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真実と再会と4

「王宮で本物の巫女は現王の祖母のサフィス様だけ。彼女が今の王宮の水源を保っている。彼女より前は後宮も存在しなかったんだ。いつしか貴族たちは「レメの祝福」が利用できると考えたんだろうね。それさえあれば王に娶ってもらえる権利が出来るのだから。水の巫女の学院は単なる地質に詳しいものを養成する所になっている。そのほとんどは4大名門貴族の出身。地方からの出身者……本物の巫女は君だけなんだ。」


……本物の巫女……。

いきなり言われても正直実感がない。

そもそもだからと言ってどうだというのだろう。


「私は……私だわ。リアン。それ以上でも以下でもない。」


「シリル。君は特別なんだ。」


「……リアン。私が人と少し違っていたとしても巫女としても人としても半人前に変わりないわ。私はただの田舎者で……誰かを救うこともできない。今こうしている間もあなたのお母さんを犠牲にしてる。」


それに、私は卑怯者で妊娠をいいことにあなたを手に入れてる。


「……母と僕は互いに枷だったんだ。僕が王族の言うことを聞かないと母が酷い目にあうし、母がそうであると僕が。……母は言ったんだ。王宮から逃げられる時が来れば迷うことなく逃げなさいと。それが親孝行なんだって。だから、君が気に病むことじゃない。」


「……それでも……ごめんなさい。」


リアン。私はずるいの。

こんなことになっても私、今リアンが居てくれてホッとしている。

月の物が来なくてまさかって思ったけど、それ以上にリアンの赤ちゃんがお腹にいることがうれしかった。故郷からも離されてどこに行っても孤独だった私にとって大切な命。フォンはリリアが私の化粧室を使っていたのを知らなくてリリアが残した不浄の始末を私の物だと勘違いしていた。リリアは私のことを馬鹿にしていて平気で私に揃えられていた物もよく失敬していた。気力のなくなっていた私は与えられたものに執着もなかったし、リリアがすることを黙認していたんだけども。


サテアン王子……。今更ながら彼に妊娠がばれていたら恐ろしいことになっていたかもしれない。間違いなくリアンのお母さんの耳を削いだのは彼なのだから。


疲れてうつらうつらしているリアンに水産みをして飲ませる。彼は水を飲み干すと疲れて眠ってしまった。当たり前だ。こんな体で馬車に揺られて移動したのだから。


「ごめんね、リアン。」


私がもっとしっかりしていたらリアンに迷惑かけずに済んだ。早くに気づいていれば拷問も行われなかったのかもしれない。あの時、リアンの言う言葉を信じてすぐに逃げていれば……。


「……ごめんなさい。」


顔色が良くなってきたものの、改めて見てもリアンの状態は良くない。

こんなリアンを残してどこへも行けない……でも、それを良いことにリアンのお母さんを見殺しにしてるんじゃないの?……どうして上手く行かないんだろう。どうしてこんなにリアンに犠牲を払わせないといけないんだろう。


私はリアンに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。私とかかわったばかりに彼は不幸になっているんじゃないかと。でも……。


自分の醜い気持ちがリアンを繋ぎ止めようと必死になってる。


傍に居てほしい。


傍に。


そのために私はなんだってしてしまいそうで……怖い。



+++++



洞窟で数日過ごした私たちはそろそろ移動することにした。フォンティーナお姉ちゃんの用意した道は既にサテアン王子の手が伸びているとリアンが言い張るので違う方角へ進むことにした。私は額の印を隠すために前髪を切り、リアンの髪もくすんだ灰色に染めた。


「リアンの回復力って凄いのね。」


数日たっただけでリアンは歩けるようになっていた。驚く私にリアンが苦笑する。


「本気で言ってるの?シリル。これも君の力なんだよ?何度も言うけれど君は特別なんだ。君が産んだ水を飲んだからだよ?君自身も思い当たる節があるんじゃない?君は女神レメの娘なんだから。」


「……。」


そう言えば、回復が早いって王宮の専属医師にも言われたかな。まあ、リアンの言うことはいちいち大袈裟だけどリアンが早く良くなるならそれで良いわ。


「前髪を切った君もキュートで堪らないよ。他の人に見せたくないな。」


……灰色の髪にしてもその美貌はちっとも衰えないリアンが私の頬にあたっていた髪を指で梳きながらのたまう。いや、一層色気が増したかも。

元気になった途端歯の浮いたセリフが復活したし。でも、自慢の美貌が少しづつ戻ってきて安心したわ。いや、責任なら喜んで取っちゃうけど。私じゃリアンがかわいそうだわ。


「君に情けないとこばっかり見せたね。」


「……。そんなことないよ。」


私はリアンの不幸の上に立っていられているんだもの。


「愛してるよ、シリル。」


臆面なく言えるリアンが怖い。でも、私はただ、真っ赤な顔をして下を向く。


……私も愛してるわ。リアン。……


言葉は浮かんでも唇から洩れることはない。私に言える資格があるのだろうか。

リアンが元気になったらリアンを解放してあげた方がいい。

本当に愛しているなら私と一緒に居ない方がリアンは静かに暮らせるだろう。もう王宮からでたから奴隷だという人もいない。リアンだったら綺麗な女の人もより取り見取りだろう。


ああ、でも。


リアンが下を向いた私の頭にキスを落とす。その優しい感触に涙が出そうだ。


私はその腕に縋るように身を寄せた。

基本「奴隷制度」は王族と有力貴族の間しか使われていない設定です。

長い学院生活でシリルは自分に自信がちっともありません。

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