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天下布球 〜美少女戦国ベースボーラーズ〜  作者: InnocentBlue


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18/33

18.「紅白戦の後は、癒しの湯!」

紅白戦が終わった。

Aチームの勝利。これは、事実上――信長と勝家のバッテリーが導いた勝利だった。

陽が傾きはじめたグラウンドに、静かな余韻が残る中、信長がゆっくりと歩み寄る。


「……その、なんだ」


いつになく口調が歯切れない。


「正直、見くびっておった。……そなたのピッチング、とても良かったぞ」


珍しく、いや、信長としてはほとんど初めてとも言える“称賛”の言葉だった。

向けられたその視線に、光秀は一瞬だけ目を見開く。

だがすぐに、丁寧に帽子をとって深く頭を下げた。


「信長さま……試合前には、生意気なことを申し上げて、申し訳ございませんでした」


素直な反省。だが――今のところは、という注釈付きである。

信長は「ふん」と小さく鼻を鳴らして、それ以上は何も言わなかったが、口元はわずかに緩んでいた。

一方、別の場所では――。


「長可、おぬしのキャッチャーはとても良かった。リードも落ち着いていた。今後は、共に高めあおう」


勝家が、真っ直ぐな声でそう告げる。

普段は無口な彼女が、ここまで言葉を尽くすのは珍しい。

それを聞いた森長可は、照れ隠しに頭をかきながらも、にっと笑った。


「勝家の旦那にそんなふうに言われたら、断れねえな。……こちらこそ、よろしくお願いいたします」


がっしりと交わされる熱い握手。

紅白戦で火花を散らした者同士に、確かな信頼が芽生えていた。

――控え組の奮闘、主力の復帰、そして選手同士の結束。

尾張デビルズは、確実に変わりはじめていた。かつての“寄せ集め”ではない。“チーム”としての地盤が、今まさに固まりつつある。

その様子を、グラウンドの外から腕を組んで見守っていた男がいた。

斎藤道三である。

静かに目を細め、どこか満足げに頷くと、ぽつりと口を開いた。


「よし……皆も、かなり疲れがたまっておるだろう。美濃の秘湯にでも行くか」


その一言に、静まりかけていたグラウンドが一瞬で湧いた。


「えっ、温泉!?」「ほんとですか!?」「行く行く〜〜!!」


その瞬間、グラウンドが沸騰したかのように歓声が上がった。

蜂須賀小六が

「うっひょーっ!やったやった!これはテンションあがるでぇ〜〜!」

とバンザイし、

木下藤吉郎は

「じゃあさ〜!お菓子いっぱい持って行こ〜♪ 金額制限とかないよねっ?」

と無邪気に跳ねる。

前田利家も

「よっしゃぁーーー!!温泉!飯!お菓子!最高かよ!!」

と叫び、肩をぶつけ合って盛り上がる。

「いっちょ騒ぐで〜!うちらのチーム、最高やん!」

小六もノリノリで肩を組みに行き、ベンチ前がちょっとしたお祭り騒ぎになる。

皆のテンションは、すでにバスの中で温泉ソングを歌っているレベルだ。


そこへ、少し距離を取っていた竹中半兵衛が、珍しくテンション高めに口を開いた。


「美濃の温泉……あそこの泉質は本当に最高です。僕がいた頃は毎週のように通ってまして。疲労回復、筋肉痛の緩和、あと皮膚にも良いって評判で――」


「どういう成分でしょうか?」

とすかさず森蘭丸が眼鏡を押し上げて尋ねる。

「おお、聞きましたね?」

と半兵衛は嬉しそうに語り始めた。

「まず主成分はナトリウム―炭酸水素塩泉。俗に“美肌の湯”とも呼ばれておりまして、肌の角質をやわらかくし、さらに弱アルカリ性の泉質が毛穴の奥の汚れを――」


「なんで温泉で論文始まんねん!」


すかさず小六が全力でツッコみに入る。


「え、でも興味あります。肌がすべすべになるなら入浴時間は何分がベストなんですか?」


蘭丸は真剣な顔で問い続けており、半兵衛もノリノリで


「では、個人的なおすすめルートをご紹介しましょう。まずは掛け湯三回、そこから徐々に体を――」


「だから誰がガイドブック求めてんねん!!!」


小六の叫びは夕空に吸い込まれていった。

笑いと歓声に包まれながら、尾張デビルズのメンバーたちはベンチへと引き上げていく。


そんな中、ひとり信長は立ち止まり、ふと空を仰ぐ。


(変わってきたな……このチームも)


夕陽が、赤く染まる雲の間に溶けてゆく。

風が吹き抜ける。どこか懐かしい夏の匂いを運びながら。

尾張デビルズ――かつては“寄せ集め”と嘲られた最弱チーム。

だが今は違う。彼らは確かに、着実に力をつけ戦国リーグの“風雲児”として、確かな歩みを始めていた。


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