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天下布球 〜美少女戦国ベースボーラーズ〜  作者: InnocentBlue


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22/33

21.明暗の立ち上がり

【一条谷球場】


プレイボールのサイレンが鳴り響く――。

天下注目のカード、尾張デビルズ vs 浅井・朝倉ベースボールクラブ。

両軍主将の静かな対峙のあと、空気は一変し、戦の幕が上がる。


「序盤はおぬしらに任せた」


信長のその一言に、ベンチは一瞬、静まる。

明智光秀が立ち上がり、軽くタオルを外すと、涼しげな目でマウンドへと歩き出す。

その背に、森長可が笑いながら続いた。

尾張デビルズの先発バッテリーは、

投手:明智光秀 捕手:森長可。

信長の指示で組まれた“知略型×野心型”の異色コンビだ。


「へへっ、信長さん、見といてよね。最高の形で勝家の旦那につなぐぜ!」


キャッチャーマスクを装着し、軽快に構える長可。

バッテリーが揃い、スタジアムに緊張が走る。


【一回表:浅井・朝倉ベースボールクラブ 攻撃】

先頭バッター――真柄直隆(俊足の外野手)。

俊敏な動きで構えに入り、光秀を睨む。

初球、インコースへ伸びるストレート。見逃しストライク。

だが、藤資は動じない。

二球目、変化球をファウルで粘る。

三球目、さらに粘り――フルカウント。


「……くっ」

光秀が低く息を吐く。


六球目、低めのスライダー。直隆が詰まりながらも一二塁間へ。

打球は内野をすり抜け、出塁される。

尾張ベンチが一瞬ざわつく。

だが光秀は表情を変えず、すぐさま次のバッターに目を向ける。

続く2番・磯野員昌(二塁手)も、初球をあっさり見送り、二球目でバントの構え。

だが長可が俊敏に反応して処理、送球アウト。中条は二塁へ。


1アウト二塁。

打席には3番サード朝倉義景監督兼任・優雅なる司令塔である。

冷静な目で光秀の球筋を見極めるように構えを取る。


「……初回から狙いたいが、様子を見させてもらおうか。」


球数はすでに10球を超えていた。

だが、光秀は一球一球に迷いなく投げ続ける。

長政との打席――粘りに粘り、フルカウント。

そして――六球目、外角低めのチェンジアップ。

朝倉が当てにいった打球は、セカンド正面。

併殺はならずとも、確実にアウトを取る。


最後のバッター4番キャッチャー浅井長政天才捕手/主将

もフルカウントまで粘られたが、センターフライで打ち取り、無失点で初回を切り抜ける光秀。


だが――

尾張ベンチでは、蘭丸が静かにメモを取っていた。


「……光秀様、初回で27球。被出塁1。……全員が粘りました」

「……初回から投げさせられたな」信長が呟く。


浅井・朝倉打線――一人ひとりの“粘り”が、早くも光秀の体力を削り始めていた。


【一回裏:尾張デビルズ 攻撃】

マウンドに立つのは――背番号「1」のエース、お市。

真っ直ぐな眼差し。マウンドで構えるその姿は、

かつて尾張でマネージャーとして笑っていた彼女とは、まるで別人だった。

対峙するのは尾張の1番、滝川一益センター

冷静な中堅手だが、初球――

お市の鋭いスライダーに完全に空振り。

2球目、3球目もコーナーを突かれ、手が出ず見逃し三振。


信長は無言のまま、マウンドに立つお市の姿を見つめていた。

(これはもう……昔の“お市”ではないな)


そう思わせる、お市の立ち姿。

無駄のない動き。無駄のない投球。

二番の池田恒興いけだ・つねおきも、粘るが空振り三振。

3番ファースト前田利家も力んでファウルを続け、最後は外角低めに手を出して三振。


三者凡退。

ベンチは静まり返る。

信長はベンチで立ち上がり、帽子のつばを握り締めた。


(お市……“革命野球”を受け継いで、それでも俺に牙を剥くか)


