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それぞれの思い(王宮)2

「フォンティーナ様がいらっしゃったそうですね。」


お姉ちゃんが来てくれた日の夕方にユアロが私の所にやってきた。彼はサテアン王子の乳兄弟でサテアン王子の右腕として働いているらしい。


「私のこと心配して来てくださったのよ。」


「……貴方は少し、人を疑うことを覚えた方が良いですね。」


「え?」


「……いえ。ファンティーナ様は貴方のご学友でしたからお喋りされると気も晴れましょう。婚儀までは貴方を外に出さないようにサテアン様にきつく言われていますしね。」


「ご、ご学友なんて滅相もないですよ!憧れの先輩なんです!素晴らしい人なんですから!」


「そうですか。私には綺麗なお人形さんにしか見えませんがね。貴方の方がよほど素晴らしい。」


「あ、あなたもフォンティーナ様のことをもっとお知りになればそんな事言いませんよ!」


薄い唇から私を褒める言葉が出てきてビックリしちゃった。いきなり何?って感じ。でも、婚儀って……やっぱり決定事項なのかしら。


「ここに来てから浮かない顔ですね。リアンのことがそんなにショックでしたか?」


「……それも、あります。」


「サテアン様は五番目の王子ではありますが、この先この国を担っていく大事な方です。貴方はサテアン様には不可欠な人材なのです。」


「どうして、私なんですか?もっと賢くて綺麗な人はいっぱいいるはずです。」


「フォンティーナ様みたいな?」


「……そうです。彼女こそサテアン様の妻にふさわしい。」


「くくっ。」


「な、なにがおかしいのですか?」


「貴方はご自分の魅力に気づいていらっしゃらないのですね。」


「自分のことはわかっているつもりです。それに、私はここで暮らすより、地方回りを選んだ人間です。サテアン様が私を選んだ方法も気に入りませんし、サマの村を焼き討ちするほどの理由も理解できません。」


「なるほど、あの村のことも気にかかっているのですね。……あまり貴方に余計な情報を入れるなと言われてはいますが、サテアン様への心情を悪くしているならお話ししましょうか。」


「どういうことですか?私が何度も水呼びに失敗したせいでしょう?」


「失敗したのは水源が穢されていたからでしょう?知っててあなたを騙して儀式を行ったのです。あの村はどのみち助かりませんでした。犠牲者を最小限に抑えたのはサテアン様のお慈悲です。本当なら女神レメに村人全員の命を差し出してもおかしくなかったのです。」


「……。」


「あの村には子供を二人持つ夫婦がいましてね。三番目の子供を身ごもった辺りから日照りが続いて村が貧しくなったのでこれではもう一人育てるのは無理だと口減らしをしたんです。」


「そ、それは……。」


それは僻地の村では珍しくない事だった。急に貧しくなった場合、いつも犠牲になるのは幼い命だ。まして、あの夫婦には病気の長男もいた。決して許されない行為だとしてもどうにかして今いる子供だけでも何とかしてやりたいと思う苦渋の決断。悲しい現実。


「それに気づいた長男が両親を非難して家の先にある井戸にその躯を投げ入れたんだそうです。それだけでも水源を穢し、十分罪深い。ですが、それだけじゃなかったんです。産まれたのは女の子で……。」


そこで言葉を切ったユアロは白くて美しいその指で私を指した。いえ、正確には私の額を……。


「貴方と同じ印しを額に付けた子供だったのです。」


「まさか。」


私は青ざめて体中から鳥肌が立つのを感じた。


まさか、


まさか!


「そのまさかですよ。村の救世主ともなったであろうレメの祝福を受けた赤子をよりにもよって殺してしまったのです。」


私の頭は真っ白になった。

30年前に起きたレメの怒りによって一つの都市が壊滅状態になった。その時は私と同じ地方出身の水の巫女が暴漢に襲われて数日後に自殺してしまったのだ。その日からその地に一滴の水も女神レメは差し出さなかった。レメの祝福を持つ娘はレメの娘でもあるという。その怒りは計り知れない。


「いくら無知だったとしても許されることではなかったのです。」


「なんてことを……。」


「サテアン様が早々に焼き討ちされなければ被害は王都周辺にまで広がっていたはずです。あの方は言葉少ないので誤解されやすいのです。貴方にはサテアン様を支えていただきたい。」


ユアロの言葉が遠くに感じた。


レメの怒りを受けた村を救えるはずもなかったのだ。


でも、誰が悪いというのだろう。


やるせない思いが胸に突き刺さる。


この地の絶対的存在の女神「レメ」……。


でも……


それでも……


レメ様、このちっぽけな私もあなたの娘だと言ってくださるなら


……私は一人でも多くの命を救いたかったです。







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