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第16話 生存者との遭遇③

 素行の悪い不良達は、遅寝遅起きと昔から相場が決まっている。基本的に夜更かしをするからだ。

世界が大分様変わりした今でも、その法則は変わらないらしい。

現に、夜が明けて相当な時間が経過しているにも関わらず、春樹達の下に尋問官は中々現れなかった。

全身に傷を負っているが、長い時間睡眠を取れたのは大きい。体力はそれなりに戻ってきている。

後は、時機が来るのをひたすら待つだけ。


 結局、健人達が現れたのは、正午を大分過ぎてからだった。

2人に緊張が走る。昨日は3人だったが、今日は4人がこの部屋にやって来た。

前日、終始さかっていた馬鹿がようやく尋問の場に出席する気になったらしい。

背はあまり高くなく、一見大人しそうな肥満体。浩とか呼ばれていた男もまた、クセのありそうな人物だった。

増えてしまった暴漢。こちらは負傷している上に拘束までされている。

果たして、この現状を打破する事が可能なのか?

未だに真人は半信半疑だったが、少なくとも春樹の目に諦観の色は無い。


 「いやぁ、悪い悪い。昨夜はちょっと張り切り過ぎちゃってさぁ。待った?」

健人の明るい声が響く。相変わらず癇に障る口調だ。

「それほどでも。むしろ、もっとゆっくりでも良かったくらいだよ」

「そんなに邪険にすんなよ。俺とお前の仲だろ? もっとコミュニケーション取ろうや」

頬を張られるが、目の前の男には昨日散々ひどい目に遭わされている。今更その程度で怯む春樹ではなかった。

「今日はやけにご機嫌じゃないか。昨夜はお楽しみだったか?」

「はっ、もうすぐ新しいのが手に入るだろ? やっぱ別れは惜しまないとなぁ」

「……殺したのか?」

「まさか。俺らは殺人鬼じゃあないからな。死なない程度には大事にしてやるよ。お前らだって、素直になれば無事帰してやるからな?」

「感染者がうようよ居るモールの外にか?」

「そこまでは知らねぇよ? お前らが勝手に死ぬ分には俺ら関係無ぇし」

「……どこまで、腐ってんだよ下衆野郎!」

突然叫び出したのは、真人だった。

「真人、待て。あまり刺激する様な事は……」

慌てて春樹が静止しようとするが、少年は沸きあがる憎悪を抑える事が出来なかった。

「お前みたいなヤツが居るせいで、死ななくても良い人が死ぬ羽目になんだよ!」

一気にまくし立てる真人に、一瞬健人も怯む。

彼には、一部の人間の身勝手な行動で崩壊した、このショッピングモールの現状が許せなかった。

しかし、あくまで強い立場に居るのは拘束している側の健人だ。

「元気だねぇ、少年。もう少し痛い目みとく?」

後ろ手に手錠を掛けられて座った状態の無防備な真人の鳩尾に、健人のつま先がめり込む。強烈なトゥキックだった。

「う、げぇっ!」

たまらずその場に嘔吐してしまう真人。

昨日の昼以降何も食べていないので、その内容物のほとんどは胃液だ。

吐いた後も、満足に呼吸が出来ないのか、真人が苦しそうにのたうちまわる。

「うぇー。汚ったねぇなあ……気が滅入ってくるわ、コレ」

心底面倒臭そうに、金髪鼻ピアスの男が吐き捨てる。

「汚すんじゃねぇよ、クソガキ。ぶっ殺すぞ」

スポーツ刈りの男がさらに真人の顔面を蹴り上げる。そのまま2度、3度と続けようするが、春樹によってそれは阻まれた。

「ガキしか相手に出来ないのか? 見た目以上に終わってんのな、お前ら」

「ああ!? お前も死ぬか、コラ!」

標的を自分に移す事は成功した様だ。やれやれ、こいつらの機嫌が良い内は痛い目を見ずにやり過ごしたかったんだが……

昨日の再現になってしまった展開に、心の内で舌打ちするくらいしか春樹に出来る事は無かった。


 「……俺、やる事無いみたいだし。女の子達の所行ってくるよ」

しばらく様子を見ていた肥満体がぼそりと呟いた。

「はぁ? お前、昨日あれだけやってただろ? まだ足りねぇのか?」

呆れた様に溜息を漏らす健人。だが、今日は同意見の者が現れた。

「あ、じゃあ俺も。男の相手は健人に任すわ」

