鏡に照らされる庭
城内、中庭。
鏡光照らす、花壇の前で――
「主様は、お優しい方だ」
そう言ってから、鼠は一拍、間を置いた。
「咲かない花に、なぜ……水を与えるのですか?」
「鼠よ」
「咲く必要はない。
先を残すから、不完全になる」
「はぁ……」
鼠は、わずかに首を傾げた。
「……未来は、余計なものだと?」
「私のような凡獣は、一瞬の美しさに
つい心を奪われてしまいますがね」
「相も変わらず、命知らずだな」
主は淡々と言った。
「だが、お前の言葉も矛盾しているな」
「……ひひっ」
鼠は小さく笑った。
「しかし、私の目には――
ラナ様は、まるで満開の花のように映りますが」
「ははっ!」
乾いた笑いが、響く。
「お前は何を見ている」
「え……?」
「あれはもう、咲くことはない」
「そして、枯れることもな」
「……なるほど」
「私のような愚か者には、難しい話です」
そう言って、再び深く頭を下げる。その背中は、従順そのものだった。
「――ですが」
鼠は、独り言のように呟いた。
「あの娘は、ラナ様とは違います」
「完全に、壊れますよ」
「それもまた、一興」
「あの娘を欲しているのは、万華鏡だ。私の知るところではない」
「……本当に、そうですか?」
鼠は静かに応えた。
「アレが、"あの"名前を与えるということは――」
男は、もう答えなかった。
人の形をした鼠の身体。その毛並みが、どこか薄汚く垂れていた。




