それぞれの辿るべき道
「気が付いたようだな……」
「すみません……」
抱き抱えるイシュケルから、恥ずかしそうに睦月は離れた。
「皆、心配したんですよ」
ミネルヴァも心配そうに、睦月の顔を覗きこむ。
睦月は、自分の意思で立ち上がり話し始めた。
「私は何をしていたのでしょう……それより、パパとアレイスは?」
「覚えていないのか?」
イシュケルとミネルヴァは、睦月が玄武に操られていたことに気付いた。
「拐われたとこまでは、覚えているのですが……」
「そうか……幾つか伝えておくべき事実があるが、心の準備はいいか?」
イシュケルは、あるがままの真実を睦月に伝えるのが、役目だと思っていた。
「はい、覚悟は出来ています……」
睦月は全てを受け入れる為、瞳を静かに閉じた。
「うむ……まず、睦月よ。お前は騎馬四天王『玄武』に拐われた。そして、玄武に操られ花嫁にされそうになった……。そこに我々が駆け付けた。アレイスが戦いを挑み、最終的に玄武は自爆した……」
そこで、イシュケルは言葉を詰まらせ、一旦天を仰いだ。
「問題はその後だ……。玄武はアレイスを巻き込み自爆したのだ……そう、アレイスも死んだ……」
「そ、そんな……」
睦月は泣き崩れ、しゃがみこむ。
ミネルヴァは、そっと寄り添う。
「しかしだ。ウッディがアレイスを連れ、元の世界に戻りサハンの力を借り生き返らせようとしている……僅かな望みだが、我々はそれに賭けるしか術はない」
「では……私達は」
大粒の涙を拭い、睦月は目を見開いた。
そこに、『希望』を感じたかのように。
「心配するな……アレイスは必ず、生き返る……少なくても私はそう信じている。それまで、我々は残りの騎馬四天王を討とうと思う……着いてきてくれるな?」
「はい」
睦月とミネルヴァは、イシュケルの意見に賛同した。
そして、一行はシルキーベールに散らばる魔物達の亡骸を片付け、人々が戻って来れるようにした。
数日後。
「よし、では旅立つとしよう。まずは、港街を目指すぞ」
睦月は僅かだが、希望を取り戻しつつあった。
装備も、街で見付けたプラチナの装備に替えやる気は十分だ。
こうして、イシュケル、睦月、ミネルヴァの旅は始まった。
一方、先の戦闘で撤退したデスナイトは、山奥に静かに身を潜め魔シン族の残党と徒党を組んでいた。
デスナイトが魔シン族の長になり、後に呪いの館で、イシュケルとイセリナに倒されるのは、まだまだ先のこと。
◇◇◇◇◇◇
一方、アレイスサイド。
ここは、異界。
死んだ者がさまよう場所。
死んだアレイスは、そこに来ていた。
「ここは、何処だ? 僕は死んだのか?」
モノクロの世界にひっそりと佇む、宮殿がアレイスの前に姿を現す。
アレイスは、導かれるように、白を基調とした石造りの宮殿に足を踏み入れた。
「誰か、居ませんか?」
耳鳴りがするほど無の世界。
自分の声に驚くほどの無。
「誰ですか? 騒々しい……」
そこには、白い布一枚だけを羽織り、透き通るような肌の美しい女性がいた。
床まである赤い長い髪が印象的で、瞳は空のように青い。
あまりの露出度の高さに、アレイスは目を背けた。
「ア、アレイスと申します。どうやら、死んでしまったらしいのですが、道に迷ってしまって……」
その女性はまじまじと、アレイスを見つめる。
「貴方は人間ではありませんね? ここは、人間の来れる場所ではありません」
「確かに……ハーフと言うか……魔王と勇者の子です」
「そうですか……」
その女性は、上品な笑みを浮かべると続けて、
「ここは、運命を背負いし強き者が集まる神殿、レチュール宮殿です。そして、私はその導かれし者を案内する『マナ』という者です。ここにいると言うことは、貴方も運命を背負いし者なのでしょう。何より、肉体が実体化しているのがその証拠です」
「でも、マナ様……」
「マナでいいです」
「マナ、僕は死んでしまったんです……」
マナはクスクスと笑った。
「何が可笑しいのですか?」
「さっきも言いましたが、貴方の肉体は滅んでいません。運命ならば、誰かが魂を呼び起こすはずです。その時こそが、貴方の成すべき道が開けた時……」
マナはそう言うと、アレイスに背を向けた。
「魂が戻るその時まで、私が貴方の手解きを致します。イヤとは言わせませんよ」
アレイスは、希望に満ち溢れ、力強く頷いた。




