第10話:浮遊都市ティア=ゼルと、理定者たちの招待
地上より遥か上空、雲海を超えたさらに上。
伝説上にしか存在しないとされた天空都市――ティア=ゼル。
それは、神々の遺産にして、世界の“統括機関”。
空間魔法、重力遮断、魔素運営ネットワークを用いて浮遊し続ける、「神の箱庭」。
目を覚ました覚の目の前にあったのは、真っ白な部屋だった。
何もない空間。
何も聞こえない。
「……ここは……」
《空間転送完了》
《対象:識別コード“異界存在・覚”》
そこに現れたのは――黒衣の男女たち。
顔は仮面に覆われ、その表情は一切読めない。
「ようこそ、異界より来た者よ。
我らはこの世界の均衡を保つ、理定者」
声は合成音のように重なっている。
「君に“正式な招待”を申し上げる。
君は、この世界において【観測外】であり、同時に【補正因子】だ」
「……なんだ、それは」
黒衣の男が一歩前に出る。
「君は、元々この世界には“存在しないはず”だった。
だが、“牙”とリンクしたことで、“観測外情報”として世界に介入した」
「じゃあ、俺はただの事故ってことか?」
「否。
この世界には【神】は存在しない。だが、“神格システム”は稼働している。
それは、創世時に組まれた因果制御装置だ。
魂を選別し、淘汰し、循環を維持する装置」
「そして君は、その“制御外”から来た。
つまりこの世界の“固定された運命”を壊すための異物」
「……異物?」
「君は、“定義された死”を超え、既にこの世界に“変化”をもたらし始めている」
覚の頭に、これまでの出来事がよぎる。
リリィの覚醒。牙の復活。神格の破壊。アーデンの消滅……。
「それで? お前らは俺に何をさせたい」
「“選べ”、覚。
・世界の修復に協力し、【再定義者】となるか
・あるいは、“異端”として排除されるか」
「ふざけんなよ……。そんなもん、選ぶわけねぇだろ。
俺は、牙の意志を継いだ。ただそれだけだ」
仮面たちはしばし沈黙した後、こう言った。
「では“試験”を始めよう。
君の“存在価値”が、世界に何をもたらすか……」
《強制転送:試験領域“セフィロートの間”へ》
光が走り、覚の視界が焼き付く――
──一方その頃。
迷宮深部に残されたリリィとラーナの前にも、理定者たちが現れていた。
「君は“コード種”……“原初の因子”。
君の能力は、この世界の魔法体系すべてを“書き換える”可能性を持つ」
リリィは震える声で問う。
「私の力で……この世界を壊せるの?」
「可能だ。そして再構築も、可能だ」
——世界の命運は、“二人の異物”に託された。




