最終話:記憶を越えて、生きる世界へ
ここからは最終話──
命を賭して“世界の定義”を変えた者たちの、静かな“始まり”の物語。
かつて転生は祝福だった。
だが今、この世界では生きることが祝福なのだ。
──あれから、三年。
異世界ヴァルゼンは、静かに生まれ変わっていた。
転生は廃され、輪廻のシステムも停止。
“生まれた者が、生まれた地で、生き抜くこと”が当たり前になった。
だが、それは過酷で、痛みを伴う道でもある。
戦えば傷つく。
失えば、二度と戻らない。
死ねば、それで終わりだ。
……だからこそ、人は本気で生きる意味を探すようになった。
新歴:鳳暦元年
地名:ヴァルゼン西端・リンベル村
「兄ちゃん、剣教えてよー!」「オレも! オレもッ!」
村の子供たちに囲まれながら、彼は笑っていた。
かつて“鳳凰”と呼ばれた男──覚。
今はこの村の外れで、小さな訓練場を営んでいる。
「おい、持ち方が逆になってんぞ。それだと自分の足斬る」
「わ、ホントだ! 兄ちゃんスゲー!」
どこにでもある日常。
でも、どこよりも“確かな”時間。
そして、その後ろから――
「相変わらず人気ね、先生」
白いローブに身を包み、花を抱えて歩いてくる女の子。
かつてノヴァと呼ばれた少女──今は“リリィ”。
彼女は村の診療所で、治療師をしていた。
「お、今日の収穫は?」
「ふふ。子どもたちの笑顔、かしら?」
2人は静かに微笑み合う。
誰も知らない、過去に何度も死んで、何度も生き直した者たち。
でも今はそれを口にしない。ただ、生きていることに感謝するだけだ。
──そして、夜
丘の上。星空の下。
そこに、1本の剣が突き立てられていた。
「……牙」
覚が、そっと剣に手を当てる。
「俺、お前の人生を生き直すって言ったけど……」
「たぶん、全部はできなかったよ」
風が吹く。
遠くの木々が、サラサラと鳴る。
「でもな、お前の分まで、ここで笑ってるやつがいる。
お前のことをちゃんと想って、歩いてるやつもいる」
「それで十分じゃねぇか?」
彼の隣に、リリィが座る。
「……牙兄も、きっと同じこと言うよ。
“生きてくれてありがとう”って」
覚は、笑った。
その笑顔は、もう何も背負っていなかった。
「……そっか。なら、もう行こう」
「明日も、生きなきゃな」
──世界は変わった。
でも、人の願いは変わらない。
失ったものの痛みと、生きる意味を繋いでいく。
この物語は、これで終わり。
でも、彼らの人生は、ここからが始まり。
Fin.




