変わり果てた王宮3
サフィス様が眠ったと言うので私はサテアン王子の後ろについて行った。
サテアン王子が連れて行った先はサフィス様のいた部屋のもっと奥で王宮の水源の近い地下室だった。
しとしとと湧き出る泉の淵に私を座らせるとサテアン王子は私に手を入れるように言った。
「どういうつもりなのですか?」
怖いけど、従わせてばかりの人は嫌い。私は手を引っ込めて抵抗する。
「その泉はこの王宮が出来た時にレメが自ら水源を導いたと言われる泉だ。お前がレメの娘なら手を浸せばわかる。」
「……。」
言っていることは分からないけど手を浸せば何かわかるって事かしら……。
恐る恐る手を浸すと手の周りがキラキラと光り出した。な、なに?
「やはり、シリルは本物だったな。お前ならこの腐敗した王国を救える。」
サテアン王子がキラキラした目で私を見てきた。そ、そんな目で見たって無駄よ。な、なんだっていうのかしら。ちょ、ちょっと!
サテアン王子は感極まった様子で私を抱きしめた。き、きつい……。
私がジタバタ抵抗するのも一向に気にしないサテアン王子は私を再び泉に座らせた。後ろから抱きしめた形で座らせようとしたけど、サテアン王子に抱かれながら座るなんて冗談じゃないわ!もがいて腕から脱出した私はサテアン王子と間を空けて向き合った。
「ふっ。嫌われたものだな。しかし、シリル。私にはお前が必要なんだよ。」
「どうして、私なの!?他にも巫女はいる筈でしょう?」
「他の巫女?知らないのか?シリル。王宮に居る巫女はサフィス様しか本物じゃない。」
「それは……。」
リアンも言ってたけど。
「私が成人したころから泉の水が滞ることが何度か起きた。不審に思って調べたらサフィス様を見つけた。」
「え!?」
「サフィス様は水源を守るためだけにあそこに居られるんだ。表向きには亡くなったとされている。父も祖父も知らない。初めは公開しようかと思ったが出来なかった。……四大貴族が絡んでいた。」
「四大貴族?……それって確か、レメの……」
「ふん。リアンが教えたか。そうだ。その四大貴族は自分たちの娘が生まれると額に刻印をついて王宮に上がらせていたんだ。元々水の巫女は一代で一人しか生まれない。王の伴侶となる水の巫女は一人しかいない。第一王子のサヌウのところに子供が生まれた4年前、星読みが巫女が産まれると告げた。私はその月に生まれる赤子を調べるように命を出していた。対になる水の巫女が産まれた筈だった。」
「それが……サマの村……。」
「そうだ。しかし、よりにもよって巫女である赤子は死んだ。この国の始まり、レメ神は初代王のことを愛した故にこの地に水を与えた。長らく連れ添ったが人間は神と比べて短命で初代王は死に際にその息子たちも繁栄するようにレメに願った。レメ神は初代王を失って悲しみの中この地を去る時、王になった息子に巫女を授ける約束をした。そして自分への愛を忘れないないよう遣わした娘を妻とするようにした。それが「水の巫女」。その姿を見れば王族の血が身の内を震わせて一目で恋に落ちると言う。」
……え、と。そんな熱い視線を寄越されても困ってしまうのよ。
「そ、それはつまり本来水の巫女は王に一人と決まっているということなんですか?」
「そうだ。サフィス様の代まで国王には一人の水の巫女である伴侶しかいなかった。……サフィス様の息子が生まれた時、異変が起き出んだ。初めは偶然だったんだろう。郊外で見つかったレメの祝福を受けた赤子を四大貴族の一つが保護していた。が不慮の事故で赤子は亡くなった。慌てた貴族は次期同じに生まれた自分の娘にレメの刻印を押して王に献上したんだ。」
「それが……。」
「そうだ。それで貴族たちは知ってしまった。額に刻印さえあれば王宮に上がれると。もともと四大貴族の間は親戚関係だ。共謀してことを起こすことは容易かっただろう。そして、うまうまと今でも王宮に蔓延ってこの国を衰退させているんだ。」
「……。巫女が王に一人としたら女の子しか生まれなかったら王族は終わっていたのかしら。」
ふと、自分に照らし合わせてそう口にした。
「馬鹿な。王直系の子供は「男」しか生まれないさ。」
「え……。」
その言葉で私は頭が真っ白になった。