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天下布球 〜美少女戦国ベースボーラーズ〜  作者: InnocentBlue


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18.5 番外編「湯けむりの中で、野球のことは忘れて」

──飛騨高山、深山幽谷に佇む名湯「鵜飼の湯」。

到着した尾張デビルズのメンバーを迎えたのは、先に到着していた美濃ナイトスパイダーズの二人の選手だった。


「ようこそ、飛騨の秘湯へ。お変わりありませんね、信長様。」


涼やかな声で丁寧に一礼したのは、ナイトスパイダーズの正捕手──稲葉一鉄いなば・いってつ。黒髪を後ろで束ねた凛とした少女だ。礼節を重んじる彼女らしく、制服も旅館の浴衣もどこか“着崩れ”とは無縁の整った姿だった。

その隣では、腰に手を当ててどっしりと立つ、豪快な姉御肌の女武将がいた。


「こちとら一足先に湯に浸かって待ってたよ。はっはっは、尾張勢の嬢ちゃんたち、試合じゃなく湯で汗流すのも、たまには悪くないだろう?」


そう言ってニカッと笑ったのは、氏家卜全うじいえ・ぼくぜん。ナイトスパイダーズのパワーヒッターで、筋肉浴衣女子代表(自称)だ。


「卜全さん、もう三回も入ってるらしいですよ……」

と、隣の一鉄が小さく呆れると、

「だってここの硫黄泉は筋肉の疲労にもいいんだよォ? これは戦術だから!」

と、にかにか笑う卜全。

「おい、うちらも急いで浸かろ! 藤吉郎がまた変な芸やり始める前に!」

蜂須賀小六が肩を叩き、

「へへっ、お風呂あがりにアイス買っちゃお〜っと♡」

と藤吉郎が上機嫌。

デビルズとスパイダーズ、異なるユニフォームを脱いだ少女たちは、戦場を離れたひととき、湯けむりの向こうで打ち解けていく。

________________________________________

「わあ……本当にいいお湯……」

森蘭丸が白く霞む湯船に身を沈め、目を細める。周囲では、尾張デビルズとナイトスパイダーズの選手たちが思い思いにくつろいでいた。

「この湯、なんだか肌がすべすべになりますね……。何の成分なんでしょう?」

ふと蘭丸が隣にいた竹中半兵衛に尋ねると、彼女は「ふふっ」と微笑んで、

「実はですね、この『鵜飼の湯』は飛騨山中でも珍しい“硫黄泉と炭酸水素塩泉”の混合泉なんです。硫黄成分は血行促進、そして炭酸水素塩は美肌効果が高くて、“美人の湯”とも呼ばれてまして……さらに微量のメタケイ酸が含まれていることで皮膚の再生促進、つまり代謝を助ける作用が――」

「おーい、風呂より熱苦しい解説やめぇ!」

小六がタオル姿のまま突っ込んでくる。

「いまちょっと小話コーナーやってたんですが!?」

「いらんわそんな湯船の深さより深い情報!」

「でも…とてもためになりました……」と蘭丸はしっかりメモっていた。

________________________________________

一方、湯船の隅では――

「くっ……長可、その…でか…っ」

勝家が目をそらしながら、隣にどっかり座る森長可をちらりと見る。

「ん? なんか言ったか?」

「いや、なんでもない…」

森長可はのぼせ気味にぼーっとしながら、タオルで隠す気配もない。

「べ、べつに…うらやましくなんて……ぐぬぬ」

ふるふると肩を震わせ、勝家はそっと湯に沈んでいく。

________________________________________

一方、岩の向こう側で湯に肩まで浸かっていた帰蝶の視線が、鋭くなっていた。

湯の中で、ひとりぶつぶつと呟く帰蝶。

表情は笑顔だが、背後に湯気より濃い“黒オーラ”が漂う。

(信長様……!)

湯船の浅瀬で、信長が藤吉郎と利家に囲まれて笑っている姿が目に入る。

(なぜ、あの程度の子たちに微笑みを? 私が……すぐそばにいるのに……)

「信長様……私のこと、お忘れですか……?」

湯の中で小さく囁いた声は、どこか壊れかけていた。

彼女の周囲の温度だけが不自然に下がっている。

「き、帰蝶さん…? このお湯、硫黄じゃなくて殺気が立ってる気がする…」

美濃ナイトスパイダーズのメンバーが異変に気付く。

「(まずい、また帰蝶がアレに入っとる……)」

背後で道三がそっと距離を取る。

________________________________________

佐久間信盛、爆誕!温泉アイドルショー計画!

