10/13
白兎の手帳、二つの瞳
白兎の手帳は、最後の頁で止まっていた。
文字は滲み、ところどころ掠れている。
「次の俺へ。
もし迷ったら、その子を逃がせ」
それだけだった。
署名も、理由もない。
白兎はそれを読んで、
――自分の字だと、なぜか分からなかった。
***
「あら、どうしたの。白兎——こんな夜分遅くに」
「……」
紫に染められた寝室。大きなベッド。
レースの奥で、黒い形が見えた。
横になっているラナの肌を、無言で解している名もない影たち。
それは、はっきりと不気味だった。
「はぁ……力が抜けるわ」
うっとりとした声を漏らすラナ。
「相変わらず、趣味が悪いですね」
白兎は呟く。
「それで、何の用? "また"、私を口説きに来たの?」
ラナがさらりと言う。
「そうかもしれませんね」
「あら……」
白兎の指が、その細い肩に、そっと触れた。
「貴方も、命知らずね」
「そうですか?」
ラナは、氷の様な瞳で、目の前の男を眺めていた。
全てを見透かすように。
白兎の瞳。
その奥は、さらに、冷たく澄んでいた。




