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ふたり旅3

「ここの仕事が終わったら…考えて見てくれないかしら。私と一緒ならあなたに第二夫人の場所を空けてもらえるって。一人じゃ心細いし、なにより私たちなら上手くやっていけると思うの。このまま地方回りしていても老いて行くだけだわ。結婚して力も増した方がより多くの人を救えるのじゃないかしら。」


「え、と。お姉ちゃんとならもちろん安心なんだけど……考えても見たことが無かったから……。」


「輿入れは一ヵ月後なの。ちょうど貴方が水の巫女として一人前になる日になるかもね。私は明日の朝に王都へ立つわ。返事は手紙でもらえるかしら……住所はここに。」


頭のまわらないままフォンティーナお姉ちゃんから住所の書かれたカードを受け取った。

あのころ学院で平民出身は私だけで……学園の汚点とまで言われて身を縮めて暮らしていた。私が水の巫女として保護されたのは12歳の時だった。ド田舎の村で生まれて両親も平凡。妹も二人いた。額のアザは生まれた時からあったけど姉妹のなかでも私だけでだった。田舎者の両親も村の人たちも「おかあちゃんの腹んなかで暴れてうったか?」と笑って茶化される程度のものだった。たまたま王都帰りの旅人に通報されるまでそれが「レメの祝福」だなんて誰も気が付かなかったのだ。そんなポッとでの田舎者が学院で馴染めるわけもなく、当然「あんたまさか王族と結婚するつもりじゃないでしょうね!」とチクチクいじめられ、女のドロドロを目の当たりにして後宮入りを夢見る訳もない。しなびて死のうが地方周りで一生を終えるつもりだったのだ。


私が結婚?


ボンっとリアンの顔が浮んでしまった。


い、いやいやいや、ありえないから!


……うん。なんでリアンが私にくっ付いているのか分ったし、褒め殺しの言葉も「水の巫女マニア」なら納得できる。きっとおかしなフィルターを通して私を見てるんだ。わかってたのにやっぱりそうかって決定付けられるって落ち込むものなのね。ええ、まあ当然といえば当然なんだけど。あんな美男子が私のことを「愛してる」っておかしいもん。いつもは緩んだ顔しかしてないリアンだけど剣の腕は大したものだし、私が数分離れようものならいつも逆ナンされてるもんね。


第五王子サテアン様……第二夫人だって私にしてみれば大した身分だ。


でも。一人前になってすぐに後宮入りなんて……。後宮入りしてからまた地方周りなんて本当にできるのかな……。フォンティーナお姉ちゃんみたいに実績の有る巫女と違って一人前になってからの実績ゼロなんて笑えない……。お姉ちゃんには悪いけど、この話は断ろう……。


いろんなことがグルグル頭の中をまわって……なかなか寝付けなかった私が眠りに付いたのは夜明け前だった。



*****



「フォンティーナと何を話したの?」


朝、洗面所で顔を洗っていると見計らったようにリアンが現れた。


「!お姉ちゃんは正式な水の巫女なのよ!それに年上でしょ!呼び捨てしないで、リアン。」


なに?そのいきなり親しいでした的な発言。


「シリル。目の下にクマが出来てるよ?彼女に何を言われたの?君が何か悩んでる事くらい僕にはすぐわかる。」


「リアン。あなた私の前にも水の巫女に引っ付いて旅してたそうね。黙っていたなんて酷いわ。いい加減ちゃんとした仕事を見つけて落ち着いたほうが良いんじゃない?」


「……。た、確かにそうなんだけど……ごめん。」


「水の巫女マニアもいいけれど、いい加減ぶらぶらしていて良い歳でもないでしょう?そろそろ卒業したらどうかしら?」


「マニア?」


「水の巫女の中じゃあ私は浮いていたからレアものだったでしょうけど、正直フォンテーナお姉ちゃんの後で私と旅するなんて頭がおかしいとしか思えないわ。」


「ちょ、ちょっとまって。他の巫女と君を比べた事なんてないよ!僕の女神は君だけなんだから!」


「その女神にいつも第五王子を勧めていたのは誰かしら?願いかなってフォンティーナお姉ちゃんは第一夫人になるそうよ。」


「えっ!う、嘘だ。」


「嘘なんかついてないわよ。失礼な。」


「……まさか、フォンティーナは君にも後宮入りを勧めたんじゃないだろうね?」


なんかリアンが急に怖い顔になった。なんだ真剣な顔もできるのね。


「だったとしても貴方には願ったり叶ったりでしょ?」


そう言うとリアンは壁をドンと拳で殴った。パラパラと土壁が落ちてくるのを私は目で追ってしまった。だって、リアンの顔が怖すぎて直視できないんだもん。


「君が幸せになるならね……。」


リアンは低い声を残して出て行ってしまった。残された私は呆けてしまった。


だって!


あんな怖いリアンの顔ははじめて見たんだもん!


 その後の食堂にフォンティーナお姉ちゃんとリアンの姿はなかった。干ばつの為に食料が少ないらしく、二人分の食事が減った事で村長が少しほっとしていた。


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