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絵本と万華鏡

 ―—残華の儀、当日。


 カナタはぬいぐるみを抱いたまま、

 動かなかった。瞳は乾き、呼吸だけがそこにあった。


「もう、空っぽだな」

 冷めた声で犬が言い、少女の首を乱暴に掴んだ。


 反応はない。


 仮面の男が、何かを口にする


 一瞬。

 動じないはずの、

 少女の瞳に、恐怖が差した。


 華奢な肩が震える。



 そのときだった。



 白兎が一歩、前に出た。


 懐が鈍く光る。


 無言で……城の床を、一気に駆けた。



 トトトッ。



 軽快な足音。



 ――次の瞬間。




 白兎の視界が、反転していた。


 薔薇のような、赤が散る。



「やはり……裏切ったか」



「さらばだ。白兎よ」



(あぁ……)



(これが、最後の景色か)



 白兎の視界には、

 作り物の様に並ぶ動物達。

 そして、人形のようなカナタが映っていた。



(哀れなやつらだ)



 全員揃って、な。








 ――いや。



 彼は、笑った。



 少女の腕の中。

 黒猫のぬいぐるみが光を帯びていた。


「まさか……!?」


 慌てて振り返る、仮面の男。


 ぬいぐるみが裂け——何かが現れる。


 それは、絵本だった。



「あ、主様!」


 犬が慌てて、剣を取った。

 他の動物達も、一斉に動き出す。



「——貴様、一体……」



 剣士は、最初からそこにいたかのように立っていた。

 小さな背。

 黒い毛並み。

 剣を背負った、猫。


「そこまでだ」


「少女を解放しろ」


 黒猫は静かな声で、呟く。


「ははっ……!何をぬかすかと思えば」

「それは不可能だな」


「なぜ?」


「私と万華鏡は、既に一体。解放する意味がない」


「そうか」


 背から不釣り合いな大剣を抜くと、それを構えた。


「――愚かな。この城で私に勝てるとでも?」



 男がまた、腕を構える。

 色彩が、

 まるで不吉そのもの様に、黒猫の剣士を包み込む。


「消えろ」


 瞬間。

 黒猫の姿は、色に消えた。


「ははっ、バカなやつだ!この城で、主様に逆らうとはな」


 誰かが言った。


 だが、その時だった。



「……ねこの、けんし——」



 虚ろな瞳の少女が、呟いた。




「……るな……」 



「まけ……るな……」




「ねこの、けんし!!!」



 その時。

 城内が、まばゆい光に満ちた。


 少女ではない。

 気づくと、そこには、「ねこのけんし」がいた。


「なっ……!?」


 仮面の男。

 動物たちまでもが、たじろいだ。



「ありがとう。またボクの名前を、"読んで"くれて」



 静かでいて、少年のような声。



「き、貴様……一体……」



「ボクは寓話のヒーローだ。

 信じられる限り、お前には消せない」


 ねこのけんしは、剣を構えた。


 静かに地を蹴り――くるりと身を反転。

 気づくともう、

 男の胸に刃が突き刺さっていた。


 ねこのけんしは、

 濃い不穏に包まれていた。だが、彼が消えることはもうなかった。



「ば、かな。なぜ……」


「まだ、わからないか?」


 その時だった。

 ラナが現れた。


「――絵本は、更新され続ける……」

「解釈で、その意味を変え続ける存在……」


 赤い血が、ローブを穢している。



「……その像は……」



「ら、ラナ様!?」


「ふっ……私としたことが」


 彼女は、白兎の残骸に目をやった。




「私達の、負けです。主様」

「……!」


「ふざけるな! 私はまだ――」



 世界の崩壊が始まる。




<<< ゆるさない >>>



 その時だった。

 どこかから、崩壊しかけた、ひどく不安定な色が差し込んだ。


「来たか」


 ねこのけんしは、天井を見上げた。




<<< 有栖を、置いていけ >>>



「お前の物語を、閉じてやる——来い、"万華鏡"」

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