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真実と再会と3

「リアンのお母さん、まだ来ていないわね。」


何とかリアンを引きずって北門に隠して置かれてあった馬車の小さな荷台に乗せた。


「シリル……。出発しよう。母は……来ない。」


「え、何言ってるのリアン。」


「君が母に会ったとき母は椅子に座っていただろう?」


「ええ。」


「母は僕を産むために王宮から逃げて、僕が10になる歳まで外で隠れて暮らしていたんだ。でも王は母にひどく執着していて、母を探し出し、王宮に連れ戻して北の塔に閉じ込めたんだ。……二度と逃げられないように足の指の骨を全部折ってね。だから母はまともに歩けない。」


「っ!私、知らないでなんてことを!今すぐ北の塔に迎えに行くわ!」


「シリル。馬車を走らせて。母が……きっと追っ手を足止めしてくれる……。君が持ってきてくれた指輪はね、母の形見にするように言われていたものだったんだ。」


「リアン……。」


「シリル。王家も……サテアンにとっても僕たちみたいな奴隷は虫けらみたいなものなんだよ。」


「でも、リアン。貴方のお母さんよ!」


「……君が出来ないなら……。」


リアンが片足で馬車の側面を蹴った。馬車が大きく揺れ、2匹いる馬が一斉に走り出す。


「シリル!手綱を持って!走らせて!」


リアンの声に押し出される。リアンのお母さんが言っていた言葉が甦る「リアンを助けて」「お願いします」と。

やるせない思いに後ろ髪を引かれながら馬車はどんどん王都を離れていった。






*****





「リアン……本当にこれで良かったの?やっぱりここで待ってて。お母さんを助けに行ってくる。」


馬車を隠せるような大きな洞窟を見つけて馬を休ませ、リアンの手当てをした。リアンは首を振る。


「ありがとう。シリル。君の優しい所が大好きなんだ。でも、そうしたら母の想いが無駄になる。それに、君は必ずサテアンに捕まるよ。あの人は愚かな人間じゃない。そうしたら僕たちの子供は確実に闇に葬られる。」


「大丈夫よ。リアン。サテアン王子はフォンティーナお姉ちゃんを第一夫人にするために私を利用しただけなんだから。もう上手く行っただろうから私になんか興味も無くなるわよ。」


「……。それが本当ならサテアンはフォンティーナを許さないだろうね。」


「どういうこと?」


「どうして君がすんなり王宮から出て来れたか分かったよ。フォンティーナが手引きしていたんだね。」


「私は計画を手伝っただけよ。お姉ちゃんが無事にサテアン様の第一夫人になれるように。式の前に入れ替わって私は手配してもらった馬で逃げるの。お金だってほら。」


「はっ。なるほど。レメ神の前で正式に第一夫人になればどんなことが有っても撤回できないのを利用したんだね。フォンティーナはサテアンの第一夫人の座を狙っていたし。」


「お姉ちゃんがふさわしいのは誰が見ても間違いないわ。」


「シリル。君は知った方がいい。君こそがサテアンの望んだ花嫁なんだよ。」


「そ、そんなの可笑しいわ。あの人は他の男の人に私を抱かせたのよ?」


「それはサテアン王子が本当は王の子じゃないからだよ。君本来の力を目覚めさせるのは王直系の血を引いていなければならないからね。彼の血筋では今の半分も力を引き出せなかった筈だ。だから、僕が選ばれた。奴隷だとしても王の血は引いているからね。」


「え……。」


「王宮では誰もが噂している話だよ。黒髪はサテアンだけだしね。」


「……。」


「僕はサテアンの命を受けて、本当の水の巫女を探していたんだ。半年間君たち地方回りのグループは水源を簡単に見つけていた。今までこんなに短期間に見つけたグループは無かった。」


「それって、私がフォンティーナお姉ちゃんにくっついて旅してた時ってこと?」


「そうだよ。だから、僕はその4人をマークしていたんだ。でも、シリルに会ったとき、確かめなくたって君が本物だと分かったよ。」


それって……皆と確認したってことよね……。リアンにとってそれはお仕事でも……私にとっていい話じゃない。


曇った私の顏色を察したのかリアンがバツが悪そうに付け足した。


「シリル。誓って言うけど僕が愛を伴って行為をしたのは君とが初めてだよ。僕は王宮に連れてこられてから王族たちのオモチャだった。命令されたら誰とでも寝たんだ、そうしないと生きて来れなかったから。……ごめん。こんな話不快だよね。」


今度はリアンの表情が曇ってしまった。


「ち、違うの。リアンの過去がどうでもいいのよ。リアンがしたくてしていたことではないのでしょう?私、ちょっと……その……嫉妬してるのよ。」


多分、猛烈に。そして、怒ってる。人を人だとしない扱いをする王宮の人たちに。

私の言葉がうれしかったのかリアンは破顔して私の手を僅かに引いた。その笑顔も腕も十分痛々しい。


「フォンティーナが君を旅に誘ったのは君に不思議な力があることを知っていたからだと思うよ。彼女は人を利用することに長けているんだ。君は彼女をとても慕っていたから信じないかもしれないけどこのまま聞いて。サマの村に居た時、フォンティーナが君を王宮に誘ったのもサテアンに取り入るためだよ。ユアロとは約束していたんだ。「シリルを連れてくれば第一夫人の座はフォンティーナに渡す」とね。」


不満げにフォンティーナお姉ちゃんの話しを聞く私にリアンが続ける。


「君と式で入れ替わってサテアンと結婚の誓いをしてまんまと第一夫人座を獲得したと思ってるんだろうね、フォンティーナは。いくら王子が残忍で有名だったとしても水の巫女は殺さない。そう高をくくっているんだ。でも……。フォンティーナは知らない。自分が水の巫女でないことを。その額の印が貴族の家で秘密に伝わるただの焼き印で出来てることを。」


その言葉に息をのんで私はじっとリアンを見つめる。


今目の前にいるリアンこそ真実だと思ったから。









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