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聖騎士団長、遠征途中に死亡フラグを立てる【最終章完結済み】  作者: 書庫裏真朱麻呂
第三章 結婚式の準備

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29、モリーとハワード卿の秋と冬④

 モリーは故郷の秋祭りにハワード卿と参加するのを楽しみにしていた。

 散々な秋祭りとなってしまった年もあったけれど、それでも、子どもの頃から秋祭りが大好きだった。小さな町全体が華やいで、その中にいる人々も皆楽しそうで、町の大人たちが用意する素朴な林檎飴は特別な味がして。その祭りの中を、ハワードと二人、並んで歩いたら、どれほど楽しいことだろう、ハワードは町の祭りを気に入ってくれるだろうか、と。

まさか、シェーンが今年の歌い手になったとは思わなかったし、自分まで歌うことになるとは思ってもいなかったのだ。


「もう一人の歌い手が私、ですか?」

 秋祭り当日。午前中にバンガローを訪ねてきた町長から話を聞かされたモリーは当惑した。

「仕事柄、歌は毎朝練習していますから、すぐにも歌えます。でも、舞台に立つための衣装までは……」

 するとベッキーがトランクを持って来た。

「大丈夫、ここに入っているよ。モリーによく似合う秋らしいワインレッドのドレスと、レースリボンの髪飾り、それからドレスと同じ色のベルベットの靴がね」

 モリーは、ベッキーのことをまるで昔話に登場する「妖精の名付け親様」のようだと思い、それをそのまま口にしかけた。だが直前に、いや実際にそうなのだと思い出して口を噤んだ。正確にはベッキーは森の妖精たちを統べる森の貴婦人(ダームヴェルトゥ)で、ハワードの名付け親だけれども。

 しかし、その気遣いは無に帰した。

「いやぁ、お嬢さんはまるで『妖精の名付け親様』のようだね」

 そう言って、一人悦に入る町長に、ベッキーが曖昧な笑みを返した。

「ご心配なく、これしきのことを気になさる方ではありませんから」

 一人で気を揉むモリーに、シェーンがこっそりそう言った。


 もう一つモリーが懸念していたのは、もしも聴衆の方から野次や批評めいた言葉が聞こえてきたら、途中で失敗してしまうかもしれないということだった。しかし、半ば独り言のようなその呟きには、「見えないロビン」がこっそり耳打ちした。そのくらい、魔法で聞こえないようにするのは簡単だ、と。

 モリーは腹を括った。ここまでお膳立てされておきながら、みっともなく逃げることなど出来るものか。

「わかりました。喜んで、歌い手を務めさせて頂きます」

 笑顔でそう返答すると、何故か町長は息を飲み、ほんの少し長くモリーを見つめた。


 町長が帰った後、モリーはベッキーの部屋で着替え、ベッキーの手で化粧をしてもらった。

「そのドレスには絶対に汚れない魔法がかかっているし、化粧にもモリーが就寝するまでは崩れない魔法をかけておいた。だから、出番が来る三十分前までは、存分に祭りを楽しめるよ。この町の連中に、ハワードと仲睦まじいところを見せつけておいで」

 ベッキーが自分をからかっているのだろうと思ったモリーは、少し笑うと、軽く冗談を返そうとした。しかし鏡に映るベッキーの表情はあくまでも真剣そのものだった。

「良いかい、君たち二人の間に割り込めそうだなんて誤解される余地を与えてはいけないよ」

 モリーは頷いた。確かにハワードはとても人柄が良く、頼もしく、顔立ちも整っている。何より、モリーに対してあれほど熱を込めた優しい眼差しを向けてくれるのは、ハワードただ一人だけだ。

「ええ。誰にもハワードを奪わせません、絶対に」

 モリーが決意を込めてそう答えると、ベッキーは苦笑しながら、肩にコートをかけてくれた。

「まぁ、それで良いよ。たとえ何があったとしても、決して彼から離れないようにね」

 *       *

 秋祭りの間中、モリーはハワード卿から手を離さず、ハワード卿もモリーから決して手と目をを離さなかった。

 モリーはまず、火を吹くパフォーマンスをしている大道芸人のところにハワード卿を連れて行った。

 大道芸人が火を吹くたびに歓声を上げる子どもたちに混じり、モリーは隣りのハワード卿の顔を見上げた。

「ハワード、ほら見て。大道芸人が火を吹くパフォーマンスをしているわ」

「魔法を使わなくても、ああいうことが出来る仕掛けは興味深いな」

 ハワード卿らしい反応に、モリーはふふっと笑った。

 林檎飴の模擬店で棒に挿した林檎飴を受け取ったモリーは、その一つをハワード卿に渡し、一つを彼の前でかじって見せた。ハワード卿が、林檎飴を食べたことがないと言うので。

