囚われの殿下
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シャルロット視点から、殿下視点に変わります。
春は花が咲き乱れ、夏も潤沢な水資源に恵まれ、秋は麦穂が揺れ、冬も家畜が喰む草に困らない。
自然豊かで気候に恵まれた我が国は本当に他にふたつとなく、素晴らしいと思っている。
だが、農業に頼り切りで他に産業がないのが頭痛の種だ。
だから、教育の場を設けて新たなる産業を生み出そう、それが何代も前からの課題だった。
そして先代達の苦心の末、誰にでも門戸を開く……にはどうも色々と未だ心許なく。
下級貴族にも門戸を開ける程度には、繕えたと言ってもいい学校が開校された。しかし、それが、問題でもあったと気付かされたのは情けなくも我が身に異変が起こってからだ。
開校されたばかりだから、何の経歴も売りもない。そんな地に留学してきた者が訳有りでない訳がない。
美少女? いや、全く。色味は何故か似通っていたような気もしないでもないが、シャルロットの絹より光る銀髪も、明け方よりも優しい紫の目とも全く違う。
シャルロットの美しさや気品の五億分の一にも満たない、見目も中身もズズ黒く煤けた下品な令嬢だった。
寧ろ、令嬢と呼ぶ方が失礼な程だ。
アレは生まれ変わってチッチャー嬢に所作を学んだ方が良いな。男爵令嬢としていい教育を受けたようだし。
話が逸れたが。
最初に向こうが待ち伏せていたのは、初日だった。
私の眼の前で転んだふりをして、抱き着こうとしたのだ。もちろん避けたが、手が服に掠めて不快だった。
その時点で処罰しておくよう、護衛のひとり……クション侯爵家の次男に申し付けておいたのがいけなかった。
完全に籠絡されていたのだ。
まあ、国では十数人毒牙に掛けていたらしいから、プライドだけの脳筋など、アリを踏み潰すよう程度のものだったらしい。
シャルロットは知っての通り、クション侯爵家は我が国の軍事の一翼を担う一族だ。だからその次男は目立った瑕疵がないからと登用したのが不味かった。
当たり前のように身分を振りかざし、ミスを擦り付ける、下の者に尻拭いさせるという男だったのだ。
まず、手紙が届かなくなった。私付きの文官を脅して、改竄させていたのだそうだ。
そして、例の留学生を私の傍に近づける為スケジュールを暴露したのだ。
今でも悪夢に魘されるよ。ニヤニヤと気味悪いニヤケ面を張り付けたあの令嬢を。
廊下でも、教室を出ても、帰る時にも……常に張り付こうとしてくるのだ。
王宮である程度メンタルに自信はあったが、ストーカーとはあれ程心を痛めつけるものなのだな。幼き日から、心有る大人達が大事に私を護ってくれていた日常が本当に身に沁みた。
勉学に励もうと思ったのに、私のメンタルはボロボロになった。
護衛達は身分の一番高いクション家の馬鹿息子の言いなり。教師達も様子見に徹している。
あまりにも凹んだ私を見かねたのか、手を差し伸べてくれたのは、男爵家の令息達だった。
彼のお陰で、私は監獄のような学校を抜け出す手立てを得ることが出来たのだ。
そして、一週間。
やっと図書館で一網打尽に出来た暁。
君からの手紙に、絶望し……そして、此処に来たんだ。
「シャルロット……本当に、本当に会いたかった……」
「おおおお……おいたわしや……。フォーセットさま、わたくし、わたくし……なんてことを……」
シャルロットの大きく煌めく紫の瞳から、大粒の涙が零れ落ちている。
泣かせて苦しいのに、慮ってくれるその涙がとても愛しい。
「シャルロット、不甲斐ない僕を赦してくれ」
「赦しを乞うのは、わたくしの方ですわあああーん! お助け出来なくて、本当に申し訳御座いませんんんん!」
情熱的で優しいシャルロット……。
何時も背伸びしたような意匠のドレスだが、今日のような可愛らしいドレスも似合うのだな……。
「……いや。本当にあの気の短いフォーセットが、そんな殊勝なことを……?」
「ふあああ! よ、よがっだでずううう!」
「メロ嬢、ハンカチ使う?」
「すびまぜえええん!」
従兄弟のジェイルが煩いが、私とてミスをするのだ。
何も嘘は言っていない。
パン柄ドレスは、殿下に気に入られておりますね。