「うふふ♡ ここで一発、あたしの《温泉アイドルショー》なんてどうかしら♡」


湯けむりの中、キラキラエフェクトをまとって現れた佐久間信盛が、軽やかに湯を跳ねさせる。

「衣装は湯上がりバスタオル♡ 歌は『ととのえ♡マイハート』! 一番いくわよ〜〜〜〜♪」

♬〜「♨ じわりととのえマイハ〜〜〜〜」♬

\バコンッ!!/


「恥ずかしいからやめんかい!!」

湯船の奥から、桶が飛んできて佐久間の額に正確にクリーンヒット。

「ひぃゃうッ!?」

ととのいポーズで固まる信盛。

桶を投げたのは、織田信長だった。湯の中から半身だけ出し、手元にはまだ予備の桶が一つ。

「ここは他チームもいるんだぞ……!! この温泉、共同だって聞いてなかったのか!!」

その様子を岩陰から見ていた控え投手――明智光秀が、静かにつぶやく。

「……な、ナイスコントロール。」

そして小声で追い打ちをかけるように、

「……あの距離、ピンポイントで額に命中って。さすがは信長さま……」

「ちょっと! 私のアイドル魂、踏みにじられたんだけどォ〜〜!!」

信盛はしっかりと桶の跡がついた額を抑えながら、大げさに嘆いた。

________________________________________

うるさい連中がいなくなり湯けむり漂う露天風呂で、信長がのんびり肩まで浸かっていると、

どこからか聞き覚えのある軽快な声が――

久秀「おぉ〜〜おぬしらもこの秘湯に来ておったか!」

岩陰からひょっこり現れたのは、小柄な少女の姿をした“あの”人物――

野球仙人(自称:野球妖精)・松永久秀!

信長「く、久秀!?なぜここに!?比叡山であの特訓編を終えてから、しばらく登場しないオーラを出してたじゃないか!」

久秀「何を申すか。ここはの、わしが昔から通っとる湯なのじゃ。心も体も整う、いわば“野球前の禊場”とでも言うべきかのう」

信長が湯の波をバシャバシャ立てながら文句を言っていると、その騒ぎに気づいた道三が近寄ると、

道三「…!? ま、松永久秀様ではありませんか!? お久しゅうございます!!」

ナイトスパイダーズの監督・斎藤道三が平伏寸前の勢いで現れた。

道三「こ、これはチームの皆にもお引き合わせを…! おい、皆!野球仙人様がおられるぞぉぉ!」

さっと集まるナイトスパイダーズの面々。脱衣所から飛び出してきた帰蝶、タオルを頭に乗せた半兵衛、風呂桶持参のナイトスパイダーズ龍興までもが整列。

久秀「妖精じゃがな。」

道三「皆の者、姿勢を正せい! この方はかの野球仙人・松永久秀様であらせられる!」

久秀「妖精じゃって。ふむ。おぬしたちは礼儀正しいな。信長たちとは大違いじゃ」

信長「なんだと、このチビ助……!」

道三「こ、この方を誰だと思っておるのだ! かの野球仙人・松永久秀様ぞ!!」

久秀「妖精じゃよ、妖精…」

信長「知ってるさ。あの時、比叡山でこのチビ助に地獄の特訓を受けたんだよ!」

道三「なにィィ!? かの野球仙人の直々の鍛錬を受けたと申すか!?」

帰蝶「うらやましい…!」

半兵衛「信長様の球に変化が出たの、あれ全部久秀様の…?」

信長「やっぱこの人、すごい人なんだな…」

久秀ぼそっ「妖精じゃよ…ほんとに妖精なんじゃがな……」

しかし、久秀のつぶやきには誰も反応しなかった。

「……」

まるで「妖精」と呼ばれるのを待っていたのに、誰も気づいてくれなかった子どものように――久秀は、ちょっぴりしょんぼりしていた。

________________________________________

夜の縁側・静かなひととき、夜の星空と、変わらぬ夢

風呂上がり、縁側で麦茶を飲む信長と道三。

「……今日はありがとう。うちの子ら、騒がしくてすまなかった。」

信長が頭をかくと、道三は静かに首を振る。

「賑やかなのは、良いことだ。尾張の皆は…少し、眩しいな。」

「ん? なんか言いました?」

「いや、なんでも。……また、グラウンドで会おう。」

月明かりが、湯上がりの少女たちをそっと照らしていた。

《ととのえ♡マイハート》歌詞

歌:佐久間信盛

(イントロ:温泉の湯気SE+ピアノ)

「はぁ〜〜♡ ととのっちゃう〜〜!」


(Aメロ)

あっつあつの恋の湯けむり

そっとほぐしてく愛情バスタイム

おでこの桶で どきどきパンチ!

湯もれ注意! 乙女心♡


(Bメロ)

じんわり芯まで とけちゃいそう

汗も悩みも 洗い流して〜


(サビ)

♨ じわり ととのえマイハート

ぐつぐつ煮えた このトキメキ

♨ とろんと甘い視線で

君をとろけさせちゃうんだから♡

Love & 湯! I♡温泉!

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