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フェデルフィア国物語  作者: 冬永 柳那
2章 出会いを求めて。
7/11

三話目


「あっはっはっは! ほんとにお前はそういう事が多いよな! で、なんだ。その子可愛いのか?」


「笑ってんじゃねーよ……。まあ、十分可愛いと思う。なんか、よく顔を真っ赤にしてるけど」


「ふーーーーーーーん」


「長い。すっげー長いぞ」


メルティアに半ば追い出されたような形で出て行ったレヴィンは、同じような部屋の作りの場所にいた。


部屋の作りが似ているとは言っても、中の雰囲気は全く違う。メルティアの鑑定屋の雰囲気が暗いなら、今レヴィンがいる場所の雰囲気は明るい。対極に位置する雰囲気である。


と言っても、メルティアの部屋が暗すぎるだけで今いる場所が無駄に明るいわけではない。つまり、今いる場所は普通なのだ。


そして、なぜレヴィンがそんな場所にいるかと言うと、先ほどからにやにやと笑う少年に用があったからである。


鮮やかな金色とくすんだ黒色が入り混じった髪を腰まで伸ばし、三つ編みにしている。少々と言うよりもきついと言った方が正しい、鋭さを持ったこの世界ではごくごく一般的な灰色の瞳の少年だ。


その少年とレヴィンは机に向かい合って座り、方やにやにやと笑いながら、方や憮然とした表情でカップの中に入った飲み物を啜っている。


見て分かるように、弄るものと弄られるものの図だ。


「ほんと、いい思いしてるよなお前。俺と何が違うんだ?」


「目つき」


「……それだけは言うなよな……。これの所為で俺の商売あがったりなんだから」


ボソッと繰り出されたレヴィンの一言に、少年はがっくりと項垂れて机に突っ伏してしまう。


その机の周りには薬品の入ったビンの数々とそれを調合するための草やら石やらが入った棚の数々。


商売あがったりと言った少年の職業は薬屋。普通なら商売繁盛間違いなしの安定職なのだが、そうならない訳が少年にはあった。


「眼鏡買えよ。ってか買ってやろうか?」


「良いよ別に。合う物もないし、お前からお金借りたら―――」


「10倍返しでだけどな」


「―――ってなるからなー、絶対。はぁぁーー……」


レヴィンの言葉など聞いていないかのように、少年はため息を吐きながらさらに机に減り込んでいる。


この少年、商売を志しているのにもかかわらず極度の近眼と視力の悪さで目つきがとことん悪いのだ。何を見るにも目を細め、眉間にしわはよりっぱなし。もともと悪めの目つきがさらに悪くなっているのだ。


睨んでいるのかと思われれば、薬を買おうと思ってきている客も買うのを止めるだろう。


目が悪いのなら眼鏡をかけて直せばいいのだが、それを買うための金も貯まらないと言った悪循環が起こっているのである。そして、ある意味で頼りの綱であるレヴィンにも、毎度毎度こうやって言われ続けているのでほとんど諦めているのだ。


