真実と再会と2
「西の屋敷で何不自由なく母親と暮らしているでしょう。」とユアロが言ってなかった?。私って馬鹿だ。ファンティーナお姉ちゃんがリアンのお母さんが北の塔に居るって聞いた時にちょっとおかしいって気づいてもいいのに。
でも、リアンが牢に閉じ込められているなんてこれぽっちも思わなかったんだもの。私を裏切って、報酬もらって……。幸せでいるとばっかり思ってた。でも本当にそうなら牢に閉じ込められてなんかいない。
嫌な予感がする中、地下牢がある場所へと急ぐ。宮殿から離れた北の塔からさらに奥の建物だ。逃げにくいようにか入り口だけが地面から出ている造りになっている。
がむしゃらになって走ってたどり着いたものの、見張りの人をどうやってやり過ごすか全く考えていなかったことに気づく。
……さっきみたいなのはもう無理よね。いくら結婚式で手薄だって言ってもここの警備は外さないだろうし。
どうしようかと様子を伺うと階段の下からは……いびきが聞こえて来ていた。
******
そろそろと下に降りて覗くとそこにはでっぷりとした貫録のあるお腹の男が酒瓶を持って机に突っ伏して寝ていた。
す、凄まじいイビキね。きっとお祝いムードでお酒を飲んで寝てしまったんだわ。
そろり、そろりと男の前を通り過ぎて独房の方へ向かう。一つ一つ木製のドアの小さなのぞき窓を覗いて中を確認しても誰も入ってなかった。リアンはいるのかしら……そう思いながら最奥の最後ののぞき窓を覗いたとき、私は懐かしさよりも小さな悲鳴を上げてしまった。
「……!リアン!」
思わずその名前を口にする。目の前の黒い塊は私が思い描くリアンでは全くなかった。
どうして……
激しい拷問を受けたと思われる多数の傷が痛々しかった。服が黒く見えるのはきっと血液に違いない。ノブのないドアに縋りつきながら私の目からは涙が零れ落ちるだけだ。
私は急いでイビキをかいて寝ている衛兵の元へと戻ると鍵を探した。衛兵は酒瓶の下に鍵を置いていた。
あそこをひっぱると……起きちゃうわよね。ええい、ままよ!
意を決して男のわきの下に手を伸ばして鍵を引っ張った。……と、取れた!
「ん、ん~!?」
鍵を抜いた途端男が身じろいた。ヤ、ヤバイ!とにかくしゃがんで身を隠すけど、下を向けばバレバレだ。バレませんように!ドキドキと祈りながら頭を抱えていると……
グガー。ずずうっ。
先ほどから聞こえていた大きないびきに戻った。
ふー。ビックリした。
そのままそろそろと抜け出すとリアンのいる扉へ急ぐ。六個ついていた鍵を焦りながら一つ一つ試すと3個目でそれは開いた。
「リアン……。」
駆け寄ると一層リアンのひどい状態が確認できた。顏は半分青あざで膨れ上がり美男子の面影もない。
どうして、こんなことに?リアンは任務を無事遂行して褒美をもらっていたはずなのに……。
涙で視界が歪みながらも水産みをするとリアンに手のひらで水を与えた。それに応えてくれた痛々しい唇がわずかに動く。膨れ上がって上手く水が飲めないようで大半をこぼしながらリアンは水を受け取ってくれた。
「シ……リ……ル?」
うつろな目が私を映す。
ああ。私の愛しいリアン!
「そうよ。シリルよ!リアン。」
「……これは……夢なの? シリル。ああ。もう、死んで構わない……。」
「リアン、夢じゃないわ!死んじゃダメ!とにかくここから逃げましょう!私の肩に腕をのせて!」
そうは言うものの、リアンの腕はだらりとしていて……骨が折れているのかもしれない。
「シリル……僕は……奴隷なんだ。ずっと君を騙してた。ごめん。……君に助けてもらう資格なんてないんだよ。ずっと謝りたかったんだ。もう、それだけでいい。僕を置いて……ここから出るんだ。」
「リアン……。」
「シリル……。ああ、お化粧してるんだね……綺麗だ。……僕のことは忘れて……どうか幸せになって。」
伸ばした手はリアンに拒否される。でも、私はこの優しい手を知っている。いつも、いつも私のことを優先で考えてくれていたリアン。ずっと甘えてた。唯一私を甘やかしてくれるこの手に。
「一緒に逃げてくれっていったでしょ?約束は守らなくちゃ。北の門に馬車が手配してあるの。」
「シリル……僕は行けない。僕だけ逃げたら……。」
「お母様のこと?大丈夫。北の門で待ち合わせしてるの。一緒に逃げてくれる。これが証拠よ!この指輪を持って行ってって頼まれたもの!」
そう。私は簡単な打ち合わせをして鍵を渡してきたの。だから、リアン。一緒に逃げて。
指輪をリアンの手に落とすとリアンは驚いたように私を見つめている。
「愛してるって言ったじゃない!リアン、覚悟を決めて。私みたいのを抱いたのはあなたの運の尽きよ!」
「僕は君を騙してたんだよ?」
「理由があったんでしょ!?許してあげる。」
「僕が本当は奴隷でもいいの?」
「私はあなたが必要なの。お腹の子も父親が必要だわ!」
「!! シリル……。本当なの!?」
リアンは真剣な眼差しだった。私は静かに頷く。
私だって必死なの。ホントは心の中でいつもリアンを求めていた。無理だと思ってたから一人で育てるつもりだったけど、傍に居てくれることに越したことはないもの!
「僕の、シリルでしょ?散々言っておいて今更許さないわよ?」
ふらふらと立ち上がったリアンが私に体を預けた。耳元でリアンが言った「泣かせてごめん」と。
まったく、耳元でささやかないで欲しいわ。心臓に悪いから。
心の中でわざと悪態をついていても私はなかなか涙を止めることが出来なかった。
やっとリアン登場です。な、長かった……。