超自意識過剰マイナス思考男
家族や友人の話によると、どうやら俺は度の過ぎた自意識過剰であるとともに、常人の域を脱していると言えるほどのマイナス思考の持ち主であるらしい。
そんなことはないさとずっとそう思ってきた。
しかし、今年に入ってからもかれこれ8回ほど倒れて入院したのだが、それらが全てストレスによるものだというので、ようやくと言うべきか、家族や友人の言っていることは案外的を射ているのかもしれないと、最近はそう思い始めている。
そこでたまには外に出て気分転換でもしようと思い、こうして休日の真っ昼間にぶらぶらと街を歩いてみたりしているわけだ。別に何も計画なしに歩いているわけではない。いや、実は計画はない。だが、何かスカッと出来そうなものがあれば試してみるつもりだ。あくまで前向きなのだ。
え〜ん。え〜ん。
おや?
声のした方を見てみると、木の下で女の子が母親らしき女性の服の袖を引っ張りながら泣いている。対して女性は女の子をなだめようとしながら首を横に振っている。どうしたのだろうかと気にはなるが、まあ俺には関係のないことなのだろう。さあ、気を取り直して歩き出そう。
…いや、待てよ。こ、これはもしや!
あぁ、まずいぞ。どうしよう!きっと昨日俺が帰り道にこの辺りで拾ったコーラ味のチャッカチャップスは、あの女の子のものだったんだ!あぁ、突然必要になったハサミがいざという時に限って見つからない、あのいらだたしさ。さっきまでその店にあったゲームが、よし買おうと思いお金を持って出直してきた時には売り切れになっていた時の、あの失望感!
女の子よ!!欲している物があったはずの場所にない時のあの苦しみは、俺にも痛いほど分かる!!
くっ、しかしどうしたらいい?今すぐ渡すべきなのだろうが、昨日拾ったのは少年時代を懐かしみながらすぐに食べてしまったし。だが、今それを吐き出してはいどうぞと言ったところで気持ち悪がられるだけだということは目に見えている。くそっ、やはりコンビニに走るしか……ん?
よく見てみると、女の子は不定期的に木の上の方を指差しながら泣いている。つられて指された方を見てみると……はは〜ん。何だ、そういうことか。
木には赤い風船が引っかかっていた。つまりあれだ、女の子は今や手の届かぬ所にあるそれを諦めることが出来ず、母親であろう彼女にだだをこねているっていうわけだ。なんてベタベタなシチュエーション。まったく人騒がせな子だ。…でもまあ、よくあることだよな!はっはっは!
…いや、待てよ。こ、これはもしや!
あぁ、まずいぞ。どうしよう!きっと俺が呼吸したことでこの辺りの気流が若干変化し、それが女の子の手から風船が離れるのを助長したんだ!あぁ、うまそうなものが目の前にあるというのに、金がないが故に腹をぐぅぐぅ鳴らして見ていることしか出来ない時の、あの切なさよ!欲しているものが目の前にあるというのに見ていることしか出来ない彼女の苦しみが、俺には分かる!痛いほどに!!
くっ、しかしどうしたものか。突然出て行って取ってあげるなんて照れくさいし、それ以前に木を登る自信がない。あぁなんて、なんて俺は無力なんだ…。
…ん?頭を抱えていて気付かなかったが、どうやらどこからかやって来た父親らしき男性が既に取ってあげたようだ。男性はもう離すんじゃないぞと微笑み、女の子は笑顔でしっかりと風船をその手に持っている。そのまま3人は仲良く商店街へと歩いて行ってしまった。…はぁ。解決したのは良かったが、結局俺は何も出来なかったか。
後悔の渦にもがきながら歩いていると、横から男の声が聞こえてきた。見ると、店であるらしい建物のガラス越しに、液晶画面に映ったニュースキャスターの顔が確認できた。その後すぐにニュースキャスターは画面から引っ込み、代わりに武装した兵隊や、戦車を始めとした兵器の数々が映し出されていく。
…ほう、どうやら例の大国が遂に、テロを行った国に対し攻撃を始めるようだ。うーむ、恐ろしい。だが、俺が生まれ育ったこの国はきっと大丈夫だろう。少なくとも他国に堂々とケンカを売るような真似はしていないはずだ。
…いや、待てよ。そ、そういえば!
あぁ、ま、まずいぞ!何てことだ!思い返せば俺は小学生の時、例の大国のヨウカー・マングー前大統領のことをようかん・まんじゅう大統領と言ってダジャレのネタにしてしまったことがあったじゃないか!もしかしたらそのことを例の大国は盗聴していて、怨みを晴らすために今も着々と準備を進めているのかもしれない!いや、きっとそうだ!!
え、えらいことになったぞ。このままでは俺だけでなく、他の多くの人々まで巻き込んでしまう!
どうしよう…。やはり例の大国に行き、本人に直接謝ったほうがいいのだろうか。そうだ、それがいい。陰で見知らぬ人に自分の悪口を言われた時の何ともいえない悲しさが、俺には分かる。それに、お金と時間を浪費するだけだなどと言っている場合ではないはずだ。
…いやしかし、謝りに行ったところで今さら許されるとは限らない。くそっ、やはり他の人に被害が及ばないような場所まで行き、自分だけがやられるのを待つしかないのか…!?
あれこれ考えている間に再びニュースキャスターが現れ、次のニュースが流れる。画面は変わり、今度は打ち上げ後緩やかな放物線を描きながら落ちていくロケット、そして瓦礫や灰に満ちた荒れ地が映し出されていく。どうやら打ち上げられた今話題のあの国のロケットに欠陥があり、あろうことか最寄りの街に墜落したらしい。被害は甚大だ。
ああ何をやっているんだこの開発チームは。膨大な努力と金を費やした結果がこれなのか。これならその分地球に目を向けた慈善事業でも興した方がよっぽど世の中のためになるじゃないか。 …っと、そういえば終わってしまったことを批判している場合ではなかった。今はこれから起ころうとしている大事件の被害を最小限に抑えることに全力を尽くさねばならないんだ。
…いや、待てよ。こ、これはもしや!
ま、ままままずい、何てこったい!!俺は何て馬鹿な、取り返しのつかないことをしてしまったんだ!
きっと以前実家に帰った時に偶然来ていた伯父に対して俺がよそよそしい態度をとったせいで伯父がへこんでしまいそれが原因で体調を崩しながらも伯父は自分が勤めている機械の部品を製造する工場に根性で出勤しだがしかし作業中に手元を狂わしてしまいしかもそれらの部品がなぜか運悪く検品にひっかからずになんと今話題のあの国に輸出されてしまいさらになんとそのまま今回事故を起こしたロケットの開発チームに送られてしまいそして例のロケットの部品として使われてしまいそれらの部品の欠陥が原因で今回の事故が起きてしまったんだ!
おい、そうなんだろ!?そうなんだな!?誰かそうだと言ってくれ!!いや言わないでくれ!!いや言ってくれ!!いや言ってくれ!!いや岩ないでくれ!!遭難だな!?ソーダと一手くれ!!イヤイワナイデクレ!!胃屋逸手久礼!!Iyai…
目が覚めると俺は白い部屋の白いベッドに横たわっていた。