「まあまあ、俺は信用して買ってるからさ。カルロ、いつものセット頼む」


「あいよー」


カルロ・ヒュミナス。レヴィンは少年の名前を呼びながら、突っ伏している体をツンツンとつつく。


それに答えるように、カルロは重たい腰を上げながら棚の中を探し、とある紙袋を取り出した。


片手で十分持つ事の出来るほどの小さな紙袋。それを手渡された後、レヴィンはその中身を確認して満足そうに声を上げる。


「ひい、ふう、みい……。うん。いつものだな、サンキュ」


「お前しか定期的に買いに来ないから、そうやってストックできてるんだ。切らすことなんてまずないよ」


「切れるようにする努力をしてみたらどうだ? 笑顔を絶やさずに接客するとか、眼鏡を買うとか」


「前者は努力で何とかなるが、後者は無理だろう。金がない」


「だから買ってやるって言ってるだろ? そんで―――」


「10倍返しなんだろ?」


「―――向こう10年薬代がタダ」


「10しかあってねーじゃねーか!」


机を叩きながら突っ込むカルロ。それを予想していたレヴィンは、カップから飲み物がこぼれるのを防ぐために持ち上げる。


ちなみに、そのカップの中に入っている中身はコーヒー。対して何の変哲もないブラックだ。


「まあまあ、落ち着けよ。今日はこれ以外にも用があって来たんだからな」


「これ以外にも?」


「ああ。ま、用と言うより話と言った方が近いかな。頼んでいた武器職人紹介の件だ」


「あれか。つか、俺に頼むのはおかしな話だとは思ったんだが……」


「暇だろ?」


「……言い返せない事に俺は腹を立てればいいのか?」


拳を握りしめながら、カルロはレヴィンに対してそう問いかける。弱弱しく放たれたその台詞に、レヴィンは一種の罪悪感を感じながらも話を進めるために口を開いた。


「そう気を落とすなって。カルロにしか頼めなかったから頼んだ次第なんだからさ」


「まあ、別にいいけどな。……一応は見つかったぜ? お前の要望通りの奴なんてそうそういなかったから、探すの簡単だった」


「そりゃそうだ。『魔法具を作る事』が専門の武器職人なんてそうはいないさ」


カルロから渡された羊皮紙を手に取りながら、レヴィンはそう言葉を口にする。


数枚に分かれていた紙をペラペラとめくりながらコーヒーを啜る。昼下がりのような雰囲気の中、めくっていた紙の中に書かれていた内容にレヴィンは軽く目を見開いた。


「……ん? これは……」


「どうした? なんか気になる所でもあったのか?」


「カルロ……これってどういう事だ? 名前以外白紙になってるんだが。他は場所とかきっちり書いてるのに」


目を見開く原因となった箇所を差しながら、レヴィンはカルロにそう質問する。


レヴィンが指示した個所に書かれてあったのは本当に名前が一つだけ。『シルベル・ヴェイスティック』。そう書かれているのみだった。


「ああ、それは入れるかどうか迷ったんだけど、噂なんだよ。これを調べてる時に聞いた」


「噂?」


「そ、噂。変な話なんだけどな。なんか、やれどっかの山の頂上に凄腕の武器職人がいて、やれすっげー気難しくて、やれすっげー金取る奴で、でもすっげー物を作るらしくて……みたいなのがゴロゴロと出てきた」


「ふーん」


指を1つ1つ折りこむようにして数えながら、カルロは噂の数々を口にしていく。


真相は定かではないが、それほどまでの事を噂で言われているのだ。いくら尾ひれや胸びれがついていたとしても行ってみる価値はあるだろう。


名前だけが書かれた紙を見ながら、そんな結論に至ったレヴィンは席から立ち上がった。


「どうしたんだレヴィン。まさかそいつに会いに行くってんじゃないよな?」


「そのまさかさ。それだけの噂が立つ武器職人、一度は会ってみたいものだからな」


「場所とかわからねーのにどうするんだよ」


「なんとかなるだろ。山の頂上とか、手掛かりはあるっちゃあるし」


「いや、それって手掛かりって言わねーし」


「大丈夫だって。時間はある―――」


ドーーン!!


