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「彼方久しぶり。お前どうしてこのチームにいるの?」
彼方とは俺と同じ学年で俺と同じ野球チームに所属していた子。
「そのチームあんま好きじゃなかったし。全然うまくなれなかったし。」
彼方は嫌味ったらしく俺にそう言った。
「まぁ今日はよろしくね。」
彼方はそういって嫌らしく微笑んだ。
何なんだよ一体。
「あ?あれ彼方じゃね?」
キャプテンも彼方に気づいたらしい。
「はい、そうみたいですね。このチームやめたからてっきり
野球もやってないと思っていたのに。」
「んー、意味わかんねぇな。」
キャプテンは俺の頭を叩きながら優しく笑った。
「せいれぇーーーーつ!!!」
審判の声とともに相手のチームと一人ずつ握手を交わした。
「ふんっ」その声に振り返るとその声の主は彼方だった。
「ちょっと集合しろ。」
「おい皆集合!!」
キャプテンの声に皆振り返り急いで走ってきた。
「相手のチームのバッテリーはすごいらしいから気をつけろ。ピッチャーは
ストレートの他にも投げてくる可能性はある。」
俺等のチームは比較的、ピッチャーに変化球は教えない。
小学校のうちに変化球を教えるとやっとのことで綺麗なフォームでストレートが
投げられるようになったのにバラバラな汚いフォームになってしまうから。
「プレイボール。」審判の声と共に試合がはじまるホイッスルが鳴った。
俺たちは後攻だった。ピッチャーはキャプテンだけど
今少し肩を怪我していて無理はさせられないから代理がいる。だけど代理が今日は
不運なことに熱で休みだった。
「陽輔。」
「ぁ、はい。」
「直樹がもう無理そうだったら今日はお前に代わる。お前以外に投げられる
奴が今日はいないから。練習試合だから思いっきったプレイでいいからな。」
俺は5秒ほど口をぽかんと開けた。
「あっはい。分かりました…。」
「ただ…あっちには彼方がいる。彼方がバッターの時には気をつけろ。」
意味がよく分からなかった。俺にとって彼方って何なんだ?
試合は順調に進んでいき今はもう6裏だった。
カキーーーーン
「うわ!!いい当たり!!」
パスッ。俺の声と共に外野の人が思いっきりすべりこんでボールを取った。
「あぁ…。」