第9話:神の選別と、覚醒するコード種
爆音が迷宮中に響く。
――鳳凰の炎と、神槍の光がぶつかり合う。
「どうした、牙ァ!! お前の“怒り”はそんなもんかッ!!」
アーデンが咆哮とともに、光の槍を連続で突き込む。
ズゴッ、ズガッ、バチバチィィッ!!
爆風と閃光の嵐の中、覚は拳で受け止める。
「お前に“牙”の気持ちが分かるもんかよ……!」
《スキル融合:鳳凰拳 × 憤怒反射》
《新技:炎哭の構え》
ボォッ!!!
覚の拳が、今までにない赤黒い“灼炎”を纏う。
「……牙は最後、こう言ったんだ……!」
《記憶再生》
牙の最期の断末魔。
「なぜ……アーデン……俺たち……仲間だったはず……なのに」
「そうさ、お前を殺したのは神じゃない。俺たち“人間”だ!!」
一撃。
灼炎の拳が、アーデンの鎧を砕く。
だが――
「……フッ、やはり貴様は“異端”だ」
アーデンがゆっくり立ち上がる。
その背後に、**光の輪**が現れる。
《神格降臨:偽神“アグナ・ルシエル”の降霊》
《対象:アーデン・クロムウェル》
「これが、我が“使命”……“神”は選ぶのだ。お前のような“迷い”を、消し去るために」
――その瞬間。
迷宮の奥、深部から光があふれる。
「お兄ちゃん……やめて……!」
リリィの悲痛な叫びが響いた。
彼女の瞳が、金と銀に輝く。
《コードノア 起動》
《認証:外界因子“覚”および“牙”と接続中》
《再定義モード:意志優先型魔術展開を許可》
ラーナが叫ぶ。
「やばい、リリィが“コード”の中核にアクセスした……!」
リリィの声が重なる。
「……神様なんて、いらない。
お兄ちゃんが泣くような世界、そんなもの、壊れていい……!!」
《禁忌魔法詠唱開始:世界修律》
《魔術干渉:神格構造の解除を試みます》
「な、なに……!? リリィ、お前……ッ!!」
アーデンの背後の光輪が、徐々に崩れていく。
《神格解除進行率:74%……89%……》
「ぐっ……ああああああああああああああああああ!!!!」
アーデンの体が、光に呑まれ、やがて弾けた。
——神の器が、砕けた音がした。
静寂。
炎も、光も、止んだ。
迷宮には、ただ3人の息遣いだけが残る。
リリィが、フラリと倒れ込む。
覚がすぐに抱き止める。
「よくやった、リリィ……もう、大丈夫だ」
ラーナが息をついて言った。
「神の依代を倒したのは、大きいよ。でも……」
「……これで終わりじゃない」
——そう。
アーデンは“神の器”のひとつにすぎない。
この世界には、“神のシステム”と呼ばれる“意思なき選別装置”が存在する。
そのコアは、遥か北の空に浮かぶ浮遊都市――
《楽園ティア=ゼル》。
そして、そこにはこの世界を管理する最大組織、
神代から続く【理定者】たちが待ち構えている。