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婚約者に虐げられた令嬢

お暑い中お読み頂き有難う御座います。

 そして数日後。

 私が滞在している貸別荘に、メェロリー嬢はやって来たわ。

 海に面した窓が備え付けられた美しい建物よ。でも、案外波の音が大きいのね。


 で、男爵令嬢の作法に則って、ちゃんと礼儀正しい作法のお手紙で、訪いの許可を求めてきたわ。

 あ、変な手紙も何通か来たけど無視したわよ。知り合い以外の手紙は必要ないし、防犯意識が大事だものね。


「お招き頂きまして、有難う御座います……はわ」


 はわ、の語尾は要らないのよね。って王都の御婦人方には突っ込まれそう。

 うっ、喉でもお悪いのかしらホホホホホって幻聴が……。疲れているのね、きっと。チェンバロのお稽古のしすぎね。


「あの、ダオ侯爵令嬢……?」

「シャルロットで宜しくてよ」

「ふぇっ! お、畏れ多いことですが光栄です! で、では私をメェロリーと……呼ぶと呼びにくいのでメロとお呼びください」

「メロ嬢ね。それで、先日の男は何者かしら」


 従僕が小さなティーテーブルにお茶の用意を手際良くしてくれた。

 家では当たり前だと思っていたけれど、此処は人少なでこじんまりしているから有り難みが増すわね。


「は、はう……はい。あの、そのですね」


 メロ嬢が語るには何でも名前は……ホヤホヤ家……だったかしら。

 まあどうでもいいわ。昨日の失礼男は同じく男爵階級の三男だそう。

 で、メロ嬢のチッチャー男爵家に婿入り予定だそうよ。


「婿入りであの態度なの!?」

「は、はい……」


 思わず淑女らしからぬ叫……驚きの声を出してしまったわね。まあいいわ。此処では単なるお忍び令嬢だし。


 それにしても、メロ嬢ったら実に舐められたものねえ。何でもあの小賢しい男はメロ嬢のご両親の前では猫を被っているらしく、迂闊に尻尾を出さないとか。

 でも、よくある話かしら。

 この方、実に純真みたいだものねえ。あの安物の居丈高さには屈してしまうのかしら。


「それで、醜い嫉妬とはなんなのかしら」

「……あの、そのですね。港にはお酒を出して、女性をその……」

「花街のことかしら」

「は、はい。その、喫茶ゲフンというお店の給仕さんにその……とても、仲良くされていて……」


 咳払いみたいな名前の喫茶店なのね。メニューの何も美味しくなさそうだし癒される気もしないわ。交易都市センスかしら、分からないものね。

 うーん、それにしても醜い嫉妬ねえ。


「そもそも、何故あの男は入婿候補の癖に、嫉妬するなとか宣うのかしら。嫉妬もしてないのに」

「ふぇ……」

「メェロリー嬢、そのふぇ……とか、ふみっとか情けない掛け声を止めなさい。

 迫力を出すの。せめて濁音を付けるのよ」

「だ、濁音……」


 そう、濁音だと迫力があるのよ。ダミ声は人をビビらせるのだもの!

 ……そう言えばお別れする時のあの方も、かなりダミ声だったわね。


「そうよ! さんはい!」

「は……、ばぁい!」


 ……ばあい? あ、はあいに濁音か。……そこなの?


「……何か違うわね。まあいいわ」

「ち、違うのですかぁ……?」

「あと、そのフラフラよろけた歩き方も止めなさい。地面を踏み割る位力強く!」

「で、でも硬い道だとコケちゃって……あの。靴を履く事がなかったもので……」


 えっ、裸足生活!?

 どんな未開の地ゴホン、のどかなところからいらしたのかしら。普通に野山なら石で足を切りそうなものだけど……。


「まあ、迫力ある歩き方は練習するとして」

「地面を踏み抜く程ですね……出来るかしら」

「輩をに礼儀とか要らないのよね」

「や、ヤカラ……ですか。ホヤホヤ家は、あの、ええと……確かに頼りないお家ですがそれ程でしょうか」


 メロ嬢って、気が良すぎるのね。あんな態度を一度でも取られたら、寄親に相談の上闇討ちか無礼討ちをして良いのに。


「そして、あのアホを故郷を焼き払ったような気がする宿敵として睨みつけなさい」

「こ、故郷を……。チッチャー領を……ですか?」

「そうよ。腹を立てるの。

 具体的に何かないの? バカにされたとか」

「あ。有ります……。草だらけで道が狭くて田舎っぽいって」

「ま、田舎に田舎っぽいって何の揶揄なのよ。センス皆無なのね」

「うう……」

「何を凹んでるのよ。ウチの領地だってあのアホの領地だって、国の大半が普通に田舎よ。

都会だらけの領地なんて、物理的に有る訳無いでしょうに」

「……た、確かに……」

「お嬢様、差し出がましいようですが……」


 あら、侍女のナキアに何か考えがあるのかしら。


「往来で迫力ある振る舞いをお続けになられる案ですと、メロお嬢様に瑕疵が付くのではないでしょうか」

「……それもそうね」


 確かに嫁入り前の令嬢の振る舞いではないわよね。この街での評判や、次の縁談にも関わるわ。ちょっとヒートアップしてしまったようね。


「醜い嫉妬とやらの実行は如何でしょう」

「はい?」

「ああ……成程」


 よく考えれば、物理的に威嚇するのも良いけれど。上げて落とさないと意味ないものねえ。




侍女ナキアは、激しやすいシャルロット嬢を諌める為に来ております。

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