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引き裂かれた末は3

「リル!大変だ!ルーンが毒虫に刺された!」


「え!?」


モーサがルーンを抱きかかえてくる。砂漠の毒虫は子供が刺されれると高熱が続く。症状は刺された毒虫の大きさにもよるのだけど。


「傷口は!?」


狼狽えるモーサに尋ねるとモーサが今気づいたようにルーンの腕を差し出す。よほどの慌てようが分かった。とにかく出来ることをしなくちゃ。私はルーンの腕に唇をつけて毒を吸って吐き出す。


「けっこう大きいやつだったんだよ……。」


「落ち着いてモーサ。毒は吸い出したわ。」


なんとかモーサを落ち着かせようと声を吐き出すけど、ルーンの状態は良くなかった。ぐったりしたルーンを横にして出てきた額の汗をぬぐった。息苦しいルーンは薄目を開けて私の手をぎゅっと握った。


「ルーン。大丈夫よ。今、お水をあげるからね。」


水産みをしてルーンに水を含ませる。

高熱も出てきたルーンには水を含むことも困難だった。


「傍におったのに……。気づいた時には……。」


モーサは可愛そうなぐらい落ち込んでいた。以前旅先でも子供が刺されたのを見たことがある。幼いうちは知らないうちに毒虫に触れてしまうことも多い。毒虫は通常ケバケバしい紫色でお尻のところに赤い線が有る、いわゆる「毒もってんぞ!」な虫なので知っていれば触りはしない。性格も大人しく普段はコソコソと岩陰に住んでいるのだ。毒虫に刺されて死んだというのは聞いたことがない。とはいえ、毒性が弱いというわけではなく、自分の子供となると不安で心細い。


「ルーン頑張って。」


小さなルーンに問いかける。今はそれしかできない。


「く、薬をもろうてくる……。」


モーサがそう言って洞窟を出た。苦しそうなルーンを見て居てもたってもいられなかったのだろう。




++++++




「リル……これをルーンに飲ませてやってくれ。」


何時間経ったのだろう。すっかり日が落ちてからモーサが銀色の包みを持ってきて帰ってきた。


「これは?」


「ギムノブの実の粉だよ。譲ってもらったんだ。毒虫の毒に効くらしい。」


「……ありがとう。」


額に汗の粒が残るルーンの体を起こして薬を飲ませた。

数十分経つとみるみるルーンの熱が下がっていった。


「すごいわ。モーサ。良く効く薬ね。」


呼吸が落ち着いたルーンを見てモーサに声をかけたがモーサは黙ったままルーンを眺めていた。

ルーンの看病で気を張っていた私はルーンが落ち着くと途端に睡魔に襲われた。

だから、真夜中にモーサがそっと洞窟を出たのを気づかなかったのだ。



+++++



「あかあさん、おそとにいってもいい?」


かわいらしく首を傾げるルーンに厳しい声で答える。


「駄目よ。昨日まで具合が悪かったのに。もう少し寝てなくちゃ。」


朝起きたルーンは顔色も良くなって絶好調だった。よほどモーサの薬は効くらしい。普通、毒虫に当たった子供は2、3日は微熱が続くのだから。ギムノブの実って凄いのね。


「……けち。」


「ケチじゃないの!もう。今日は外出禁止よ。明日、大丈夫そうだったら泉までは許してあげる。」


「おかあさん、もおさは?」


「あれ?」


そう言えば目が覚めてからモーサの姿が見えない。どこ行ったのかしら。ルーンのこと相当気にしていた様子だったから食べ物でも取りに行ったのかしら。そう考えたのも見当違いでもなく間もなくモーサは山ほどの果物を抱えて帰ってきた。


「どうしたの、それ?」


ビックリしてモーサに問いかけると得意げにモーサがルーンに果物の籠を渡した。果物なんていったい、いくらしたの!?それを、山ほどなんて……。ビックリしている私にモーサはいたずらが見つかった子供のような顔をした。


「あんたには謝った方が良いな。」


「え!?」


「凄い価値だよ。あんたのネックレス。一粒だけでギムノブの実の粉におまけまでついたんだ。ギムノブの実ってのは家一軒買えるくらい高価だってのに!」


「ちょ、ちょっと待って。まさか、ネックレスって……。」


ニヤリとしたモーサが私に宝石が一粒とれたネックレスを手渡した。

これって……サテアン王子がくれたやつ……

も、モーサったら!!


「いいじゃないか。昔の男とも決別できるだろ?あんなものいつまで持ってたってルーンの父親だって気分が悪いだろう。」


得意げなモーサにかける言葉がない。確かに、困ったら売ろうと思ってたんだけど。


「もう。」


悪気のないモーサの言葉に溜息しかでないわ。でも、ふとリアンの言葉がよぎってしまう。

 



 いいかい、シリル。サテアンは君を手に入れるまでは絶対に諦めない。

 このネックレスの宝石は貴重だから売ってはいけないよ。

 人に見せたっていけないんだ。

 もしも、手放したら……君は捕まってしまう。




あの時は大袈裟だとリアンを笑い飛ばした。

貴重なら尚更財産として持っていた方が困ったときに役立つと。

そう諭して土に埋めるのを止めた。


でも、本当にそんなことが起きるなんて思っていなかった。

きっとサテアン王子の隣にはフォンテーナお姉ちゃんがいるはずで。

4年ほどの年月も経っていたからだ。







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