「話は聞かせてもらったわ!!」


壊れるのではないかという音を立てながら、部屋につけられた木製の扉が開け放たれる。その音と続けざまに聞こえてきた声に、中にいた少年2人は揃って体を飛び上がらせた。


「うおう! びっくりしたー」


「俺もだ……んあー、お客様? 扉をその様に扱われると……」


「ぷっ! に、似合わねーな、それ……ははは……」


腹を抱えて口を押え、頑張って声を抑えているようだが意味がない。漏れ出る笑い声はカルロには当然聞こえており、浮かべていた営業用の特大のスマイルは簡単に消え去った。


「おい! お前がこうやってみたらって言ったんだろうが! なんで笑うんだ!」


「わ、悪い……悪気はないんだ……でも、ぷぷっ」


「ちっ! 笑いたきゃ笑いやがれ!」


未だに笑いを止める事の出来ていないレヴィンの様子に、カルロは不貞腐れるようにそっぽを向いてしまう。


何とも子供っぽいやり取りを見て、扉を蹴破らんばかりの勢いで入って来た侵入者と一緒に入って来た者から声がかかった。


「ここはいつ来てもうるさい。ってか、あなたたち仲良すぎじゃない?」


「んだよメル。妬いてんのか? かわいい所あるぶぐっ!」


「だまれ低能発情猿。私に話しかけるな」


入って来た者の名はメルティア。見事に話しかけた後にからかって来たカルロの顎に、その細腕からどうやってそんな力が出ているのか分からない威力で、拳をぶち込む。


言葉をぶった切られたカルロは、思いっきり顎を打ち抜かれてそのまま軽く宙を飛んだ。所詮浮き上がった程度だが、それでもメルティアにはそれで十分だった。


変な事を口走る前に、その対象を屠ることが出来たのだから。


「相変わらずカルロには容赦ないな、メルティア。幼馴染なんだろ?」


「幼馴染だからって媚を売る気もない。幼馴染同士が好きあっていて結婚までするなんてありえない。そんなのお釈迦話の中だけで十分」


全く変わらない絶好調の毒の吐きっぷりを聞きながら、レヴィンは呆れているのか諦めているのか、肩を竦めながらその話を終わらせた。


だが、そのメルティアより先に部屋の中に入ったはずの人物は、メルティアより後ろにいながら顔を真っ赤に染めている。それを見たレヴィンは、話が終わるのは随分先だなと悟った。


「け、けけけけ結婚!? そ、そんなぁ……まだ、まだ早いよぉ……///。でも、でもでもでもでも、どうしてもって言うならあたしにも考えが……///」


顔を真っ赤にさせて頬を手で押さえ、体をくねくねとくねらせる赤毛の少女、エイリア。


どこに出しても恥ずかしくない様な整っている顔をしているのに、今この瞬間だけを見れば全員が引く。そして、誰もが同じ感想を抱くだろう。


―――あ、この子痛い子だ―――


そんな事をレヴィン自身も思っており、あからさまなため息を吐いた後にまだ正常なはずのメルティアに話を振った。


「あー……あれはとりあえず放って置いて。どうしたんだ? 態々カルロの所に来るなんて」


「……別に来たくはなかったわよ。ただ、あの子があなたがどこに行ったのか教えろって言うから……」


どこか遠い目で達観した口調をしながらメルティアはレヴィンの言葉に答える。


明らかな現実逃避の図ではあるが、それを言及し問い詰めるほど今のレヴィンに元気はなかった。もとい、興味などない。


首を突っ込みすぎて痛い目を見るのはいつだって自分だから。


「ま、別にどうでも良いけど。それより……エイリア」


「は、はいぃぃ!!」


レヴィンに話しかけられたことにより、思いっきり背筋を伸ばしながら一本の弾かれた棒のように飛び上がるエイリア。


ちなみに、顔は赤くない。


「話を聞いてたようだけど、それだけで態々突っ込んで来たのか?」


そんなリアクションなど気にもかけず、レヴィンはただ簡潔に言葉を発する。


「それだけならいい迷惑だからな。金輪際止めるように」


「いや、いい方法知ってるから来たんだけど……一応……そのぉ……義賊やってて情報には詳しい、から……?」


しどろもどろにぶつぶつと呟きながら、語尾もかすれ気味にエイリアは言葉を口にする。


よほど自信がないのか、それとも後ろめたい事でもあるのか。目線までも横に流しながら答えるエイリアに、レヴィンはキョトンと目を丸くした。


「裏の情報っちゃ情報だけど……でも、信憑性は高いって言うか……あ、でも別に危ない伝手じゃないわよ!? ただ、2年も前の話だから、今もそこにいるかどうかって話で―――」


