変わり果てた王宮4
どんな名前が良いかな。ロイ……リィエンカ……ガイとか強そうでいいかも……。
……気が早いのね、リアン。それに男の子の名前ばっかり。
だって、シリル……。
リアンの声が頭の中で響いた。あの時、リアンは生まれてくる子が「男の子」だって確信していたんだ。
思い起こせば貰って来てた服も全部男の子色だった。それでも生まれてきたルーンは「女の子」。
どうして?
リアンは奴隷だけど現王の息子。その証拠に私の力だって失われていない。それどころか……。
「シリル?」
はっ。いけない。いけない。サテアン王子の話の途中だったわ。
「私腹を肥やしたい貴族たちは秘裏に生まれた自分たちの娘の額に刻印を押していた。それが今の王宮にいる巫女たちだって訳だ。」
「サフィス様はどうしてあそこに?それに……歳をとっていらっしゃるようには思えなかったわ。」
「サフィス様は自分がお産みになった水に浸かってらっしゃるんだ。そうして生きている。この国に水を供給するために。貴族たちはサフィス様が亡くなったことにしてここにサフィス様を閉じ込めたんだ。もちろん閉じ込めれば死ぬと思っていた。」
「ひどい。」
「サフィス様は貴族たちを恨むより皆に水を供給することを選んであそこにいらっしゃるんだ。代わりの巫女が現れるまでと……ずっと。水の巫女が産む水は特別らしい。そのせいか、老いもせず長生きをしてる。貴族たちはサフィス様が生きているなんて思って無い上にその存在も忘れていた。私がここを見つけたのは偶然だったしな。」
「王様にはお知らせしないのですか?」
「あんな?奴隷女に入れあげて国政を引っ掻き回した愚かな男に?」
「リアンのお母様は無理やり奴隷にされてここに連れられてきたのよ!」
「無理やり……ね。まあ、あの村の人身御供だったことは認める。でもあれは魔女だ。愚かな男を地の底に落とした魔女だ。シリル、お前だってあの女の子供の魅力は認めるだろう?アレは魔物なんだ。」
「そんな!」
「あの女は村で男を誑かせて貢がせてたんだ。村の鼻つまみ者さ。村の為だと王宮に連れて行かれる時に「奴隷」としてがいいと言ったのは村長だと聞いた。」
「……。」
「今は熱に浮かされているのだ、シリル。そのうち自ずと見えてくるだろう。あの男の正体も。」
怒りで目がうるんできた。少なくともリアンのお母さんはリアンの為だけに生きていた。リアンだってそう。二人寄り添って生きてきたんだわ。お互いに支え合って。私は巫女の……リアンとリアンのお母さんは美し過ぎて……運命に流されてしまったんだわ。
「リアンの話は止そう。私とてお前と言い争いたい訳じゃない。」
恨めしそうに見ていた私にサテアン王子がバツが悪そうに言った。許してあげるつもりはないけどね!
「サフィス様が死んだと聞いて当時の王は嘆き悲しみ、後を追う様にして一か月後に亡くなった。微かに聞こえる王の訃報を知らせる鐘の音に絶望を感じながらサフィス様はご自分の息子の為、王国の為に衰弱する体を何とか維持しながら水源を守ってこられたのだ。だが、その息子から国は衰退していく。四大貴族は王宮に蔓延り、富と権力を意のままにしてハーレムを作った。王は何人もの妻を迎えては国益を貴族に投じた。だんだんとサフィス様の力が弱って行く中、水を無駄に使い、本物の巫女を失い国の水源は次々と失っていく。それに気づいた貴族たちは慌てて王立の水の巫女の育成施設を作った。……しかし、根本的に本物の水の巫女が居ないのでは話にならんのだ。」
「本物の……巫女。」
「サフィス様を見ただろう?レメ神は美しい女神ではない。初代の王の記述では出会ったときは「平凡ながら愛嬌のある顔」とあった。レメ神は自分に似た娘を使いに出したに違いない。……そもそもフォンテーナのような派手な美女で有るはずがないんだ。あのタペストリーを見たか?あの仰々しい美を追求したレメ神は貴族たちが勝手に奉った虚像。神を冒涜するにもほどがあるだろう?
……シリル。お前なら水源を保って国を助けられる。私は国政を立て直し、多くの民を救いたい。ロクでもない体制を立て直してもう一度水の巫女を迎えたいのだ。」
「民を……。」
「サマの村の件が有ってから急激に大地が渇いてきている。何度もレメ神の使いの巫女を失ったこの国はこのままでは水源を失うだろう。」
サテアン王子の目は本気だった。
この人はこの人なりに国のことを考えているんだ。
そう思うと胸がズキリと痛んだ。