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第 1話 蔵田春樹という人間

 超能力というモノは、案外身近にあったりする。

が、世界を征服出来るような、大それた都合の良いモノでは無い。


 会社員として社会に出て3年目、25歳になったばかりの蔵田春樹くらたはるきはそう思っている。

手を使わずに物を動かせたり、他人の心を読めたりするわけでは無いが、春樹はそれを持っている。


 春樹には、人の未来が視える。

視えるといっても、春樹が視た全ての人がこれからどうなるかを当てる事は出来ない。

ある条件を満たした人間の、未来が視えるのだ。

ある条件とは即ち、『これから死ぬ人間』である。

春樹の目から視える世界。

視力は両目とも1.5。色覚異常も無く、肉体も精神もいたって健常だ。綺麗な景色に心を奪われることもあるし、実家で飼っている犬や猫を可愛がり、癒しを得られる程度の感性も備わっている、つもり。


 ただ、『人間の姿』だけが他の人達とは異なるものに映る。

オマケが付いているのだ。ランドセルを背負って駆け回る小学生も、傘をゴルフクラブにして華麗なスイングを披露するスーツのおじさんも、すれ違った後、思わず振り返って見とれてしまうような美人のお姉さんも、もれなく頭の上に『球』を乗っけている。

ソフトボールよりもやや小さいそれは、全ての人間の頭上約10cmのところに例外なく浮いている。

『球』は、それを持つ人がどれだけ高速で動いても決してその頭上を離れず、また、何があっても消えることは無い。生きている限りは。

『球』には2種類の色がある。青と赤。来年の今頃も生きている予定の者は青。1年以内に死ぬ予定の者は赤い『球』を持っている。さらに、24時間以内に天に召される者の『球』は赤く点滅する。


 触ってみようと試みた事もあるが、すり抜けてしまい、どうしても実現しなかった。そして、お約束かもしれないが、鏡を見ても自分の『球』は見当たらなかった。

そして、人間以外の生物には『球』が視えない。


 25年の人生の中で検証した結果だ。これが、蔵田春樹の持つ特殊能力。

これは生まれつきなのかも知れない。自身の記憶に最初に登場する人物は既に頭に『球』を乗せていた。


 子供の頃、人の頭上には『球』が浮いているのが当然だと思っていた。鏡に映った自分を認識出来る年齢になった時、母親に尋ねたことがある。

「どうして僕には『球』が無いの?」

その後、心配した両親と様々な病院を巡り、わけのわからない検査とカウンセリングを繰り返すうち、自分が変なのだと理解していった。

結局、いくら説明しても誰にもわかってもらえなかったので、悪ふざけはやめて心を入れ替えたことにした。思えば、幼い自分が覚えた初めての処世術かも知れない。


 そんな春樹が視る人間社会は、赤と青が混ぜこぜになっている。常人からすると恐ろしく奇妙な世界なのだろうが、春樹はこの世界しか知らない。これからも無数の『球』に囲まれて生きていくのだろう。


 ちなみに、『死の運命』は変えることが出来る。それも割りと簡単に。以前、駅のホームで点滅の『球』を持つ老婆に出くわした事がある。目が不自由なのか、ふらふら杖をつきながらと危ない足取りでホームの縁を歩いていたので、声をかけ、手を取って黄色い線の内側まで連れて行った。特急の電車が通過する頃には彼女の『球』は青に変わっていた。


 もちろん、病気の人や寿命の人など、どうしても覆せない運命にとらわれた人もいるが、ちょっとしたきっかけで死を回避出来る人間が、世の中にはたくさんいる。


 そんな特別な力を持つ春樹だが、彼には人々を救おうだとか、世界をより良くしようといった高尚な精神までは持ち合わせていない。彼がこの力を利用するとしたら、点滅の『球』で埋め尽くされた飛行機には乗らないだとか、今日になって『球』を赤に変えたお隣のおじさんに人間ドックを勧めるだとか、この程度のものである。

