極道VS山賊2 狂気の決着!
ノブが最強の握力で敵をぶち倒す。天下再統一を目指せ!
極道最強の鷹上は高身長だが、それでも山賊四天王の一人ズンズンのほうが、はるかに巨躯だ。
山は熊を筋肉の塊に育てるほど、恵みに満ちている。山は全てを備えている。
そこで生涯を過ごす山賊もまた、筋骨隆々に育つのは必然であろう。
奴らは規格が違うのだ。
「どこを見ている、軽量級。他人の戦いを観戦するほどの余裕なんてないだろうが」
山賊四天王のもう一人ジンジンがほざいた。
「あるね。右手首が腫れているぞ。左で斧を使えるのか。諦めろ」
「両手で持てばいいだけだ!」
ジンジンは巨大な斧を両手で振り上げた。
そもそも斧は両手用で、それを片手斧みたく扱っていたのだ。
ジンジンは竹刀のごとく、斧を振り回す。
「どうした、懐に入ってこいよ」
負傷を微塵も感じさせない連続攻撃だ。こいつは精神も強い。
だが速度は遅いのだ。小柄な俺のほうが数段早い。姿勢を低くして、斧を掻い潜った。
「甘いわい」
ジンジンは斧の柄尻を、俺の脳天に落としてきた。戦い方が多様だ。
俺は左にステップを踏んで避けた。決して距離は取らせない。
懐に入れば、レバーブローを放てる。
俺の武器は握力だ。握る力はパンチ力に繋がる。軽量級でも、ピンポイントで急所に拳を捻じ込めば、効かないわけがない。
しかし攻撃は読まれていた。
俺が懐に入ると同時に、ジンジンは頭突きを落としてきた。熊の頭蓋骨で作った兜が、俺に直撃して砕け散った。
両腕を交差して防御したとはいえ、頭がクラクラする。大ダメージだ。
熊の長い牙も腕に刺さっている。
「さすがは四天王だ。こりゃ痛い」
「だったら、逝け」
ジンジンが斧を持つ腕に力をこめた。
牙の刺さった痛みが、皮肉にも俺の意識を繋いでいた。その牙を丁寧に抜いた。
「お行儀いいな。そうすれば天国に行けるってか」
「握力なめんな」
粉々に砕いた牙を奴の目に投げつける。
完全に意表をつけた。ジンジンが目を瞑り、唇を歪ませる。
闇雲に振ってくる斧でも十分に危ないが、超近接距離なら安全地帯だ。
俺は巨木のような体に、雨宿りするかの如く密着した。
「しまった」
「遅いよ。修行が足りない」
ブルース・リーのワンインチパンチを超えるゼロインチパンチだ。
拳を肝臓の辺りに当て、小指を握りこみ、放った。
「ぐう、やられたあ」
ジンジンが後退りしていく。だが倒れない。
「まだ完成には至らないな。俺も修行が足りない。だけど、もらった」
視力が回復していない奴の左手首を握った。関節外し決行。
「ぐがっ」
「これで本当に戦えまい」
一方、鷹上とズンズンの戦いだが、極道最強が山賊四天王の一人をボコ殴りにしていた。
ズンズンの斧は虚しく空気を裂く。半身に構えた鷹上は、軽いフットワークでインファイトとアウトボクシングを交互に使いこなす。
噂に聞くと、鷹上はボクシングのミドル級で、世界王者を目指していたらしい。日本が崩壊したため、興行がままならなくなり、王者への道は絶たれた。
自暴自棄となり、喧嘩に明け暮れていたところを極道にスカウトされたそうだ。
「デカブツ、俺は戦っている意味があるのか?」
「生意気な。そんな細い体で俺に勝てるか!」
ズンズンの放った斧が、鷹上のスーツを掠った。
「一張羅が台無しだ」
「次は肉も斬る」
ズンズンはニヤリとした。が、俺には素晴らしい見極めでギリギリかわし、掠らせたように見えた。
即ち、披露したいのだ。
「これじゃあスーツが邪魔になる」
鷹上が切り裂かれた箇所を掴み、一気に破り捨てた。
現れたのは体脂肪率10%以下確実な、細マッチョだった。筋肉の各部位がくっきりと判別でき、彫刻したような仕上がり具合だ。
「昨日の酒が少し筋肉を鈍らせているな」
貶めた表現がむしろ筋肉自慢になっている。
「それがどうした」
ズンズンも熊の毛皮を剥ぎとった。脂の乗った盛り上がる筋肉を見せる。まさに熊だ。
「無駄な贅肉が多いぞ。それでは俺を捕らえることはできない」
「うるせい。頭に乗るな」