金髪鼻ピアスだ。ボロボロの男達に、これ以上暴行を加える事に躊躇しているらしい。

「つくづく中途半端なヤツだ。ったく、新しいのが入ったら、俺が最初に使う。いいな!」

健人は不快感を隠そうともしなかった。

「へいへ~い。んじゃ、あとヨロシク~」

気だるそうな返事を返しつつ、男2人が尋問部屋を後にする。

虫の息の捕虜2人と、全く成果を挙げられない尋問官2人。室内が奇妙な空気に包まれる。

「早く、吐けやコラァ! 面倒臭ぇなオイ!」

一際強く春樹の腹を蹴り上げる健人。だんだん余裕が無くなってきている。

ここまで思い通りにならなかった事が、この男の人生の中には無かったらしい。

ここまでは予定通りだ。うまく運んでいる。体をくの字に折り、激痛に耐えながらも、春樹は微かな笑みを浮かべていた。


 その後、蹴ろうが殴ろうが大した反応を示さなくなった2人に、健人達は手を止めた。

今殺してしまっては意味が無い。女を手に入れるまでは、生かしておく必要がある。

少し、休憩を入れるか? そう思った、その時だった。


 「なあ、お前らは、運命ってヤツ、信じるか……?」

気絶していたと思われる春樹から投げ掛けられた言葉に、2人は目を白黒させる。

「……は?」

「例えば、さ。これから死ぬ予定の人間が居たとして、それが先に分かってたら、助けてやろうと思う?」

「な、何言ってるかわかんねぇよ。お前らがこれから死ぬ運命は変わらないけどな」

「……そうか。じゃあ、俺が今から起こる事を傍観しても、別に良いんだよな?」

「頭イッちまったか? おい、健人。コイツ、壊れちまったぞ?」

「……チッ。ガキの方はまだ大丈夫だろ? とりあえず、女の居場所はこっちから……」

言い終わる前に、部屋の入り口から微かな音が聞こえてくる事に健人が気付いた。

「待て。何だ、この音……」

耳を澄ませてみると、ドアがノックされている様だった。

コツ……コツ……コツ……

ノックにしては、間隔が長い。そして、ノックにしては、音が弱々しい。

「浩?それとも、信司しんじか?」

スポーツ刈りの男がドアに向かって呼びかけるが、答えは返ってこない。

コツ……コツ……コツ……

相変わらず音は続いている。

金髪鼻ピアスの男は、名前を信司というのか。度重なる暴行で朦朧とした意識の中で、春樹はどうでも良い事を何となく考えていた。

「何だよ、何か用か!?」

より強い口調で健人がドアに声を掛ける。しかし、返ってくるのは、

コツ……コツ……コツ……

というこの音のみ。

「俺とお前らが出会ってからさ。もう、 1日が経っている・・・・・・・・んだよな」

低い声で、春樹が静かに呟く。いやに落ち着いたその口調が、室内に異様な雰囲気を醸し出す。

「だから何だってんだよ!」

「いーや、何でもないよ。ただ、指折り数えて待ってたんだよ。24時間経つのをな」

「お前、さっきから、何を言ってんだ……?」

得体の知れない不気味なものを見る様に、健人が春樹に向き直る。

目の前の男は、これから何が起こるのか、全部知っている。そう思えてならなかった。

「初めてだよ。『運命の時』を避けようとするどころか、待ちどおしく感じるなんて。変えない方が良い運命も、あるんだな」

「な、なんかやべぇよコレ!」

不気味な重圧に耐え切れなくなったのか、スポーツ刈りの男がドアに向かって駆け出す。

この部屋の出入り口は1つしか無い。外へ逃げようと思ったなら、必然的にそこを通るしかない。

そのドアから不吉な予感が漂おうとも。

「お、おい待てよ!」

慌てて健人も縋る様に後を追う。

勢いよく開け放たれたドアの向こうには、数人の人影があった。

「浩……信司……?」

それだけでは無い。全裸姿の女が2人、その後ろに控えていた。その全員が、感染している。

「ウソ……だろ?」

そう呟いたのは、誰だろうか? 否、もう、どうでも良い事だった。


 頭上の赤い『球』が点滅していたら、その人は、24時間以内に死亡してしまう。

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