20.「尾張デビルズ vs A&Aベースボールクラブ」
「決戦の地、一条谷」
【越前国・一条谷球場】
山深き越前の地にそびえる、日の本戦国球界屈指の名門球場。
浅井・朝倉ベースボールクラブの本拠地――一条谷球場。
高くそびえる銀のゲート、左右対称の美しいスタンド。グラウンドは芝の手入れが行き届き、どこまでも整然としていた。豪奢な和洋折衷のアーチが天井に連なり、スタンドは蒼と白のフラッグに染まっていた。
豪奢にして冷ややかな空気が、迎え入れたのは――
到着した尾張デビルズの面々。その光景に一瞬言葉を失う。
藤吉郎が、白線をまたいで球場に足を踏み入れたその瞬間、思わず目を細める。
「……すごい~……。何この、城みたいな球場……」
「……っげ、マジで、超一流じゃん……」
と前田利家がポツリ。
感嘆するのも束の間、視界の端にすっと現れたひとつの影に、彼の顔色が変わる。
白を基調としたユニフォームに身を包み、髪を後ろで結った少女。
堂々たる佇まいでマウンド方向へ向かうその背中には――
背番号「1」。
浅井・朝倉軍の正投手――お市だった。
かつてのマネージャー姿とは比べものにならない、凛としたオーラを身にまとい、
堂々と歩いてくる。
その背は、明確に「エース」という言葉を背負っていた。
「……あ、あれ……お市ちゃ……」
藤吉郎が思わず声をかけかけた、その瞬間。
お市は振り向くことなく、ただ尾張デビルズの一団を一瞥し、静かに通り過ぎていく。
かつての控えめで柔和な姿はそこにはない。
その背には、ただ勝利を背負う投手としての覚悟が宿っていた。
「ちっ……あんの小娘、なにカッコつけて通り過ぎてんだよ!」
利家が拳を握りしめ、吠える。
「やめぬか」
静かに制したのは勝家。キャッチャーマスクを腰に提げ、落ち着いた声で言い放つ。
「すべて試合で返す。言葉は不要だ」
その言葉に、利家は不満げに唸るが、何も返さなかった。
信長はただ無言で、その背中――**背番号「1」**を見つめていた。
何も語らぬ金色の瞳に映るのは、かつてチームを支えてくれた健気な少女の成長か、
それとも―― 球場に立ちこめる緊張感と、因縁をはらんだ静寂。
尾張と越前。
今、両者の宿命の一戦が、幕を開けようとしていた。
試合開始を控え、両軍はそれぞれウォーミングアップを開始していた。
グラウンドに広がる紅白のユニフォーム。
浅井・朝倉ベースボールクラブと尾張デビルズ――その姿は、まさに決戦前の静かなせめぎ合い。
その中――
浅井軍の本塁後方。
軽やかにキャッチングミットを鳴らす浅井・朝倉ベースボールクラブの正捕手のもとに、
ひとつの影が忍び寄る。
「……久しぶりじゃな、長政」
その声に、天才捕手・浅井長政の身体がビクリと反応する。
「えっ……!」
振り向いた先にいたのは、背丈こそ小さく、年齢すら感じさせる風貌――
だがその目に宿る光は、まるで灼熱のマウンドそのものだった。
「久秀の……ばっちゃま……!? なぜここに……!? まさか、尾張デビルズに……?」
言葉を探しながら問いかける長政に、
松永久秀はにやりと微笑みながら答えた。
「ふふ。どうやら、おぬしは“天才”と呼ばれて、だいぶ鼻が伸びたようじゃの」
「その天狗の鼻――試合で、きっちり折ってやろうと思ってな」
長政は一瞬、絶句する。
「……じゃあ……やはり、尾張の選手として……?」
久秀は深く頷くと、目を細めて言った。
「そなたのプレー、楽しみにしておるぞ、長政」
その言葉を最後に、くるりと背を向け、久秀は尾張デビルズのベンチへと戻っていく。
背筋は伸び、風格は小柄な体躯をも超越していた。
その様子を見ていた少女が、そっと長政に近づく。
「長政様……どうされました?」
柔らかな声。
それは――今や浅井軍の背番号「1」、エースピッチャーとなったお市だった。
