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真実と再会と1

***残酷な描写含みます。


式の当日も晴天だった。と、いってもめったに雨が降らないのだから当たり前だ。

慣れない衣装と化粧を施されて私は控室でフォンと二人きりになる。今日は式場の警備が厳重で宮殿の方は手薄になっている。


「あ……。」


私が発した声でフォンが私を見る。


「どうかなさいましたか?」


「あの……。大事なハンカチを部屋に忘れて来てしまったの。フォンティーナ様にもらった式用の……。取ってきていいかしら。」


取ってきて、と言わないのは急に偉そうに頼みごとが出来ないからだ。悟られては困ってしまう。


「もう時間がありません。サテアン様をお待たせするわけにはいきませんからね。」


「でも、大事なものなんです。あれがないと私緊張してサテアン様にご迷惑をかけるかもしれないわ。」


「……仕方がありませんね。どこに置かれたのですか?私が取ってまいります。もし式の時間になって私が間に合わなかったらリリアが式場まで付き添いますからそのつもりで。」


この時間から私のいた部屋まで往復ではフォンは確実に間に合わない。それが狙いなんだけどね。


「小物入れの二番目の引出です。ごめんなさい。お願いします。」


「承知しました。」


フォンを騙した罪悪感が無いわけではないけれど、彼女もフォンティーナお姉ちゃんが第一夫人の方がうれしいだろう。パタンとフォンが出ていくと見計らったようにフォンティーナお姉ちゃんが入ってきた。私は急いで侍女の服に着替えた。


「じゃあ、お姉ちゃん。お幸せに。」


「ありがとう。シリル。貴方もね。」


短い挨拶をしてお姉ちゃんと別れて北の塔を目指す。お姉ちゃんに見せてもらった宮殿の地図はバッチリ頭に入っている。

急ぎ足で廊下を移動すると今日は結婚式だからか宮殿内の警備は手薄で誰も見当たらない。とにかく急がなくっちゃ。


数分間駆け足で廊下を行くと中央の庭園を出て北の塔を目指した。北の塔は陰気な感じの孤立した塔ですぐにわかった。入り口に衛兵が一人見張りをしている。……どうしようか。


「すいません。西口の警備の人が具合が悪くてこちらの警備の方に来てもらうよう伝言を持ってきたのですが。」


正面切って私が言うと衛兵が私を見つめた。


「……見慣れない顔だな。」


「せ、先月から入ったばかりで……行ってもらわないと、怒られます。」


下を向いてやっとのことで言ったけど、怪しまれてる?どうしよう。やっぱり無理?


「ふん。まあ、ここの警備は王様の道楽みたいなもんだからな。アレが有ってからちょっと過敏になっちまって。所詮奴隷女に入れあげてんだから参っちまう。ああ、行くよ。心配すんな。」


「すいません。」


「?あんた、一緒に行かなくっていいのか?」


え?……どうしよう……考えてなかった。


「ちょっと……お腹の調子が。」


「はあ?そこの右行ったところに厠があるぜ。まったく……先に行くからな。」


「す、すいません!」


勢いよく頭を下げたらスカーフがずれそうだった。危ない危ない。トイレに行くふりをして衛兵が見えなくなったのを確認すると私は塔の螺旋状の階段を登り始めた。


さ、さすがに息がきれる……ハア、ハア。


分厚いドアの前にたどり着くと私はためらいもなく鍵を差してドアを開けた。


ギイ~と鈍い音を立てながらドアは開いて行く。その音を聞きながら私は息を飲んだ。




******




「だれ?」



そこにはこの世の者とは思えない妖精のような可憐な女の人がいた。


彼女はどこかの民族衣装なのか美しいスカーフを顏の周りに幾重にもにも巻いて顎のところで止めていた。一瞬、リアンの母親ではないのかもしれないかと思っちゃうほど若いけれど、でも、髪の色も、顔だちもリアンそっくりだったのだから間違いない。


「私、リアンと以前旅をしていた者でシリルって言います。もしリアンの居所を知っておられたら教えてほしいのですが……。あ、その、一目見るだけでいいんです。揉め事起こしたりしません。ホントに遠くから最後に見たいだけで……。」


「……シリル様?もしかして、水の巫女様の?」


信じられない者を見るようにリアンのお母さんは私を見た。そして美しいその手で私のスカーフをずらしてレメの祝福を確認する。とにかく、ストーカーじゃないってアピールしなくっちゃ。


「あの?」


「シリル様は今日サテアン王子と結婚式ではないの?どうしてこんなところに……。」


言いながらお母さんの手はブルブルと震えていた。私はその顏の造作に見とれて涙がでてしまう。だって、似ているんだもの。


「わ、わたし、元々身代わりだったんです。だから、これからここから去ります。でも、未練がましくって鬱陶しいでしょうがリアンを一目だけ見たくて。」


「それは、リアンを愛してくださったっているって事ですか?」


「あ、あああああの。……う、はい。で、でも、私の気持ちを押し付けるつもりはありません。ホントに。信じてください。」


「いえ、いいえ!そうじゃないんです!シリル様!あの子を、あの子を救ってくださいませんか?こんなこと頼むのは筋違いかもしれません。貴方は水の巫女様ですし、リアンは私の……奴隷の子です。でも、本当にあの子はあなたのことを愛しているんです。……自分の身よりも深く。」


「え……。でも……。」


「リアンが貴方を裏切ったとしたらそれは私のせいです。……私があの子の足枷なのです。これを見たことが?」


そう言ってリアンのお母さんが私に見せたのはあの時、サテアン王子がリアンに渡していた宝石のついた小さな箱だった。リアンのお母さんは私が頷くのを見ると頭に巻いていたスカーフをスルスルと外した。


「……そ、そんな!?」


スカーフが取れたその顔は右耳が削ぎ落とされていた。まだ傷口が生々しく僅かに残る凹凸が削ぎ落した人間の残忍さを物語る。箱の中身は……中身は華奢な耳飾りが付いた人の欠片かけら。私ははっとした。


「まさか……サテアン王子が!?」


リアンのお母さんの目にも涙が浮かんでいた。


「リアンは地下牢に居ます。結婚式が終わればきっとサテアン王子に殺されてしまうでしょう。……お願いです。あの子を。あの子を救ってください。」


私の頭は混乱していた。目の前のリアンそっくりな女の人は涙を流して懇願している。今まで信じていたのはなんだったのか。


リアン、私はなんて愚かなんだろう。


いつだってあなたは私のことを考えてくれていたのに。



「助けに行きます。」



その言葉に堅く私の手を包むように握ったリアンのお母さんは「お願いします」と繰り返して懇願した。

私はこぼれる涙をごしごしと擦ると北の塔を後にした。




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