君、片想う。
俺、橋本要。
卒業間近に控えた高校三年生。
その日はいつもと変わらない一日になるはずだった。
「要、おはよう」
「お。今日は珍しく遅刻|してねぇじゃん。」
「卒業までは真面目に過ごすことにしたんだよ。」
「今更?」
「まだ3カ月もあるからな。」
友人の山田裕。
家がご近所のいわゆる幼馴染っていうやつだ。
まぁ。
悪いやつじゃないんだけど、遅刻常習犯。
朝に弱いらしい。
「朝なんか来なきゃいいのに。」
いや。
それは困るだろ。
「二人とも、おはようさん。」
「中川もおはようさん。」
「恵一!今日の英語の宿題。写させてくれ!」
「お礼はカツカレーでヨロシクな。」
「了解であります!」
中川恵一。
高校に入ってからの友達の一人だ。
ここの高校は、定期テストの数学・国語・英語・総合点、それぞれの20位までが掲示板に貼り出されるこのなっていて、中川は常にトップにいる所謂秀才くんだ。
「お前。遅刻しなかったのは宿題のためだったんだな。」
「にゃはは。」
にゃははって・・・。
「おはよう、中川。私もノート写させてくれない?」
「どうぞどうぞ」
クラスメイトの高橋京子。
元気で明るいクラスのムードメーカーなんだけど・・・おバカなキャだ。
3人は、ぎゃーぎゃー言いながら教室に向かって行った。
「は、橋本くん。おはよう。」
「おはよう。南さん。」
「橋本くんは宿題してきたの?」
「もちろんだよ。あいつらは、まぁ・・・いつも通りだな。」
「だね。」
クラスメイトの南さやか。
いつも賑やかな高橋と一緒にいるせいか、クラスではあまり目立たない。
だが、男子からは人気がある。
可愛いは正義ってやつだ。
キーーーンコーーーンカンコーーーン
予鈴が鳴り響く。
「急ごうか」
「う、うん」
それは、4限目の体育の授業の後に来た。
「今日のバスケも、裕が一人で大活躍だったな。」
「元バスケ部だからな。負けてたまるかよ。」
「俺は、運動全般ダメだから羨ましいよ。」
「さっさと着替えて昼飯にしようぜ。」
「だな。」
山田は、バスケ部の元部長。
インターハイには進めなかったけど、好成績は残していた。
中川は、ずっと帰宅部だから仕方がない。
制服に着替え始めたとき、ポケットからひらりと紙が落ちた。
「んー?」
『橋本くんが好き』
拾い上げた紙に書かれていた。
「え!?」
「どうした?」
「な、なんでもない。放課後に親から買い物を頼まれてたの思い出しただけだよ。」
「先に食堂に行ってるぞ。」
「う、うん。」
先に着替えが終わった2人は、何を食べようか相談しながら教室から出て行った。
改めて、落ちてきた紙を確認する。
『橋本くんが好き』
橋本くんって、俺のことだよな。
俺の制服のポケットに入ってたんだし、そうだよな。
好きって、LIKEじゃなくてLOVEの?
「これは告白・・・。てか、誰からなんだ?これ。」
紙には差出人の名前が書かれていない。
表にも裏にも書かれていない。
光に透かして見たけど書かれていない。
普通は手紙でさ。
放課後に中庭で待ってます、とか。
そういうのじゃないのか?
手の中にあるのは、何の変哲もないただの紙きれ。
「いたずらか?誰だよ、まったく」
紙をカバンに突っ込み、教室を後にした。
食堂で、先に来ていた2人と合流する。
「やっと来たか。何してたんだよ。」
「実はさ・・・。いや。なんでもない。」
「早く食べようぜ。」
「だな。」
二人に言うまでもないか。
その日の夜。
宿題をするためにカバンを開けたら紙が出てきた。
「ラブレターじゃなくて残念。」
丸めてゴミ箱に投げ込もうとした手を止める。
このラブレターだと思った紙への違和感。
手紙ではない。
差出人がない。
何よりも手書きではない。
機械文字だ。
パソコンか何かで書いたのをプリントアウトしたのか?
紙はハガキを四等分にしたくらいの大きさ。
文字はその中央に書かれてあった。
A4用紙とかでプリントアウトしてから、ハサミで切り取ったのか?
いや。
紙の端は綺麗に揃っている。
初めからその大きさだったんだ。
誰かのいたずらだとした場合。
こんな手の込んだことをするかな?
ラブレターだとしても同じことが言える。
手紙を書いたほうが早い。
「考えても答えはでなさそうだな。」
3日後。
また制服のポケットに紙が入っていた。
『橋本くんともっと話がしたい』
今回も差出人もなく、機械文字だ。
「あり得ないだろ・・・。」
前回は体育の授業後。
体操服から制服に着替えるときに気付いた。
授業の前後でポケットに入れたんだろう。
今回は制服を脱いではない。
誰かにポケットを触られた訳でもない。
いきなり現れたのだ。
ポケットの中を探ってみても何もない。
「どういうことなんだよ・・・。」
謎の紙は届き続けた。
『橋本くんに勉強を教えて欲しい』
『橋本くんは今何してるのかな』
『橋本くんがやっぱり好き』
『橋本くんは南さんが好きなのかな』
不気味でしかなかった謎の紙。
伝わるのは誰かの恋心。
差出人は誰なんだろう。
受験日当日。
『橋本くんが全力を出せますように』
ありがとう。
頑張ってくるよ。
バレンタインデー。
『橋本くんにチョコを渡せなかった』
もらったチョコは親と姉からのみだった。
君が誰かわかると思ってたのに・・・。
合格発表の日。
『橋本くんが合格していますように』
ありがとう。
無事に合格してたよ。
最後の紙。
『明日こそ橋本くんに告白する』
翌朝。
ロッカーに一通の手紙が入っていた。
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橋本くんへ。
放課後。
家庭科室に来てもらえませんか?
待ってます。
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放課後。
家庭科室にいたのは、立花加奈だった。
立花はクラス委員長。
物静かでありながら、教室中に通る声が綺麗だという印象だ。
あまり話したことがない・・・はず。
「私。橋本くんに話しかけたいのに、なかなか話しかけられなくて。橋本くんから話しかけてくれたときも上手く話せなかった。バレンタインもチョコを用意していたのに渡せなかった。卒業したら会えなくなるかもしれないから伝えておかなくちゃって思って・・・。私、橋本くんのことがずっと好きだったの。」
今にも泣きそうな目をしてる。
「立花だったのか。」
「え?」
「君を待っていたというか・・・。」
「待ってた?」
「どこから話そうかな。」
そうか。
君だったんだね。
何故紙が届いたのかはわからない。
何故俺だったのかもわからない。
謎だらけの出来事だった。
「なんだったんだろうな。」