長政は軽く息を吐いて、唇を噛んだ。
「いや……冗談のつもりだったんだけどね。
まさか本当に、上杉謙信や武田信玄より厄介な相手が来るなんて……」
冗談めかした口ぶり。だが、その声色にはわずかな動揺が混じっていた。
お市は、そんな長政の手にそっと自分の手を添える。
「……大丈夫です。私がついています」
「どんな相手でも、長政様となら打ち返せます」
長政はしばし無言のまま彼女を見つめ、
やがて、穏やかに微笑んだ。
「……ああ。頼りにしてるよ、お市」
その背後で、尾張ベンチに戻った久秀がひとり、ベンチの背に腰かけながら笑う。
「さあ、始まるぞ……どちらの“未来”が勝るかのう――ふふっ」
球場全体に、じわりと高まる火花と緊張。
決戦の幕は、静かに上がろうとしていた。
セレモニーが終わり、いよいよプレイボール直前──。
【一条谷球場・本塁前 主将挨拶】
白線の中央、キャッチャーマスクを手にした浅井長政が現れる。
対するは、帽子のつばを軽く持ち上げた織田信長。
両軍の視線が集まる中、プレイボールを前に――
二人の主将が、握手を交わす。
淡く琥珀色の瞳を細め、苦笑めいた微笑を浮かべる。
「まさか“あんな御仁”を助っ人に起用するなんてね……。
球場の風が、深緑とミントが揺れる長政の髪をひるがえす。
金色のポニーテールを揺らし、澄んだ声で応じる。
「……練習試合でそなたらに完膚なきまでに叩きのめされてから――
奇縁というものよ。あの一戦を経て、縁というものが不思議と繋がってしまった」
一瞬、久秀の方へ視線を送る。
ベンチ奥でちょこんと座るその小柄な背に、ゾクリとするほどの存在感が宿っていた。
長政(軽く目を細めて)
「なるほど……“野球仙人”を仲間に、か。まったく君はいつだって常識の外を行く」
「いざという時には出てもらう。
だが、勝つのは“このチーム”の力で、だ」
長政は一拍置いて、笑う。
どこか余裕のあるその口ぶりは、彼が“天才”と呼ばれる所以だった。
長政は握手の手を軽く返しながら。
「なら楽しみにしている。――お手柔らかに頼むよ」
信長はその言葉に応えず、じっと長政を見据える。
その眼差しは――ただ一つ、“勝利”だけを見ていた。
やがて両者はそれぞれのベンチに戻り、互いに歩みを戻した瞬間、スタンドの歓声が轟く。主審が球審席に立ち、マウンドへ向かうお市が背番号「1」を煌めかせた。
やがて、場内アナウンスのコールが響く――
「プレイボール!」
越前の風が、決戦の幕を高らかに揚げた。
尾張デビルズ(OWARI DEVILS)
打順守備位置選手名備考
1番センター滝川一益俊足&冷静、初回の出塁率重視
2番セカンド池田恒興バント・つなぎ役/小技が光る
3番ファースト前田利家パワー&チャンスに強い中軸
4番キャッチャー森長可強打&リード力を併せ持つ、攻撃型捕手
5番サード竹中半兵衛インテリ中距離打者/得点圏に強い
6番ショート木下藤吉郎明るいムードメーカー、器用に立ち回る
7番レフト佐々成政強肩強打の荒々しい野性味あるタイプ
8番ピッチャー明智光秀 知的&堅実な投手
9番ライト丹羽長秀守備と選球眼に優れたバランサー枠
浅井・朝倉ベースボールクラブ(A&A BASEBALL CLUB)
打順守備位置選手名備考
1番センター真柄直隆快足リードオフマンタイプ/朝倉家家臣
2番ショート磯野員昌若手エリート/打撃・守備とも堅実
3番サード朝倉義景監督兼任・優雅なる司令塔
4番キャッチャー浅井長政天才捕手/主将
5番ピッチャーお市氷のように冷静なエース/信長の妹
6番レフト前波吉継勝負強いミート型、チームの潤滑油
7番ファースト赤尾清綱朝倉軍の古参/安定感あるベテラン
8番セカンド山本義次守備の鬼/サポートタイプ
9番ライト小川祐忠機動力と意外性のある若手