「今私がしたように、飴ごとかじるの。飴を舐めた後でかじる林檎は、ひどく酸っぱいから」

「なるほど……」

 ハワード卿は言われたように林檎飴をかじり、笑顔になった。

「この気取らない味が好きだな。それに、林檎の香りが、他のどこの林檎よりも素晴らしい」

 林檎飴の模擬店を担当していたフレッド・アンダーソン氏が自慢げに笑った。

「よく分かっておいでの旦那さんだ。この林檎が実る木は、スカーレットウッズにしか生えていないんですよ」

「薔薇荘に行く途中の二番目の分かれ道で、左手に歩いて行くと、六本の林檎の木が輪になって生えているところがあるのよ」

 モリーがそう補足すると、アンダーソン氏は目を丸くした。

「やぁ、どこの綺麗な若奥さんかと思ったら、薔薇荘のモリー嬢ちゃんじゃないか。いやぁ、マチルダの若い頃を思い出すよ」

「まぁ、フレッド小父さんったら」

 モリーがくすくす笑うと、アンダーソン氏は嬉しそうに目を細め、ハワード卿とモリーを何度も交互に見て、何度も頷いた。

「こんなに立派なお婿さんを連れて帰って来たのか。こりゃあ、めでたい。ジェームズとマチルダが生きていたら、どんなに喜んだことか」

 彼はモリーの祖父の幼馴染で、生前の祖父とは親しくしていたから、何やら感慨深いものがあるらしかった。そういえば、アイリーンが出戻ってからは薔薇荘を訪ねて来ることも滅多になくなってしまったが。

「しっかしまぁ、モリー嬢ちゃんが立派なお婿さんを連れて帰ったのを見たら、悔しがる連中が大勢いるだろうよ」

 アンダーソン氏はそう言って、豪快に笑った後、ふっと真顔になった。それから、彼はハワード卿の目を見つめて真剣な眼差しでこう訴えた。

「旦那さん、どうかしっかりとモリー嬢ちゃんを守ってやってください。この町には、ひどいことをする奴らが潜んでおります。そいつらが悔し紛れに、この子を狙うかもしれませんから」

 ハワード卿もまた、真面目に頷いた。

「ええ、必ずや彼女を守ると約束いたします」

 アンダーソン氏は泣き笑いの顔になった。

「ありがとうございます。この子は、私の親友の孫娘で、薔薇荘の唯一の跡取りなのです。貴方のような方が守ってくださるならば、きっとジェームズも安心することでしょう」


 肉屋のポール・ジャクソンは、難しい本は読めず、計算は妻のナンシー頼みだが、正直で心優しい男である。彼は妻と二人、模擬店に来る人々にせっせとホットドッグを提供していた。

 先にモリーに気付いたのは、しっかり者のナンシーだった。

「毎度あり。今度ジャクソン精肉店にも是非来てくださいね。あらぁ、綺麗なお嬢さんだと思ったら、モリーじゃないの!」

 ナンシーは歓声を上げると、難しい顔で炭火を調整しながらソーセージを焼いていた夫のポールを呼んだ。

「あんた、あんた、モリーが帰って来てるよ!」

 ポールはソーセージを焼き上げてから返事をした。

「どうした、お母ちゃん?」

「どうしたもこうしたも、前にうちの店を荒らしたゴブリンどもをとっちめてくれたモリーが帰って来たんだよ」

 焼けたソーセージをパンに挟んだポールは、ようやく顔を上げて、誰が目の前に来たのか了解したようだった。

「おや。ゴブリン殺しの英雄、モリーが帰って来たのかい」

「もう、ポール小父さんったら。そんな物騒な呼び方しないでくださいな」

 ようやくデートらしくなってきたでしょうか。

 スカーレットタウンには、モリーに対して好意的な人々も勿論います。祖父の親友だったアンダーソン氏が薔薇荘に来なくなったのは、アイリーンがマチルダに良からぬことを吹き込んだせいです。

 ジャクソン精肉店を荒らしたゴブリンですが、この世界のゴブリンは屋内で一匹見かけたら、五十匹は潜んでいると思った方が良い奴らです。

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― 新着の感想 ―
わぁっ、秋祭りいいですね〜♪(*^^*) りんご飴は、お祭りに行ったりしたら、だいたい買って食べていました♪でも小さい頃は上手く食べれないから、その場で食べさせてもらえず、家に帰ってから、食べたあとお…
りんご飴もソーセージもいいですね〜。 お祭りの雰囲気がとても良いです。 (*´ω`*)
ほのぼの読んでいたら、なんとゴブリン! ゴブリン見つけたら大変ですね。 まったくGのつく存在は生命力が強いのですね!
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