三者凡退――完璧な立ち上がりを見せたお市。

尾張ベンチに、静かな緊張感が漂う。

信長は何も言わない。ただ、マウンドに立つその姿をじっと見つめていた。

こうして試合は二回表へと突入する――。


【二回表:浅井・朝倉ベースボールクラブ 攻撃】

明智光秀は、再びマウンドへと上がる。

マウンド上で軽く息を吐きながら、指先でボールを確かめる。

だが、その呼吸はすでに浅く――初回で投じた30球近い投球が、じわじわと響いていた。


先頭バッターは、5番ピッチャーお市。

最初から長打は狙ってないのか、バットを短く持っている。


一球目――低めの変化球、見逃し。

二球目――内角高めの直球、ファウル。

三球目――外角低め、ファウル。

四球目――高めの釣り球、空振りせず。

五球目――ファウル。

六球目――見送ってボール。

七球目――再びファウル。



八球目――ようやく内角を突いて、詰まらせてショートゴロ。

一死こそ奪ったが、光秀の球数はすでに35球を超えていた。

続くバッター、6番レフト前波吉継も、長打を狙うそぶりは見せず、ひたすら粘る。

明らかに、“球数を投げさせる”という明確な意思が感じられる。


フォークを見逃され、カーブをカットされ、ストレートをファウルされ――

ようやく打ち取った時には、打者2人で計15球以上を要していた。


マウンドで帽子のつばに手をかける光秀の肩が、わずかに上下する。

呼吸が荒くなり、額には汗が滲む。

その様子を見て、久秀が静かに口を開く。


「信長、気づいておるか?」


信長はベンチからマウンドを睨み、低く答えた。


「……わかっている。早くも、仕掛けられている」


ベンチでは森蘭丸がタブレット型の巻物を操作し、淡々とつぶやいた。


「現在、光秀様の球数は40球以上……平均で一人8球は超えています。

 一人ひとりの“粘り”――完全に戦術として徹底されています」


「……なるほどのう」


久秀は口元を歪め、愉快そうに笑った。


「層が厚い“浅井・朝倉ベースボールクラブ”の基本戦術じゃな」


最後のバッターもまた、ファウルで粘りに粘った末――

ようやくセカンドゴロでスリーアウト。


だが、光秀はその裏で早くも50球近くを投じていた。


ベンチへ戻る光秀の表情はまだ崩れていない。

――しかし、その背中から立ち上る熱気と疲労は、確実に増していた。


【二回裏:尾張デビルズ 攻撃】

浅井・朝倉の守備が整う中、尾張の4番――森長可がバッターボックスに立つ。

鋭い眼光をお市へ向け、バットを肩で回す。


「オレの豪打で、流れごとぶち壊してやるよ!」


だが、お市は表情一つ変えない。

一球目――外角低めのスライダー。

長可、空振り。


「チッ……なかなかやるじゃねぇか」


二球目、インコースへの直球。力んで振り抜くも、空を切る。


「……くっそ……!」


三球目、またも低め――長可のバットが風を切る。

空振り三振。


「なっ……!」


三振したことより、自分のスイングに手ごたえがなかったことに、長可は珍しく眉をひそめる。


「お市……本気で、やる気だな……」


続く5番、竹中半兵衛がバッターボックスへ。

長可とは対照的な静かな集中。


(相手が“粘り”で来るなら……こちらも、頭で返す)


一球一球をじっくり見極め、粘る。

だが――5球目、明らかな釣り球。外角高めのストレート。


「……!」


思わず反応してスイング。空振り三振。


「しまった……」


竹中はベンチに戻りながら、自分の判断ミスを反芻していた。

そして6番――木下藤吉郎。

バッターボックスに入る前に、意味深な笑みを浮かべながら呟く。


「ふっふっふ……秘策、あるのだ……」


その言葉に、ベンチの面々が一瞬だけ期待を寄せる。


(さすが藤吉郎、何か仕掛けるつもりか――?)


藤吉郎、初球を見逃し、二球目もカット。

そして三球目――

藤吉郎、腰を低く落とし奇妙な間合いをとる。

投じられたのは外角いっぱいのスライダー。


「えいっ!」


タイミングが合わず、バットは空を切る。

見事な空振り三振。


「あらら~?」


ヘラヘラしながらベンチに戻ってくる藤吉郎。

ベンチの端で見ていた蜂須賀小六が、思わず声を上げる。


「……いや、マジで何がしたかったん!? それ“秘策”ちゃうやろ!?」


「焦ってはいかん、小六殿。真の“狙い”は、もっと先にあるのだ……ふふっ」


「ほな最初から言うなや!!」


ベンチに笑いが起きるも、空気はどこか張り詰めたまま。

初回、二回――尾張打線は、わずか6人で6三振。

お市の投球は、完璧な立ち上がりを見せていた。

こうして――静かに、そして確実に、浅井・朝倉のペースで進み始めていた。

試合は、三回表へと進む。


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