本人もそれで良いと思っていた。所詮自分は一市民。周りの親しい人間が無事であればそれで十分。

そんな春樹には、かけがえの無い恋人がいる。



 春樹と同期入社の25歳、能山沙羅よしやまさらは明るい女性だ。誰に対しても笑顔で接し、天真爛漫に振舞う。やや男性とは距離を置きたがり、男友達も少ないようだが、社内では男女から人気がある。細身で身長は160cmほど。170cmを僅かに超える春樹より頭ひとつ分ほど下に顔がくる。腰のあたりまで届く程度の長くストレートの黒髪は、その日の気分によってポニーテールにしたり、髪留めを用いてアップにまとめている。色白ですべすべの肌。特別彫が深いわけでは無いが、整った顔立ちは10人に聞けば8~9人は美人と答えるだろう。


 しかし、出会った当初、春樹にとって沙羅は恋愛の対象になることは無かった。何故なら、彼女の『球』が赤く光っていたからである。


何故、そしていつ彼女は死ぬのだろう。入社式の日、春樹は自分にとって非常に好みである女性を見つめながらそう考えていた。健康診断でも特に問題は無かったみたいだし、不幸な事故にでも見舞われるのだろうか。何にせよ、死にゆく女性にアプローチしてもなぁ。


 『人の死』が視える春樹だが、その死因までは視ることが出来ない。四六時中一緒にいて監視するわけにもいかないので、早々に彼女とお近づきになることを諦めていた。同じ部署に配属されたこともあり、話す機会は多かったが、特別気を遣ったり、アピールするような事も無かった。


 社会人になって1年が経つ頃、その彼女が、突然告白をしてきたのは春樹にとってまさに青天の霹靂と言えた。

「私と付き合ってみませんか?」

何より春樹を驚愕させたのは、困惑した顔を彼女に見せた瞬間、沙羅の顔がみるみる内に不安と恐怖に彩られ、目に涙を浮かべた事、そして、頭上の『球』が点滅に変わった事だ。


どういう事だ?

実はこの娘はいわゆる『ヤンデレ』というヤツで、男に振られたショックで自らの命を絶つのだろうか?

浴槽で手首を切るのか?

屋上から飛び降りるのか?


 入社してから今日まで、彼女は1日たりとも会社を休んではいない。風邪など滅多に引かないと本人が自慢げに話していたし、これから病気で死ぬことは考えにくい。突然心不全やクモ膜下出血にでもならない限りは。まさか、不幸な事故が今日これから?


 腕時計で時刻を確認する。今はAM8:25。この会社では、2人の当番が早出をして軽く掃除をした後、フロア内の全端末をたちあげ、さらにサーバのチェックをして業務開始に備えるという慣習がある。今日の当番は自分と沙羅なわけで、都合よく2人きりなわけで、さらに2月14日だったりするわけで。

さらに言えば、男というものは、自分に好意を持ってくれる女の子には滅法弱いわけで、それが部署内で一番の美女ならばなおさら守ってあげたくなるわけで。


 彼女の『ヤンデレ』疑惑はひとまず置いといて、告白されるほど自分に魅力があるのかという疑問もとにかく置いといて。春樹は沙羅の死を回避することにした。


 敢えて告白の返事を保留にし、仕事が終わった後に食事の約束を取り付けた。幸い今日は金曜日。土日は休みなので、少しくらいなら遅い時間まで一緒にいても不自然では無いだろう。というか、なんだかんだ理由をつけて明日の8時半までは一緒にいよう。もちろん、嫌われたくは無いのでいかがわしいことはしない。しかし、それって何気に難易度高くないか?


 などと、色々と考える春樹だが、少なくとも勝算はそれなりにあると踏んでいる。今までの経験上、『死のきっかけ』は、本当にちょっとしたことであることも多く、病気とかで無ければ避けられることも実はかなりある。思春期の頃は、それなりに自分の能力を世間に役立てようと頑張った時期もあり、何人かの命を救ったこともある。もっとも、変人扱いをされたり、トラブルの種になることも多かっため、今では前ほど積極的では無いが、身近な人の死はやはり看過したくない。


 何より、幸運(?)なことに沙羅の『球』は点滅状態にある。つまり、24時間彼女を守り抜けば、死神は去るのである。赤い状態の時よりも、むしろ守りやすい。期限が設けられているのだから。


 愛する女の子を守るため、蔵田春樹の戦いが始まった。

はじめまして。nagonaと申します。

物語はまだ導入部分です。タグやキーワードと内容がまったく一致しませんが、少しずつそれに向かって行く予定です。

拙い文章で恐縮ですが、読んで頂ければ幸いです。宜しくお願いします。

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