引き裂かれた末は6
一晩中馬の上に乗せられて移動した後、大きな屋敷でサテアン王子は休憩を取ると言った。
サテアン王子は私が逃げるのを警戒しているのか、他の人の手は一切近づけず、自らの手で私を介抱した。
「!」
「滲みたか……。」
裕福な商人の家の豪華な客間に通された私は手枷を不審に見る主人の好奇な目に曝されながらサテアン王子に抱えられてベットに下されていた。サテアン王子は私の擦り傷に塗り薬を塗り込んでいた。素肌を見られて恥ずかしいので止めて欲しい。でも、声を上げると負けた気になるから我慢。我慢。
「サテアン様シリル様のご衣裳の替えをお持ちしました。」
「そこに置け、ユアロ。」
「今、使用人の娘が来ます。」
「体を湯で拭いて着替えさせよ。大切な水の巫女だ。些細な不敬でも首を刎ねると伝えよ。」
「はい。」
「商人が広間でサテアン様をご歓迎したいと。」
「シリルの支度が整ったら行こう。」
そう言うとサテアン王子はベット隣にある椅子に座った。部屋から出る気は無いようだった。
正直、出て行って欲しいけど……そんなものはもう、どうでもいい。
大丈夫。モーサはしっかりしてるしルーンを愛してくれてる。きっとルーンを守ってくれる。お金だっていろんな場所に隠したし、当面は困らないはず……。
自分に言い聞かせないと。ここで折れたらだめだ。
しばらくして使用人らしき女の人が3人やっていた。部屋から出る気のないサテアン王子を気にしながら私の体を拭き始めた。
「お支度が出来ました。」
今まで来ていた服がぼろ切れにしか見えないような服を着せられた。こんな派手な服、よくもまあ、私に着せようと思ったものだ。仕上げにとベールをかけられて私はふてくされたまま立っていた。
「行くぞ。」
シャラリと手首の枷が鳴ったと思うとサテアン王子に腕を引かれる。この人は私をどうするつもりなのだろう。信用されていないのは確かだけど。あれから4年もたっているのに、どうして今更私を捕まえる必要が有ったのだろうか。
美しい広間に現れたサテアン王子にみんなの目が集中する。楽団の音楽がその姿を確認するとしばし止んだ。
「これはこれはサテアン様。こんなむさ苦しい事ろですがどうぞお寛ぎ下さい。」
胸のボタンが苦しそうな主はサテアン王子に媚びるように言うと後ろに居た美女を前に押し出した。
「娘のドッツイです。気に入られましたら連れて帰られても構いません。」
「ドッツイです。次期国王がこんな素敵な方だと思いませんでした。」
その言葉に私はサテアン王子をまじまじと見た。サテアン王子は第五王子だ。ってことは4人は上に王子が居るってことで……。まさか。
目の前の美女に詰め寄って聞きたいところだが、隣の人が怖すぎて聞けない。
屋敷の主は何とか娘を気に入ってもらおうと躍起になっていた。娘の方もサテアン王子が美男子だったので気を良くしたのかお酌に励んでくれていた。おかげで私はサテアン王子の隣に座らされているものの緊張しなくて済んだ。
このまま王宮に連れて帰られたら何が待っているのだろう。この人がリアンを人質に取らず、私の妹を人質に取ったってことはリアンは……。
ブルリと体が震える。
そんな事はない。リアンはきっと生きてる。
でもそしたらきっとルーンに会いに来てくれたんじゃないの?
「……か。」
「えっ!?」
「震えている。寒いのか?」
ほろ酔いに見えるサテアン王子が私に声をかけた。今まで見た一番に機嫌が良く見えるわ。
「いいえ。」
私の返事を聞いたはずなのにサテアン王子は私をマントの中に抱き寄せた。
チラリと見えた美人の顔が不満そうにこちらを見ていた。