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鏡像調律
その部屋には、
鍵のついた巨大な箱があった。
おもちゃ箱のようにも見えるし、
オルゴールにも見える。
影は静かに、歯車に触れていた。
優しいはずの旋律が、
何度も、同じ場所を踏み外して反復される。
――箱の中。
カナタは膝を抱え、鏡に囲まれていた。
壁という壁に、鏡が並んでいる。
大小、高さも角度も揃っていない。
どれもが、カナタを映していた。
銀色の髪。黒いドレス。
城に来る前の、黒髪に、制服の自分。
なんだかわからないものまで……。
(お願い……ここから出して!)
声は、どこにも届かなかった。
いや。カナタにはもう、
声はなかった。
<<<有栖>>>
どこかから、音を持たない複雑な色合いが差し込んだ。
<<<それを、放しなさい>>>
鏡の一つに、ぬいぐるみを抱えたカナタが映っていた。
剣を背負った、黒猫のぬいぐるみ……。
一度、白兎に捨てられたはずのモノ。
(私は、そんな名前じゃない――)
その瞬間、
鏡のいくつかが、同時に揺れた。
抱かれていないはずのぬいぐるみが、
すべての像で、同じ位置に現れる。
箱の中が、異様なほど明るくなった。
影が、箱の縁から流れ出す。
次々と入り込み、
何かを抑え込むように、
溢れかけた輪郭を、黒く塗りつぶした。