「あたまは砕くものだ」
ズンズンが斧を薙ぐ。振り切ったタイミングで鷹上が爆進し、レバーブローからアッパーカットを当てる。
そして斧の追撃を受けないよう、サイドに飛ぶ。計算づくされた戦い方だ。
なすすべがないズンズンは、斧を捨てて殴りかかった。
「こうすればスピードが増す」
それは悪手だ。基本的な強さに差がある。生身では無理だろう。
案の定、鷹上がワン、ツー、スリー、フォーとコンビネーションを当てる。だがズンズンは倒れない。
「耐久力が違うんだよ」
確かに熊の頑丈さだ。口から血を流しながらも立ち続ける。
ズンズンの狙いは拳の勝負ではなく、掴むことにあった。
「羽交締めからの鯖折りにしてやる」
「のろい」
読んでいた鷹上が、太い腕を掻い潜り背後に回った。
「勘違いすんなよ。今の俺はボクサーじゃない。極道なんだ」
神速の拳が延髄に飛ぶ。熊の頭蓋骨を破壊しながら、拳が後頭部にめりこんだ。ボクシングなら反則だが、これは命の取り合いなのだ。
「強え」
ズンズンが白目を剥いて前のめりになる。埃をあげてアスファルトに倒れこんだ。
「最後はみんな仏さんだ。拝むことはしてやる」
圧勝した鷹上は、倒した相手に合掌した。
「兄貴!」
ジンジンが狼狽える。
「弟分よ、諦めて山へ帰って猪を狩れ」
俺の言い草にブチギレたジンジンが闇雲につっこんでくる。
「狩るのは貴様だ!」
重戦車が突進してくる。こいつが猪だ。しかし俺に接近戦を挑むのは、無謀以外の何者でもない。
「鷹上との戦いが待っているんだよ。あんた、邪魔だ。もう寝とけ」
ジンジンが殴りかかってくる。俺は避けずにガードを上げた。でかい拳が俺の腕に当たると、ジンジンのほうが奇声をあげた。
「そうなるよな。両手首がイカれてるもんな」
ならば当然、蹴りが飛んでくる。
「痛えな、この」
丸太のような足を掴めば、体が振られたが、離さず足関節を外した。
決着した。
ジンジンは力なく片膝をつき、項垂れた。
「帰って猪を狩ることにするよ」
屈服の言葉を吐いたが、鷹上が許さなかった。
「兄ちゃん、トドメをさせ」
筋肉をほてらせた鷹上が近づいてくる。
「あんたは俺の上司じゃないぞ。命令すんな」
こいつはやべえ。正直、今の俺の実力で勝てるとは思えない。しかも俺にはダメージがあるのだ。
山賊は退治できたんだ。ここは一時撤退だ。
鷹上は先にジンジンに詰め寄った。
「堅気に手を出した貴様は許されん」
諦めの表情になったジンジンの後頭部に拳が振り下ろされる。人間の頭蓋が砕かれた。そして鷹上は合掌した。
これで山賊は四天王のうち、二人を失った。ジンジンのスタンドプレイのせいで、急激に弱体化する破目になったのだ。
まあ、残りの二人がめちゃくちゃ強いかもしれないが。
そんなことより、俺も危ない。
「次は貴様だよ。名は聞いておこう」
「ダオ・ノブ。日本を再統一する者の名だ」
「広げた風呂敷は今日で畳まれる。だが、なかなかいい目をしているぞ。堅気を守る正義に免じて最強の力を味合わせてやろう」
鷹上がポケットに手をつっこんでから出すと、ナックルを嵌めていた。
「チタン製だ。昇天できるぞ」
さらに上の破壊力があったとは。ますます未来が見えなくなった。
せめて啖呵を切ってやる。
「何が堅気を守るだ。散々みかじめ料を吸い上げて、苦しめているじゃないか」
「これほどに治安が悪いんだ。当然のことだろ」
そうやって理由をつけられる現状だから、極道が幅を効かせられた。奴らからすると、全くもって正当なのだ。
「そろそろ逝け」
鷹上がファイティングポーズをとった。
絶体絶命の危機だ。俺の物語はここで終わるのか? そんな運命なのか?
自動車の走行音が近づいてきた。
「ノブの兄貴、飛び乗って!」
「相棒!」
ミツが車で滑走してきた。スピードを緩めたところで、俺は躊躇なくボンネットに張りついた。
「大将さんよう、いずれ倒してやるからな。待ってろよ!」
この捨て台詞が利いたようだ。
鷹上は苦虫を噛み潰した顔でファイティングポーズをとき、追ってはこなかった。