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ふたり旅4

結局そのままフォンティーナお姉ちゃんもリアンも戻ってこなかった。やっぱり、あの二人なにかあるのかな。ふたり並ぶと妙にお似合いだし……。

振られた腹いせにリアンが私にくっついてたりして……よりが戻って第五王子と結婚する前に二人で逃げたとか……。


「巫女様。お願いいたします。」


はっ!

ああ。しっかりしなくっちゃ!私!

村人の切実な声で現実に戻される。朝からリアンのことで頭がいっぱいになっちゃて落ち着かない。今は水を引き寄せることだけを考えなくっちゃ!こんなことじゃダメ!集中よ。集中。


朝食を済ませると早速仕事に取り掛かる。まずは村の地形を調べて水の出そうなところに検討をつける作業だ。水の巫女は幼いころから徹底して地形や水脈の勉強をさせられる。私は途中からというのと頭がついていかないのが相まってこの作業が超苦手なのだ。それこそフォンティーナお姉ちゃんなんかサラサラッと図面を仕上げてしまうけどね。私はどちらかというとその後の水寄せの儀式の方が得意だったりする。……頭使わないからね……。


「ここが涸れてしまった井戸ですか?」


「そうです。」


私の悪い頭の知識が合っているなら一番水が残りそうな井戸なのに真っ先に干上がったって村長さんが言ってたな。


「巫女様、そこは……」


覗こうとしたら案内役の男の人に止められた。


「え、と。中を覗きたいんですが。」


「……。」


駄目ってことないよねえ。調べてるんだから……。立ちふさがる男の人にどいてくれるようにゼスチャーすると後ろにいた女の人が膝を落としてうずくまった。


「カレン!」


何事!?と思ったけれど男の人が女の人のところに行ったので私は井戸の中をのぞいた。


……赤い布が底に見える。涸れた井戸に水を戻すためによくおこなわれる御呪おまじないのようなものだ。底がどうなってるか見たいんだけど、邪魔だなあの布……。


「巫女様。すいません。カレンが熱中症のようです。木陰で休ませますのでご一緒にいいですか?」


「え、あ、はい。わかりました。この井戸は詳しく調べたいので後でまたお願いします。」


「……わかりました。あの……明日でよろしいですか?」


「いいですよ。ああ、具合が悪そうですね……私も手を貸します。」


カレンと呼ばれていた女の人は真っ青だった。30過ぎに見える案内役の人は夫婦だったみたいで男の人もその様子を見て心配そうに女の人を抱えていた。


「罰が当たったのよ……。」


「え?」


女の人がそうつぶやいたのをその時は気にも留めていなかった。




******



サマの村は深刻な水不足でその被害は農作物にも及んでいた。食糧不足で主な食糧は砂漠の植物とそこに住む動物の狩りとが中心となっている。見かける子供の腕も痩せ細っていて見るに堪えなかった。


何とかしなくっちゃ。


気持ちは焦っていくばかりで……それなのにリアンのことも気がかりでならなかった。


「シリル、話があるんだ。」


夕方に私の苦悩の種が帰ってきて私を村の外れに誘い出した。なんだか真剣な面持ちだわ。


「ど、どこ行ってたの?帰ってこないかと思った。」


てっきりフォンティーナお姉ちゃんと逃避行したかと思ったわ。ええ、落ち込んでいましたとも!

帰ってきてくれてうれしいくせにふくれっ面の私にリアンが言う。


「シリル。愛してる。僕と一緒に逃げてくれないか?」


「え?」


逃げる?何?以前リアンが悪いことした女の人がリアンを恨んで追っかけてくるのかしら!


「時間がないんだ。後でゆっくり説明するからすぐここを離れよう。」


「駄目よ!このままこの村を見捨てては行けないわ!水が戻らないことにはこの村はつぶれてしまうわ!」


何度も見た光景よ。水の出なくなった土地を離れなくてはならなくなってつぶれていく村や町……。人は流浪してバラバラになって……体力の無い子供は死に絶えることだってある。リアンの怨恨のためにそんなことできるわけないでしょ!


「リアン、あなたもそんな町から来たって言ってたじゃない……だから私の地方回りに感動したって付いてきたんでしょう?」


「……。ここが片付いたら僕と逃げてくれるって誓ってくれる?」


「どうして私がそんな誓い……。」


「シリル、僕のこと好きだよね?」


「へっ!?な、な、な、ななななんで!?」


「わかるよ、ずっと一緒にいたんだから。僕は君だけ。君だけが僕の女神。僕の全部を君に捧げる。だから……お願いだよ。誓ってほしいんだ。」


そ、それって他の水の巫女よりも?他の女の子よりもってこと?


その時私はそれがリアンの気まぐれでもいいと思ってしまった。私はリアンとは結婚するつもりもなかったし、第一リアンはプレイボーイだとしか思っていなかったから。こんな私とずっと一緒に居れるわけがない……リアンが一緒に逃げてくれというなら彼が他の巫女に気が移るまでの間付き合おう。


少しだけの間でもリアンを独占できるならそれでいい。


「いいわ。誓う。ただし、この仕事が終わったらよ……。」


嬉しそうにリアンは笑って……


私は人生で初めての口づけを受けた。




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