肌から望む先には、ガルラ牢獄も見える。
アレイス達は、滑り落ちるように平地へと着地した。
「しかし父上、俺達の住んでる魔界とは、だいぶ違うようですが……」
「それはそうだろう……もともと魔族は、影の存在。平和とはおよそ無縁だからな」
平和な魔界しか知らないアレイスは、戸惑いを隠せなかった。
「ガルラ牢獄があるということは、大量の人々が虐殺されている恐れがある……時を越えし者も気になるが、まずはガルラ牢獄へ赴きたい」
イシュケルの意見に賛同し、一行はガルラ牢獄を目指すことにした。
泥濘があり痩せた大地は、猛毒と屍で形成されていた。
もともと毒に耐性のあるアレイスとイシュケルは問題なかったが、睦月とミネルヴァは徐々に体力を奪われていった。
「睦月、ミネルヴァ、大丈夫か?」
「大丈夫よ」
「私も何とか大丈夫です」
始めのうちは二人とも気丈に振る舞っていたが、口数が減り遂にはアレイス達に遅れをとりだした。
「無理をするな。さぁ、乗れ」
アレイスは睦月の前にしゃがみこみ、背中を向ける。
「おんぶしてくれるの?」
睦月は、顔を赤らめる。
「何度も言わせるな。早く」
「う、うん……」
睦月はアレイスの背中に、愛を感じた。
度重なる戦闘に、気持ちが離れていったと感じていたが、やはりアレイスが好きだと認識した。
ミネルヴァも、イシュケルにおぶさり、毒々しい大地を抜けた。
正直ミネルヴァも、アレイスにおぶさりたかったが、睦月の気持ちを知っている以上、自分の気持ちを押し殺していた。
そして、アレイス達はガルラ牢獄へと辿り着いた。
「おらぁ、働け! 屍になりたい奴はどいつだ?」
一つ目の魔物が人々に鞭を振るう。
「すみません」
「気に食わんな~。殺すぞ!」
一つ目の魔物は、鞭を振るった人を担ぎ上げ、頭の角で串刺しにした。
「人間とは儚いものだな……さぁ、次はどいつだ。死にたい奴は名乗り出ろ!」
その光景は正に地獄絵図だった。
「先の戦いで、このような虐殺が行われていたとは……」
ジュラリスを葬ったこの地で、このような行為が行われていたことを、イシュケルは初めて知った。
「止めさせなくては……」
イシュケルが言うよりも先に、アレイスは駆け出していた。
「おい、一つ目野郎! やめろ!」
「何だ貴様! このワシをサイクロプスと知ってのことか?」
サイクロプスは鞭を投げ捨て、立て掛けてあった金棒を持ち上げた。
「サイクロプス? 知らんな。人々を解放するんだ!」
奴隷として働く人々は、怪訝そうな面持ちで任された仕事をこなす。
まるで、魂を抜かれた死人のようにひたすらと。
助けに入るアレイスにも、期待せず無関心だ。
「見てみろ! 誰もお前に期待なんかしちゃいない。ま、こいつらがここで学んだ唯一の、長所だな。小僧、生きて帰れると思うなよ」
サイクロプスは金棒を振り回し襲い掛かってくる。
力任せに振り上げる金棒は、隙だらけだ。
アレイスは、やれやれと言わんばかりに剣を構える。
「頭の悪い奴に限って、自意識過剰になる……」
「言わせておけば! 骨ごと砕いてやるわ!」
――ドスンッ――
見た目からして、軽く一貫はあるであろう金棒は大地に叩き付けられた。
アレイスは、あっさりと金棒をかわし、サイクロプスの背後に回る。
「何処へ消えやがった」
サイクロプスは、背後にいるアレイスに未だ気付かない。
溜め息混じりにアレイスは言う。
「ここだ。お前みたいな雑魚、久しぶりに見たぞ」
アレイスは振り向くサイクロプスの強靭な肉体を、二度、三度と斬り付け、肉の塊にした。
「さぁ、皆。もう自由だ。ここから逃げるんだ……」
ほとんどの人々は、礼も言わず逃げ帰ったが、一人だけアレイスのもとに駆け寄った青年がいた。
年齢的にはアレイスとさほど変わらない、好青年だ。
「助かった。ありがとう。しかし、これであのお方も黙っちゃいないだろうな。あとは任せた。頑張れよ」
青年はそう言うと、そそくさと逃げ帰った。
「あのお方……。時を越えし者のことか……」
アレイスは、剣に付着したサイクロプスの血糊を拭き取ると、ガルラ牢獄内部に侵入した。




