ふたり旅2
サマの村に着いた時、意外な人物が私を待っていた。
「フォンティーナお姉ちゃん!」
突然の再会に思わず抱きついてしまったけどフォンティーナお姉ちゃんは優しく抱き返してくれた。
「元気にしてた?シリル。近くに寄ってたら貴方らしき人がここに来るって聞いたから……。」
私に顔が見えるようフードを外し、美しい人が私の顔を伺う。その絹糸のような金髪がフードから零れてサラサラと落ちる。久しぶりに見るけどなんて綺麗なんだろう!薄いブルーの瞳はきらきらと水面のように光っている。
「私は元気よ!それだけが取り得だもの!会いにきてくれてうれしい!」
ああ。私の目標フォンティーナお姉ちゃん!綺麗で優しくて水の巫女としても申し分の無い人!
貴族に生まれながら王族との結婚を拒否して困っている地方を回り献身的に巫女の活動を続けている心優しい水の巫女。この人に憧れたからこそ私は平民の出ながらこうやって頑張って来れたんだ。なんてったって水の巫女を養成する学院を主席で卒業した才女。在学中は異端児な私に気遣ってくださって数々のいじめからも助けてもらった。この美貌の心優しき先輩に「卒業後、私と一緒に旅をしましょう」と誘ってもらえた時、どんなに私がうれしかったか誰もわからないでしょうよ!
「あら?貴方は……。」
私を抱きしめてくれていたフォンティーナお姉ちゃんの顔が私の後方を見つめていた。その視線の先には……
「リアン!リアンじゃないの!どうして貴方がシリルといるの?」
眉を思い切りひそめたリアンが立っていた。え?どういうこと?二人は知り合いなの?
リアンに声をかけようとした時、サマの村の村長さんがこちらにやってくるのが見えた。
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二人の関係を聞けないまま出てきた村長さんに迎えられて村長さんの家に一晩宿を借りる事になった。私とフォンティーナお姉ちゃんは1階の客間、リアンはおまけで2階の物置部屋を与えてもらった。荷物を降ろしている間、私は気が気じゃなかった。だって、リアンとお姉ちゃんが知り合いだったなんてリアンから聞いたことも無い。フォンティーナお姉ちゃんの話はリアンに何度も話しているのに……。
「ね、ねえ。どうしてリアンのこと知ってたの?」
「ふふ。シリル、気になってたんだ。何時から彼と一緒に旅してるの?」
「え、と。2ヶ月ほど前から……。」
「そう。じゃあ、その前は私と一緒に旅してたのよ。」
「ええ!」
「用心棒になってくれるって言ってね……。」
「……。」
それって私にも言ってきたよ?「僕のシリルは僕が守ります。」とか訳のわかんないこと言われて……。「貴方に1滴の涙さえ流させない!」って大声で叫びまくるもんだから変態かと思って慌てて逃げたわよ。結局ものすごい速さで追いつかれて強引に付いて来られちゃったけど。
「もう。駄目よ、シリル。彼に気を許しちゃ。実は彼……。」
「彼は?」
「水の巫女マニアなのよ!」
「う、うそ!」
思わず言ってしまった私にフォンティーナお姉ちゃんが止めを刺した。
「本当なのよ。私の前はエレニーにくっついてて、その前はリリーのところにいたそうだもの。あんな美形な人、間違えようもないでしょ?」
あの、馬鹿リアン!そうだったんだ!それもエレニー、リリーにフォンティーナお姉ちゃんとくれば地方回り組みの成績優秀者!しかも美女を狙っていたとは!学園にいる時にそういう人もいるって聞いていたけどホントにいたんだ。なるほどよく考えたらリアンは水の巫女の情報に詳しすぎる。
「でもまあ。シリルは2ヶ月も旅してるなんてすごいわ。よくあんな人と一緒にいれたわね。」
ええ、だって馬鹿な私はほだされて気を許していたんだもの!しかも皆と比べたら私なんてへちゃむくれで手を出す気にもならなかったでしょうよ!きっと水の巫女の生態記録なんか作られてたんだわ!ああ自分が恨めしいと同時に今すぐリアンをとっちめたい!オタク!変態!
「一応リアンを人道に戻すのが私の勤めだと思ってます。」
握り拳で床をプルプル殴った私を見てお姉ちゃんは驚いていた。
「……そう?シリルは優しいのね……それより折り入って話が有るんだけど聞いてくれる?」
「どうかしたの?」
「断っていたのだけど、私の輿入れが決まったの。もともと親と3年で戻る約束をさせられていたのよ。それを2年も引き伸ばしてしまったから……。一般人と結婚したら巫女では無くなってしまうし、王族に嫁げば力も増えて落ち着いたらまた地方を回れるかもしれないから……。」
「誰に嫁ぐの?」
なんとなくそうじゃないかって聞いてみると
「名誉なことなの。第五王子サテアン様の第一夫人にって。」
やっぱり!リアンがいつも勧めてたもん!そんなとこまで皆一緒だったんだ!
「それでね……王宮は怖い所だって聞くでしょう?だから、シリルに一緒に来てくれないかって誘うつもりで来たの。」
「え……?」
リアンに憤慨していた私の頭にお姉ちゃんが後に続けた言葉が入ってくるまで時間がかかってしまった。