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暗い城を歩く

数日後。


白兎は、何も言わずに歩き出した。


手にしたランタンが、小さく揺れる。

その淡い光だけが、暗い通路を切り取っていた。


カナタは、少し遅れてその後を追った。


足音はどこか曖昧で、城の廊下はどこまでも静かだった。


石で組まれているはずの壁は、一定の距離ごとに、わずかに歪んでいる。

まるで、別々の断面を無理やり繋ぎ合わせたみたいだった。


同じ模様は、二度と続かない。


天井には窓がなく、それでも、完全な暗闇ではなかった。

ランタンの光とは別に、淡い色が、空間に広がっている。


幻想的な紫。

冷たい青が滲んでいる。

割れたガラスのような銀が、鏡もなく反射していた。


どれも混ざらず、それぞれが、どこか遠い光のように見えた。


(……どこから、光ってるんだろう)


考えようとして、やめた。

その色は、カナタにはまだ遠かった。


白兎は振り返らない。

淡々と、ただ歩く。


廊下の途中で、黒い影たちとすれ違った。


住人――なのだろうか。


誰もが無言で、

どこか嘘くさい動作を繰り返している。


床を磨く者や、

空の皿を運ぶ者。

壁の前で、何かを消すように手を動かしている者もいた。


誰一人、こちらを見なかった。



「……怖いか?」


「!」


「だが、お前の未来は、決まっちゃいない。

万華鏡は……気まぐれなのさ」


「くくっ……」


何がおかしいのか、白兎は小さく肩を震わせた。



「私は、どうなるの?」


「――卒業も、未来の彼氏も、外の世界との再会も、

やってこないことだけは……

確かだな」


カナタの指先に、少しだけ力が入った。


ここに来てから、何度も脱走は試みた。

だが、この迷宮のような城を抜け出すことは、到底不可能だった。


それきり、白兎は何も言わなかった。


しばらく歩くと、

廊下の壁に、四角い何かが並び始めた。


額縁。

絵……だろうか。


ランタンの光が届く範囲では、

輪郭しか分からない。


カナタは、足を止めかけた。


理由はない。

ただ、壁の方から視線を感じた気がした。


ぼんやりとした――「気配」としか言えない何か。



「……白兎、さん」


「ん?」


「私はここから、帰りたい。でも――」


「ふん。お優しいこったな」


「だが、"さん"は止めろ。虫唾が走る。お前、俺に"何をされたか"

覚えてるのか?」


カナタは、返事はしなかった。


白兎は、懐から葉巻を取り出した。

火を点ける仕草だけして、

それを、カナタの視界の端にちらつかせた。



「……どういうつもりだ?」



白兎の冷たい声が、暗い廊下に響いた。



二人を、影だけが見つめていた。

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