46、第三の花婿介添人①
現代の現実世界では花婿介添人は既婚未婚も性別も問わないそうですが、この北部連邦では、花婿介添人は未婚の男性と決まっております。
結婚式にモリーの花嫁介添人を務めるのは、メグ、ダイアナ、アンの三人に決まっていた。
一方、ハワード卿の花婿介添人は、シェーンとイー・リューは確定していたが、もう一人が決まっていなかった。聖騎士団員は基本的に早く結婚することが多い。そのため、適当な独身男性がいなかったのだ。
「我は一足先に結婚してしまったので、この件では力になれそうにない。申し訳ないことだが」
ハワード卿が薔薇荘の壁紙を貼るのを手伝いながら、オシアンがそう言った。
「いいえ、むしろオシアン公には壁紙を貼るのを手伝って頂き、恐れ多いくらいです」
人間形態になるとハワード卿よりも背の高いオシアンは、その身分からは信じられないほど手際良く、壁紙を貼りながら笑った。
「そう畏まる必要もない。ハワード卿も間もなく我が甥の一人となるのだから。それに、我も成り上がるまではごく普通の若者だった」
オシアンはそれ以上は何も言わず、楽しそうに壁紙を貼っていたが、ハワード卿は、彼がどのように成り上がったのか、知っていた。
何故なら、オシアンが当時の主だった粉屋の三男を侯爵に仕立て上げ、当時の王の娘と結婚させた後、並みいる競争相手を王位継承争いから脱落させて、主を即位させることに成功した話は有名なお伽噺になっているからだ(但し実際には長靴は履いていなかったらしい)。
新王によって公爵に引き立てられたオシアンは猫の額ほどの領地をもらい、そこで薬草や新種の作物の試験栽培を始めた。当時の猫型妖精の王の崩御が近いことを知っていた彼は、王位継承争いに名乗りを上げるつもりだったので、人間の国での栄華は求めていなかった。
その後、新たな猫型妖精の王となった彼は、その美貌にも関わらず数百年もの間、独身を貫いた。そのため昨年の秋までなら花婿介添人になる資格はあったのだが、昨年冬に状況が変わった。
片恋が実り、ようやく愛する女性と結ばれたのだ。
「君がこれから信頼関係を結ぶべきだと思う男に、一応知らせは送っておいたのだが、どうなることやら」
ハワード卿も苦笑した。オシアンが誰に手紙を送ったのか、察したからだ。
オシアンの妹と人間の男性の間に生まれ、現在は州連合の連合捜査局次長の地位にある、アーセン・ルブラン氏。州連合南西部のエリザベスタウンにおける大規模討伐戦では協力し合い、州連合と北部連邦の国境にある町ニューシャーウッドで起こった虎騒動の後は、苦境に立たされた特殊能力持ちの男を彼に引き取ってもらったのだが、いまひとつ、充分な関係を結べているとは言い難い。
それは、エリザベスタウンでの作戦終了後、アーセン氏がヒルダに対して、モリーとの結婚を前提とした交際の許可を取りに来た場に、ハワード卿も居合わせてしまったせいだった。
「とりあえず、明日には来るだろう。甥も妖精の輪は使えるのでね」
話し合ってみれば気は合うはずだ、とオシアンは言ったが、何となく気まずいな、とハワード卿は思った。
* *
「お元気そうで何よりですよ、ハワード卿」
オシアンの読みは的中し、アーセン氏はその日の朝に聖騎士団本部にやって来た。
「アーセン殿、ようこそ聖騎士団本部へ」
銀色のロビンからの報せを受けて魔法玄関で待っていたハワード卿は、少し緊張していた。
一方のアーセン氏は、どこか飄々とした笑顔で、ハワード卿に手を差し出した。
「伯父からの便りによれば近々、我が従妹殿と結婚するそうですね。おめでとうございます、ハワード卿」
確かにモリーの伯母ヒルダとアーセン氏の伯父オシアンは夫婦なのだから、モリーはアーセン氏の従妹といえなくもないのだろうが……。そう呼ばれると少々苛つくのは何故だろう、とハワード卿は思った。
