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欠け、満ちる者たち

 城の広間。

 その壁際に――それは並んでいた。


 犬、鹿。

 兎、狐、鳥……。


 いずれも動物の姿。

 目は伏せられ、

 同じ向き、同じ角度。

 鎖も拘束具も見当たらないのに、誰一人として動かない。


 虚ろな目で、人のように呼吸だけをしていた。



「欠け、満ちる者たちよ」



 低く、冷たい声。

 男は、ゆっくりと歩いてきた。


 黒い外套。無駄のない所作。

 そして――不気味な白い仮面。


 彼の声が響いた瞬間。

 動物たちの瞳に、静かに灯がともった。



 次の瞬間。



「……おい!白兎。踏むんじゃねえよ」


 しゃがれた声。その主は、犬だった。


「あぁ。あまりに短足だから、見えませんでしたよ」


「なに……?足はお前の方が短いだろうが……!」



「静粛に」



 男の一言で、空気が変わる。

 動物たちは、びっと背筋を伸ばした。



「……白兎。例の娘は?」



 男は玉座に腰を下ろし、月白のカップを手に取る。


 淡い紫。

 ―—とある国の伝承の花。

 悠久の月を象った、散ることのない架空の花の模様が、静かに浮かんでいた。


 列の中から、白い毛玉がいそいそと前に出る。


「現在、"鏡像調律"の最中です。もう少し、でしょう」

「そうか」


「壊れぬよう、ほどほどにな」

「……主様。よく言いなさる」


 そう言って、白兎はにたりと笑った。

 そして、くるりと主に背を向ける。


「しかし……もったいない。あの娘、かなりの器量良しですよ。

 ラナ様にでも育てさせて、嫁にでも娶ったらどうです?」


 ふと思付いたように、口にする。

 そして、白兎は振り返り、わざとらしい笑みを浮かべた。


「……」


 男は答えない。


 一瞬、空気が異様に張り詰める。


「――白兎。私に逆らうつもりか?」


「えっ?」


 男はカップを置くと、

 そっと手をかざした。


 その指先に、不穏な気配を纏い始める。


「ひ、ひぃっ……!じょ、冗談ですって!」


 動物達も、明らかな動揺を見せた。


「……そんなに気に入ったのなら、攫って行くといい。

 本当に、"お前に出来れば"、だがな」


 そうして、男は広間を後にした。

 空気が一気に弛緩する。



「命拾いしたわね」


「ら、ラナ様……!」


 その時。

 現れたのは、ローブ姿の女性だった。

 不自然なほど美しい髪。すらりとした体型が、妙に艶かしい。

 だが、瞳はどこか冷たい。


「こいつ、ラナ様の悪口言ってましたよ」

 犬が、告げ口をした。


「あら。そうなの、ワンちゃん?」

「私は、そんなこと気にしないわよ」


「……相変わらず、お美しい。心までも」


 犬は膝をつくと、敬礼して見せた。



 ラナは犬を一瞥すると……


 白兎の前に立ち、ほんの一瞬だけ足を止めた。



「うっ……あいたたっ……!? ら、ラナ様……?」



「あら、失礼」


 彼女は最後に、白兎の足を踏んでいった。


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