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大工の松つぁんVSモヒカンズ。電撃の刑務官はどこ?

格闘大工、松つぁんが暴れる。そして電撃の刑務官とは何者なのか?

俺は右腕のミツに助けられ、極道最強の鷹上と闘わずに済んだ。

「あいつは強すぎる。正直、足がすくみそうになったよ」

「兄貴がですか? まじやばいっすね」

「しばらくあのシマには入れない」

俺が手を焼いた山賊四天王のジンジンより上のズンズンよりはるかに上なのだ。新たな武器を獲得しなければならないようだ。

「でも極道のシマは、治安に関してはいいほうですから、焦る必要はないですよ」

「そうだな」


俺はミツの運転する自動車で、荒廃した街を進む。

今の日本には、何者にも自治されていない街がいくらでもある。

成り上がりたい者どもが凌ぎを削り、主導権を争いはしていることだろう。

浮浪者が路肩で寝ている道を進んでいくと、見窄らしい姿の女が前に立ちはだかった。

ミツが車を停める。

「ねえ、お兄さんがた、恵んでよう。私をあげるからさあ」

これだ。栄養がいき届いていない体を、さらに酷使しようとする。これが今の日本の現状なのだ。

怒りで頭が狂いそうになる。


独裁政権の国でも通貨は存在するのだから、荒廃した日本でも自治がある以上、日本銀行券はとりあえず使えている。まあ、物々交換が増え、闇売買も横行するようにはなったのだが。


浮浪者たちが多いから、ここでお金を渡せば(たか)られて、身動きできなくなるだろう。根本的な解決にはならないが、見捨てるわけにもいかない。どうしたものか。

「お金、くれないの。ケチ、ってか。わたしの役目は停車させること。あわよくばと思っただけ」

女はニヤリとした。

よって来たのは浮浪者ではく、革ジャンを決めこんだモヒカン男たちだった。

リーダーらしき赤モヒカンの男が、女に金を渡した。女は喜び、去っていった。

「この車は俺たちがいただく。降りろ」

赤モヒカンが卑屈な笑みで言った。


「兄貴、やれやれですか?」

「やれやれやれだよ」

モヒカンには雑魚が多い説は事実だろう。

まずは格好から入るのが人間ってもんで、荒くれデビューする者はモヒカンにしたがる傾向にある。おそらく野生動物のタテガミを意識していると思われる。

世の中が荒廃すればモヒカン率が上がるのだ。


俺はミツを残し、一人、車から降りた。

「そいつも降ろせ」

「必要ない。それより、寝るなら路肩で寝ろ」

「誰が寝るって」

「あんたらだよ。これから寝るんだ」

「調子ぶっこいてんじゃねえぞ」

姿もセリフもフラグが立っている。最後には、憶えていやがれ、と言いやがるんだ。

一昨日きやがれ、とは返してやらねえぞ。このやろう。


赤モヒカンが襟首を掴んできた。

俺にはアウトの行動だ。いきなり殴りかからない時点で、雑魚確定なのだ。

「おいおい、モヒカンズ。弱い者いじめを見逃すわけにはいかないぞ」

低い声だが、澄み渡る声質だった。

「誰だ、てめえは」

みながふり帰った先にいたのは、巨大な角材を担いだ大工だった。池下足袋(ぢかたび)と、だぼだぼのニッカポッカを履いている。場違いな姿に、周囲が静まり返り、やがて嘲笑が湧いた。


