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弦は不協音で弾かれる

お読み頂き有難う御座います。

 交易都市トリアイ。

 海辺に佇む、白い貸別荘のひとつ。

 その淡いカーテンが翻る一室で私の奏でるチェンバロの音色が、海風に溶けていく……。


 シャラポロリリリ……ドベッ。


 ……変な音。しまった、半音ズレたわ。


「お嬢様……」

「そろそろお稽古は終わりにするわ。メロ嬢がやって来るかもしれないものね」


 と言うか、誰に聞かせる当ても無いのに何故私はお稽古しているのかしら。本当に……。

 ……もう未練たらしいし、チェンバロ演奏はスッパリとやめようかしら。

 そうよ、いっそのこと全く他の楽器にしたいわ。この前市場で見た、革張りの巨大な打楽器とか大きな貝を使った外国の笛とかどうかしら。

 きっとあんなのを自在に弾ければ、力強くなれそうじゃない? 力が備われば、きっとメンタルも……。


「お嬢様、メロ様がいらっしゃいましたけど……何故両手でガッツポーズを決めておいでで?」

「……肩コリを解していたのよ。客間にお通しして頂戴」


 ナキアの視線が痛いわ。ウカウカ気合を入れられないわね。でも、気を抜いてしまうのよね。交易都市という自由な風がきっとそうさせるのよ……多分。しかし、蒸し暑いわ。全く晴れないわね。


「御機嫌よう、メロ嬢」

「今日は、本日のターカル様への偽物嫉妬劇場のご報告です!」


 ま、明るい笑顔が眩しいわ。きっと交易都市の晴れた日は、彼女の笑顔のような煌めきなのでしょうね。


 最近、メロ嬢ったら演技が楽しくなってきたみたい。

 何でも、泣き真似をしてたら、本当にあのクズのダメさが目に沁みて嫌悪が襲って来たみたい。

 前までは仕方ないなと無気力モードだったのね。やはり、あんなショボ恫喝でも、気弱な人なら萎縮させてしまうのよ。極刑に値するわね。


「今回も前と同じなの? 演技派のメロ嬢と違って芸のない男ね」

「えへへ。今日は、領地にいた何でも欲しがる又従姉妹の真似をしてみました」

「そんなの居るの? 出禁の上に首枷と手枷刑ね」

「はい、出禁にしようと思います!」


 朗らかな声が素晴らしいわ。元々色合いからして物語の真っ当なヒロインのように、心優しく明るい方でしょうに。あのクズのせいで変な風に洗脳されたのね。


「聞いてください、シャルロット様! 両親がターカル様の評判と態度を見かねて、婚約の見直しを考えてくれるんです!」

「そうなの? 考えさせるだけじゃ駄目ね。

 役所へ引き摺ってでも婚約解消手続きさせないと」

「でも、ターカル様と仲良くしろって一辺倒だったので大進歩です!」


 みみっちい大進歩に見えるけれど。何でメロ嬢の親なのに、あのクズの肩を持つのかしら。庇いたくなるような顔立ちでもないのに。

 やはりお人好しに媚びる能力がえげつないのね。そんな特殊洗脳を解くって難しそうだわ。

 チッチャー男爵家向けに、圧を掛けた手紙でも書こうかしら。


「あの、シャルロット様。

 あの後とてもお辛い顔をされてましたよね……」

「え?」


 私?

 私の顔が……辛そうだったかしら? 何時も通りクールビューティーお忍び令嬢として振る舞っているつもりだけれど……。


「あの、私。シャルロット様にとても感謝しているんです。私、無意識に諦めてましたから」

「仕方ないわ。誰の助けも無かったんでしょう?」

「でも、嫌だったなら嫌だ! ともっと主張すべきでした。

 ターカル様と未来を誓って、ターカル様と一緒に住むだなんて……。

 立ち話を3分しただけでも嫌でしたのに」


 滅茶苦茶嫌がってた気持ちを押し込めていたのね……。

 よく爆発しなかったものだわ。あ、メロ嬢の腕に鳥肌が立ってるわ。想像したのね。


「ですから、少しでもお役に立てるなら何でも。楽になれるならお話を聞くだけでも。

 あの、絶対に何も口外しませんから」

「メロ嬢……」

「お嬢様、お話されては? ご令嬢のお友達なんて初めてでしょう?」

「ナキア!」


 何でそういう事言うのよ! 私は誇りを胸に孤高で居ただけなの! 友達になりたいご令嬢が、いなさ過ぎたんだもの!


「えっ、そうなのですか! 私がシャルロット様の一人目のお友達だなんて……こ、光栄です!」

「……と、友達として、良いのかしら?」

「勿論じゃないですか。

 シャルロット様が『私のお友達』って呼んでくださったあの日からお友達です!」


 ……どうしましょう。

 暇つぶしなんて失礼な理由でちょっかいを掛けたのに。

 何て良い方なの……。


シャルロットにご令嬢のお友達はおりませんが、従兄弟とか派閥の令嬢が山程居るので、地味に孤高ではありませんでした。

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