第11話:セフィロートの試練と、記録の書庫《アカシック・ライブラ》
まばゆい光に包まれ、気づけば覚は広大な空間に立っていた。
そこには無数の“本棚”が空間を縦横無尽に走っており、天も床も存在しない。
浮かぶ文字、流れる記憶、漂う感情。
ここは——
《次元外情報記録領域・アカシック・ライブラ》
《全記憶との接続準備完了》
「ここが……“記録の書庫”?」
──声が響く。
「ようこそ、“観測外”の者よ。君の役割は、魂の記録と向き合うこと」
現れたのは、ひとりの白衣の少年。
年端も行かぬ風貌だが、その目は数千年の時を知るかのように深い。
「俺は“識者レフェクト”。記録領域の守人だ」
「……試練ってのは、お前と戦うことか?」
「違う。“理解”することだ。
君が“なぜ呼ばれたか”を、君自身に納得させるために」
レフェクトは手を掲げた。
空間が揺れ、ひとつの書が目の前に浮かぶ。
《牙》と刻まれた書物が、開かれる。
次の瞬間、覚の脳内に、牙の記憶が――流れ込んだ。
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【回想】牙の本当の後悔
牙がまだ“祓滅課”の一員だった頃。
彼には、幼い妹がいた。
その名は──アメリア。
病弱で、孤児院に預けられていた。
牙は任務の合間に、彼女に会いに通っていた。
だがある日、牙は任務中に組織の“不正”に気づく。
孤児たちを魔術実験に使っているという、禁忌の計画。
「……まさか……!」
牙はすぐにアメリアを迎えに行こうとする。
しかしその矢先、“事故”として孤児院が焼かれた。
アメリアは消息を絶った。
その後、牙は情報を集め、ついに組織の暗部に踏み込む。
が——そこで、アーデンによる裏切りに遭い、ダンジョンに“処理”された。
牙の中で唯一後悔として残っていたのは、
「妹を……守れなかったことだった……」
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覚が、目を見開く。
「牙は……妹を……!」
すると、記録が変化した。
《新規接続:アメリア・因子確認》
《照合中……候補:コード種“リリィ”との類似因子 89.7%一致》
「まさか……リリィが、牙の妹……!?」
レフェクトが静かに頷く。
「魂の因子は、再構築の過程で形を変える。
君がリリィに惹かれたのは、牙の“後悔”が無意識に君へ受け継がれていたからだ」
「リリィは、牙が守れなかった“希望”だった。
そして君は、それを“もう一度守るために”呼ばれたんだ」
覚の手が震える。
「……だったら、今度こそ……!」
彼の魂が、燃える。
《感情共鳴:再定義承認》
《新スキル生成:魂継》
このスキルは、覚の中に眠る“牙の意思”を完全に統合し、
2つの魂の力を“ひとつの行動”に昇華させる。
——その瞬間、レフェクトが囁いた。
「試練は、完了した」
「次に向かうのは、世界の核。“神格システム”の中心だ」
「そこに待つのは……最初の異世界転生者だ」




