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ふたり旅8

その小屋で雨の降る3日間、リアンはひたすら私を求めた。

巫女と王族は体を重ねるほど力が増すという。その血統の濃さにもよるらしいけれど。

私は幸せだったが、同時に想像通りのリアンの手慣れた感じに嫉妬した。

リアンは間違いなく経験を重ねている。


「リアン。雨が止んだから村に戻って水脈をたどるわ。今の私ならできそうな気がする。」


「そう……。」


リアンが長い髪をかきあげながら悩ましげに私を見る。その美しい肢体は惜しげもなく天窓から入る日の光に照らされていた。


ああ。なんて綺麗なんだろう。


「ええええっと。服、着ない?。」


「……ずっと雨ならこうしていられるのに。」


後ろからギュッと抱きしめられて耳にキスされる。


「く、くすぐったいよ、リアン!」


マントを手繰って慌てて自分の体を隠した。リアンの方が綺麗なんてなんだか虚しい。

わたし、あんなことやそんなことも……。

カア~っと耳まで赤くなっているのを感じながら服を身に着ける。さっきからリアンが熱い眼差しでずっと見てるし。


「見ないで、リアン!」


「何をいまさら。君の綺麗な体の隅々まで僕の印しをつければ良かったかな。」


「~~っバカッ!」



*****


外に出たときまぶしい太陽の日がさしていたが辺りはまだ水滴でキラキラと輝いていた。

向こう側には大きな虹がかかっていた。


「なんだか祝福されてるみたい。」


「僕たちを祝福してくれているんだよ。」


「……。」


「ねえ、シリル。知ってる?月の光でできる虹があるんだって。」


「へえ。」


「その虹はどんな願い事でも叶えてくれるって言い伝えがあるんだよ。」


「そうなんだ。ロマンチックね。」


「いつか、君と……。」


「え!?」


つないだ手が急にギュッと握られた。リアンの表情が険しくなる。


「リアン?あれ、村の方向だよね?」


黒い煙が見えたのは間違いなく村の方向だった。



******



「シリル、走って!」


リアンが私の腕をつかんだまま走る。


「ま、待ってリアン!村に戻らなきゃ!……ッ!!きゃあ!」


走れって言ったはずなのにどうして急に止まるのよ!そう思った私の視界には黒い馬のひずめが見えた。だ、誰!?


「リアン。よくやってくれた。褒美をださないとな。」


上から聞こえる偉そうな声の主を探す。大きな黒い馬に乗った精悍な顔の黒髪の青年だった。


「サテアン様……。」


リアンが絞り出すように声を出した。サテアンって、あの?第五王子?


見渡せば数メートル後方に騎馬隊が控えていた。私たちは完全に囲まれている。


「リアン、どういうこと?」


馬の上の青年がふっと笑った。


「私はリアンに君が本物の水の巫女か調べさせていたんだよ。」


「え……。」


「シリル、聞いてくれ!僕は!」


青年はリアンの声を遮るように手のひらくらいの宝石箱をリアンに投げ渡した。箱を開いたリアンはすぐに蓋を閉めると下唇を噛んで口を閉じた。何が入っていたのかしら。


「君には貞淑な妻であってほしいけど、私が手当たり次第に女と寝る訳にもいかないから。リアンのような男を以ってしても2か月もかかったのだから身持ちは堅いのかな?」


「な、何の話?」


リアン、この人、何言ってるの?


「リアンはね、現王が奴隷女に手を付けてできた子なんだ。つまり、王族の血を引く奴隷。水の巫女だって女だ一生処女じゃかわいそうだろ?そういう者の為にこっそり王家はリアンみたいな男を作っておくんだ。巫女専用の男娼って言うべきかな?巫女の間では隠語で「水の巫女マニア」って言っているらしいけど。つまり、リアンは巫女の力を無くすどころか上げてしまう都合のいい存在なんだ。リアンは巫女の間では人気ナンバーワンって聞いてるよ。」


「う、うそ。」


嘘だよね、リアン。

私の体は震えだす。さっきまでの甘い疼きが絶望にかわる。


「リアン、嘘だって言ってよ!」


リアンは何も言わず下を向いている。わ、私は、何をしてしまったの?あ、愛されてるって思って……。


「シリル。こっちに来るんだ。私の妻にしてやろう。」


青年の声が遠くに聞こえるように感じる。


例え、嘘だったとしても良いと思った。でも、他の男の為に私と寝たなんて……。


「サテアン王子、私、行きません。あなたの妻にもなりません。リアンともここでお別れ。サマの村に戻って水を呼びます。」


自分でも立っていれるのが不思議なくらいだった。これが何かの罰だとしてもあの村を救いたい。

そう思っていた私を王子の声が奈落の底へと落とす。


「その必要はない。サマの村は私が焼き討ちをした。行ったところで灰しか残っていないだろう。」


「どうして!」


「どうして?レメの怒りに触れただけでなく、巫女を騙して儀式を強行したんだ!当然の報いだろう!半分逃しただけでも寛大な処置だと思うがね。」


視界がぐらりと揺れて世界が曲がった。


あの少女の声が聞こえる。



お姉ちゃん、さようなら。いっぱい、いっぱい有難う。




そこからは……


倒れる私を支えようとしたリアンの手を払ったところまでしか覚えていない。






次の更新は少し空くと思います。

暗くてすいません。

次回から王宮が舞台になります。

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