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儚く愛しい時間3

小屋で二人になるとリアンは私のお腹に触りたがり、ルーンはお腹を蹴ってリアンに答えていた。


「ふふ。ルーンはなかなか賢そうだ。」


「リアン、何言ってるの?ルーンはまだお腹の中に居るのに。」


呆れる私にリアンは真顔でいう。


「だってシリル、僕と君の子だもの賢くってかわいいに決まってるよ。ああ、かわいすぎて食べたくなったらどうしよう!」


「……リアン、冗談にきこえない。」


「ねえ、今日は猪肉を分けてもらったんだ。ルーンにいっぱいだべさせなくちゃ!」


「ルーンに、ね。」


「もしかして妬いてくれたの?ルーンにって言わないとシリルは遠慮して沢山食べないんだから。君のママはもっと欲張りになってもいいのに。」


とろけるような笑顔で私を見て愛おしそうにお腹を撫ぜているリアンに見とれてしまう。


「……。私は十分欲張りよ。」


あなたのそばに居られるだけで。


でも、実際問題、赤ちゃんの用品をそろえるのにお金が必要なんだなぁ。

チェーンは壊してとっくに外したけど、あの地味だと思っていたサテアン王子のネックレスが貴重品だとわかって、足がつくことを考えると売ることは出来なかった。どうしてもって時は売らないといけないだろうけど。


「ルーンに産着を用意したいな……。」


ぽつんとこぼれ出た言葉を私は深く考えていなかった。隠れている私たちにとって働くということは危険な事なのに……。リアンに守られ過ぎて幸せだった私はその平和な時間に慣れ過ぎていたのだ。リアンはわたしの言葉をなんでもないように聞き流したようにしていたけど、私の知らないところで色々と動いてくれていたようだった。




******





「シリル。これ。」


数日後、リアンはどこからかブルーの産着やら布おむつを仕入れて来てくれた。


「リアン!うれしい!ありがとう!」


私のスカートを裂いても無理なんだもの、どうしようかと思っていたの。


「村の人がいらなくなったのをくれたんだ。」


「いい人たちね。」


「うん。ここに帰ってきて良かったよ。こんなに良くしてくれるなんて思ってもみなかった。」


「良かったね。」


そういうとリアンは破顔した。その笑顔は反則よ。きっと王宮でのリアンの風当たりはきつかったに違いない。人間として扱われずに……。この村に戻ってリアンの表情はとても明るくなった。もう、まさに輝いてるんだから、なんだか見てる方がむずがゆくなっちゃう……リアンの気持ちが伝染して私もほっこりした気持ちになるわ。


リアンの幸せが私の幸せ……そう感じることができる。



+++++



その日は珍しくリアンが半日も小屋に帰ってこなかった。

……そしてそれを見計らったように村長さんが小屋に現れた。


「えっと、何にもないのですが……。」


干し草の上しかないのでそこに座るように勧めたが村長さんは座らなかった。水産みした水も差し出したが手を付ける様子もない。息が詰まる雰囲気の中で村長さんが二枚の紙を私に見せてきた。


「こ、これは……。」


そこには王宮から逃げ出したという銀髪の美男子が一枚。もう一枚は平凡なピンクの瞳の女が描かれていた。


「ここに描かれてるのはリアンと……アンタだね。」


「……はい。」


「昨日、また家に役人がやってきた。リアンが帰ってきていないかと。帰ってきたら知らせろとね。……知らせたらリアンは殺されてしまうんだろうね?」


「!し、知らせないでください!」


「……リアンの母親はこの村の娘だった。私たちはあの娘を王宮に捧げることで水源を与えてもらったんだ。その恩があるからリアンは守ってやりたい。死んでこの村に帰されたリアンの母親の体はそれは酷い拷問の跡が残っていた。私たちは村を救うために彼女を王宮に売ったことを今となって後悔しているんだよ。」


「え……。」


「知らなかったのかい?君たちが来て数日後にリアンの母親の死体がこの村の近くに届けられたんだ。リアンをイぶりだす目的だろう、ここから離れた場所で20日間柱に張付けられて野ざらしにされていた。リアンは死んでも尚辱めを受ける母親の体を取り返しに行くことを必至で耐えたんだよ。その後、返された死体は丁寧に埋葬させてもらったがね。」


「……。」


「リアンがこんなに執拗に追われているのはアンタのせいじゃないのかい?リアンの母親の件が有ってから随分経つのに一向に王宮は探し出すことを辞めようとしない。それに、賞金ははるかにアンタの方が上だし、リアンの方は書いてないのにアンタの方だけ傷つけないで保護せよとある。」


村長さんの言葉をなかなか私の心が受け付けてくれなかった。心臓の音がうるさ過ぎて上手く理解できそうもない。でも、真実を受け止めないと。ゆっくり息を吐いて……。そう。シリル、あんたなら頑張れるわ。


リアンはお母さんの事など一切私には言わなかった。……きっと言えなかったんだ。

何度もリアンに諭されてたのに能天気な私はもう王宮の追っ手など来ないのではないかと内心思っていたのだ。でも、実際はこんなお尋ね者になっていた。きっとリアンはすべてを知って私をここから出さないようにしていたんだ。


「私たちは村人の命を救ってくれたエミリアの息子を守りたい。……それにはアンタは含まれていない。申し訳ないけど、ここから出て行ってくれないか。」


ハッキリと村長さんに言われた。


「考えさせてください。」


私はルーンを抱えるようにして絞り出すように言葉を口から押し出した。


不安が私の身を暗闇に閉じ込めた気がして……


出て行くときは多少の物は用意すると言って出て行った村長さんの背中が小さくなるまで小屋のドアを閉められずにいた。


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