「伯父からは、ハワード卿を我らが親族としてお迎えするにあたり、最も歳の近い私に花婿介添人を務めるように言いつかりました。でも――」
アーセン氏は、ハワード卿の目を覗き込んで、にやりと笑った。
「ハワード卿は、私を警戒しておいででしょう?」
ハワード卿は背筋が薄ら寒くなるのを感じた。
言葉に詰まるハワード卿に対し、アーセン氏は笑みを崩さなかった。
「隠さなくても大丈夫ですよ。無理もないかと思いますよ。私が以前、伯母に我が従妹殿との結婚を前提に交際を申し込もうとした時、その場にハワード卿もいらしたのですからね」
アーセン氏は、猫がネズミを嬲る時のような笑顔で、ハワード卿に向かって一歩踏み出した。
「ご心配なく。ハワード卿には先日、有能な人材を紹介して頂いた恩もある。……それに、私は貴方に対しても強く惹かれているのですよ。稀に見る魂の輝きですからね」
「失礼、ハワード卿から離れて頂けますか?」
ハワード卿とアーセン氏の間に割って入ったのは、偶然通りかかったシェーンだった。
「おや、これはこれは。お初にお目にかかります」
アーセン氏は手を胸に当て、シェーンに向かって優雅に一礼した。
「力ある御方とお見受けいたします。私は州連合捜査局次長アーセン・ルブランと申します。どうかお見知りおきを」
シェーンは険しい眼差しをアーセン氏に向けたまま、その手を取ろうとはしない。仕方なくハワード卿はシェーンにアーセン氏を紹介した。
「シェーン殿、こちらのアーセン殿は、オシアン公の甥御で、今度の私の結婚式で三人目の花婿介添人を務めてくださるそうです。アーセン殿、こちらはシェーン・マール殿、花婿介添人のリーダーです」
アーセン氏は面白そうな顔でシェーンを見つめると、何やら満足げに頷いた。
「ところで、もう一人の花婿介添人もここに呼んで頂けますか?」
「聖騎士団本部所属、二級守護者イー・リュー。お呼びと伺い、参上いたしました」
イー・リューが魔法玄関にやって来たので、ハワード卿はアーセン氏にイー・リューを紹介した。
アーセン氏は愉快そうに笑った。
「なるほど、申し分のないメンバーですね。では本題に入りましょうか。私は他のお二方と違い、ハワード卿とはまだ浅いお付き合いではありますが、今後とも親族として良い関係を築いていきたいと思っています。そこで是非このアーセン・ルブランという男の為人を皆様に知って頂きたい。そのために私なりの『バチェラー・パーティー』を考えたのですよ」
「バチェラー・パーティーですか?」
シェーンが困惑した様子で尋ねた。連合帝国ではスタッグパーティーとも呼ばれるそれは、新郎が結婚式前夜に親友や親族の男性を招いて開く、男性限定パーティーのことだ。だが正直に言って、パーティー程度でお互いの為人が掴めるとは思えなかったのだ。
その困惑も予想済みだったのだろう、アーセン氏は更に言葉を重ねた。
「ええ、それも、ここにいる四人だけで。勿論、普通のパーティーでお互いのことを理解するのは難しいと、私も思います。ですから、私の提案するパーティーは『狩り』です。それも、ムースやトナカイなどを狩ろうというのではありません。今回の我々の獲物は『騒動屋』。あの忌々しい妖精の商人たちですよ」
それは、聖騎士団でも頭を痛める、厄介なモノたちだった。彼らは真っ当な人間の商人のふりをして、とんでもない品物ばかりを人間に売り付けては、それによって起こる騒動を楽しむのだ。
しかし、彼らは神出鬼没。一度取り引きした相手の前に、再び姿を現わすことはない。
「あの『騒動屋』の足取りを掴む術が、貴殿にはおありだと?」
シェーンがそう尋ねると、アーセン氏はにこやかに請け負った。
「ええ、ハワード卿がご紹介くださった者のおかげでね」
「是非バチェラーパーティーを」という二角ゆう様のリクエストにお答えしたつもりが……。
戦いを前に「さあ、パーティーだ!」と張り切るアーセン氏なのでした。