「……それだけの情報があるんなら、行ってみる価値はありそうだな」


「確かに山の上で女の子が―――へ?」


呟きの間に発せられたレヴィンの言葉に、ぶつぶつと呟き続けていたエイリアはようやく止まる。


ぽかんと口を開けながら、自らの意見が採用されたことを心底驚いているかのようにしながらだが。


「なら行くか。カルロ、一応これは全部貰って行く」


「……おぉ……気ぃつけて行ってこぉい……」


顎を打ち射抜かれて悶絶していたカルロは、未だにそのダメージが抜けきらないのか、床を這うような形で呂律が若干回らない言葉を発してレヴィンを送り出す。


その悪友にも似た半ば専属になってしまっている薬屋の少年の姿を見て、レヴィンは苦笑しながら歩き出す。もちろん、出て行く前にエイリアの肩に手を置くことを忘れない。


呆けきってしまった彼女の目を覚ますのには十分な行為だからだ。


「ほら、行くぜ? 道案内してくれないと」


「って、へ? え? ふぇ?」


「何を変な声を出してるんだ。それにそんなにキョロキョロしない、完全に小動物じゃねーか。……食べるぞ?」


「食べっ―――! ~~~っ///!」


完全にからかっているのだろうが、態々耳元まで近づいて狼狽しきっているエイリアにそんな事を言う必要は無いと思う。


どんなに平静な時でもそんな事を言われて平気な人などいるはずもない。まして、友人に鈍感男と呼ばれる少年に初心と言わせる乙女だ。赤くならない方がおかしい。


だが、乙女は顔を真っ赤にさせながらも、先ほどから引っかかっていたことを聞いた。


「……どうして、アタシの事信じてくれるの?」


「は?」


絞り出されたエイリアのその台詞に、レヴィンは思いっきり分からないと言った疑問の声を上げる。


「アタシって、義賊だよ? 全うな職業じゃないし、そこら辺の盗賊と変わらない。自分のエゴで動く人間の言う事、どうして信じてくれるの?」


エイリアの言う通りである。


『義』と名がついていても所詮は賊。きちんとした誇れる職業であるはずがない。メルティアの鑑定屋やカルロの薬屋に比べたら雲泥の差。尊敬できる職業でもなければ言いふらせる内容でもない。


それを分かっているエイリアは、なぜそんな自分の言う事を信じてくれているのかが不思議で仕方がなかったのだ。


だが、そんな事はこの少年には関係がなかった。


「アンタバカか? いや、アホか?」


「ふぇ?」


がしっと頭一つ小さい身長のエイリアの頭を掴み、レヴィンはそんな風に罵倒する。


いきなり頭を掴まれ、文字通り頭ごなしに罵倒される経験を初めて味わったエイリアは気の抜けた声しか出せなかった。


「義賊だろうがなんだろうが関係ない。それを言い出したら俺はこいつらと違って無職だしな。説得力のあるものなんて何もないよ」


自嘲気味に笑いながら、レヴィンはエイリアの頭を掴んでいた手を緩める。


「ま、それに今は誰に意見でも信じてみる価値はあるってことだ。それに、そんなに急ぎの用でもないからな」


緩めた手でエイリアの頭をポスポスと叩き、そのまま相手の髪の毛が乱れるのも構わず撫でた。


「ちょっ、いきなり何すんの!」


「だから、アンタは何も心配しなくていい。ただ、俺を案内してくれ」


「うぐっ」


撫でられる手から離れようと暴れるが、至近距離にあったその顔にエイリアは二の句が継げなくなる。


ぐうの音も出ないとはこのことを言うのだろうなー。とか心の内で思うエイリアはまっすぐに見つめてくるレヴィンの視線を逸らせなかった。


「わ、分かったわよ。分かったから顔を離して。ち、近い……///」


「こりゃ失敬。なら、早く行こうぜ。対した用事じゃないって言ったけど、ここで時間を浪費しておく必要もないからな」


頭から肩に手をシフトさせながら、レヴィンは外に出るために歩き出す。


そのまま出発と思われたが、丁度2人がすれ違うような形になった時、手のひらをポンと叩きながら思い出すことが少女にはあった。


「あ、結局君に聞いてないじゃない。魔法使いになる方法!」


「ちっ。まだ覚えてたか……」


まるでお使いに出ていた子供が、忘れていた品を思い出したときのような表情をするエイリアに対し、忘れていた品であるメルティアは心底嫌そうに舌打ちした。


全身真っ黒なローブに包まれ、髪も瞳も真っ黒な小さな少女から放たれる舌打ち。中々に破壊力のあるものである。


「覚えてるわよ! アタシには、絶対になる必要があるんだから……絶対に……!」


なにかを堪えるように吐き捨てながら、エイリアは拳を握りしめる。指の関節が白くなるのも構わずに握りこまれる指。


どこか痛々しいその行為に、今まで傍観していたレヴィンは動いた。


「……なら俺が教えてやるよ。俺も、魔法使いだからな」


握りこまれて白くなっていく指を守るように優しくその手で包み込むみながら、レヴィンはそう言った。




感想等々待ってます。


誤字脱字誤変換等の指摘も歓迎。

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