赤モヒカンは俺から手を離し、大工に向かっていった。

「俺の名か? 俺は大工をやっている松桜(まつざくら)ってもんだ。大工の(まっ)つぁんと呼んでくれ」

「誰も聞いてねえぞ」

「桜松だったら、大工の桜ちゃんだからな。女じゃあるめえし、それはきついな」

「さん付けでいいだろうがって、聞いてねえよ。邪魔するてめえからお陀仏だ!」

「よっと」

大工の松つぁんが体を捩ると、肩に担いだ巨大な角材がプロペラのように旋回した。

赤モヒカンは巻き込まれ、5メートルは吹っ飛んだ。リーダー撃沈。


松つぁんは中背だが、あの角材をぶん回せるなら筋骨は半端じゃないのだ。

「おい、おめえら。この木材の名を呼んでみろ」

いきなりリーダーを失ったモヒカンどもは、統率が乱れ、たじろいでいる。

「どうした? おい、おめえ。答えてみろ」

青モヒカンがムキになった。

(まき)だろ。燃えりゃ、みんな灰で同じだ」

この発言は、松つぁんの逆鱗に触れた様子だ。

「おめえらが燃えたときの火の色は何色だ!」


屈強な大工が暴れだした。

「これは屋根を支える(はり)だ。憶えておけ!」

梁はプロペラの様相だが、上下にも波打つため、避けられない。モヒカンどもが次々に弾けとんでいく。

雑魚ゆえに逃げだす者が出た。住民のためにも、お仕置きは必要なので、俺が追いかけて腕をねじあげる。

「肩は外すためにあるよな」

肩と喉は連動していて、悲鳴が上がる。


何人かは逃したが、戦いは難なく終わった。

「桜が頭上で舞ってるねえ」

「松つぁん、あんたの目が回ってるんだよ」

強靭な大工だが、三半規管は人並みのようだ。よろけて、梁を俺たちの車にぶつけやがった。

「おっとすまねえ。安心しろい。俺は細かいことは気にしねえタチだ」

日焼けた角刈りの大工は親指を立てた。

「こっちのセリフだけど」

「兄ちゃん、なかなか強いな。手助けは余計なお世話だったか。この辺じゃ見ねえ顔だ。強い流れ者に出会ったなら、聞かないわけにはいくめえ。赤い目をした鬼を知らねえか?」

突如として変な質問をされた。


「群雄割拠になっているとはいえ、さすがに鬼は出ないっしょ。都市伝説だよ」

「正体不明で神出鬼没だから、まさしく鬼と呼ばれているんだ。恐ろしいほど強い奴だが、単独でしか動いていない」

大工の松つぁんは真剣な面持ちだ。

「自治など関係なく、ただひたすら破壊をもたらす。奴が通ったあとは焼け跡しかない」

松つぁんは怒りを顔に浮かばせる。

「俺は大工だからよう、意味もなく建物を破壊する奴が許せねえ。建物は建てる物だから建物だろうが」

「そうっすね」

「木材の名称を知らない奴も許せねえ」

「それは普通」

「俺はよう、赤い目の鬼を探して旅をしてきた。こんな荒廃した世界だが、せめてあったかい家はあるべきだ。大工の俺が、責任を持って鬼を滅する」


素晴らしい志の大工だ。こういう人もいるのだ。

「松つぁん、俺も世を正したい。この地域の荒廃ぶりは目にあまる。自治している者はいないのか?」

「俗称は聞いている。電撃の刑務官、らしいぞ」

全国の刑務所は運営が崩壊し、犯罪者が逃げだした。荒廃の原因の一つだ。

悪徳化した元刑務官は多いと聞く。


俺は倒れている赤モヒカンに問いかける。

「貴様らは電撃の刑務官の配下なのか?」

泡を吹いたままで起き上がらない。

「やりすぎちまったか」

松つぁんは反省している。

「直接探すよ。俺は世を直すんだ。悪徳の支配者を成敗する」

松つぁんは俺を睨みつけてきた。

「まっすぐの目だが、危ういな」

「はっ?」

「なんでもねえ。俺は次の街へ行く。今度こそ、見つけて滅してやる。待ってろ、鬼め」

大工の松つぁんは、必須の武器である梁を担いだまま、去っていった。

「肩は凝らないのか。それより、電撃の刑務官だ」

俺とミツは聞きこみをするのであった。

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