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極道VS山賊1 狂気の対決!

「ノブの兄貴。情報屋の話では、山賊王の側近で四天王の一人、ジンジンが下山してくるそうです」

アケチ・ミツが情報を掴んできた。

「ここは極道王のシマだからな。衝突があるぞ」

「住民に避難を呼びかけましょう」

「俺たちは極道に狙われている。ミツは戦闘力ゼロだから、単独で動き回るのは危険だな」

「はい、今まで通り、陰からこっそり行きます」

ミツは俺の片腕だが、雑用とか情報収集とか、あと罠を仕掛けたりとか、そんなことを担当してくれている。つまりは頭脳派だ。

「気をつけろよ」

俺はミツと別れ、住民に家屋から出ないよう呼びかけていく。


すると騒ぎの声が聞こえてきた。

「間に合わなかったか」

俺は走って向かう。

熊の皮で作った衣を羽織り、熊の頭蓋骨で作った兜を被る男がいた。巨大な斧を振るって暴れている。

「貴様がジンジンだな。暴君にでもなるつもりか?」

切り裂かれた住民が転がっている。これは許せない。

俺は拳を握ったが、握力が強すぎて自分の掌が裂けるので、堪えて指を緩めた。

「俺は部下にすぎねえよ。天下を治めるのはザキヤマ様だ」

ジンジンの笑みは歪んでいる。かなり屈折してそうだ。

「山賊は山にひっこんでろ」

ジンジンは鬼の形相になった。

「それだ。我ら山賊は江戸の時代も、明治に入っても、現代でも一貫して山の一族だった。俺たちは山の神々にそう躾けられてきた。人々も、山賊を隔離された存在として見下してきた」

俺は山賊の存在自体、知らなかったのだ。


「ザキヤマ様がその殻を破ってくれた。ついに山賊が表舞台に立つ時が来たのだ」

日本政府崩壊があらゆる立場に影響を与えた。だからといって暴力で全ての決着をつけさせるわけにはいかない。

「人を斬ってどうする? 誰も山賊には従わないぞ」

「俺たちを見下してきたことに対する罰だ!」

歪んでいる。こんな奴らに日本を任せられるわけがない。

「ぶっ倒す、山賊」

「だいたい極道が説教垂れてんじゃねえ」

「俺は極道ではない。バチクソだ」

「なんじゃそりゃあ!」

ジンジンが斧を振り上げた。刃が上空から俺の頭めがけて落下してくる。

俺は軽いフットワークで、左に避けた。

斧の突き刺さったアスファルトが地割れのごとく裂けた。

「小さいからと言って舐めることはない。動きがいい。貴様、鍛えられているな」

「評価してくれてありがとよ」


こいつはパワーはすごいが、動きは鈍い。

問題なく懐に潜りこめると思った。が、ジンジンは斧をただの棒みたいに横に振ってきた。

俺はバックステップでかわす。近づけない。

「動きが遅いぶん、パワーにステータス振りまくっているってわけか」

ジンジンは斧の柄で肩を叩く。

「何を言っている? これが普通。それが山賊なんだよ!」

ジンジンが間合いを詰めてきた。かなりの迫力だ。

構えた斧が邪魔で懐に入れないので、俺は近くの車の陰に身を隠した。

斧がボンネットをVの字に曲げた。


俺が車の周りを一周する頃には、車がスクラップになっていた。

「貴様はネズミか? 逃げ回ってばかりだな。動きがいいだけで、何も感じられないぞ。雑魚が威勢で誤魔化していたか。相手にする必要があるのか?」

俺の武器は握力だ。懐に入らないと、本領は発揮できない。

さすがは山賊四天王の一人と言ったところだ。強い。


「貴様はバチクソと言っていたが、なんの枠だ」

俺を雑魚とみなして余裕の出たジンジンは、興味津々で聞いてきた。

「バチクソを知らんのか。限界突破してのける最上級の言葉だ。転じて、悪を挫き、弱気を助ける男たちの枠組みだ」

「全然、転じてねえだろうがこら!」

もはや興味をなくしたジンジンが、俺をキャベツに見立てたの如く、斧を振り下ろしてきた。

俺を舐めたようだ。その軌道は何度も見ているぞ。見極められる。

斧がアスファルトに突き刺さった瞬間、俺は足で踏んづけた。

70キロの体重が乗ったのだから、さすがに容易にはひっこ抜けない。

俺は難なく奴の手首を掴んだ。

「斧を奪いとれば勝てると思ったか?」

「別にいらない」

嘲りの笑みを浮かべたジンジンだったが、一気に苦悶の表情に変わる。

太い手首だ。折るところまではいけなかったが、関節を外してやった。

巨躯な男が斧を離して悶える。

「別にいらないって。俺の武器はこれだから」

指を何度かニギニギして見せてやった。

「特別なものを持ってやがったか。失礼したな」

ジンジンが無理やり関節を嵌め直した。

「すぐに腫れるぞ。もう斧は持てないだろう。俺の勝ちだ。とっとと山に帰れ」


ところが新たな声が俺の耳に届いてきた。

「ジンジン、そうはいかないよな。戦いはこれからだろ?」

髭もじゃの新たな男は、ジンジンより、さらに一回り大きかった。熊を装う山賊衣装は同じだ。

「ズンズンの兄貴。面目ねえ。だけど兄貴の助けは必要ねえよ」

こいつも山賊四天王の一人というわけか。

ミツは優秀な情報屋に頼っているから、誤情報だったとは思えない。

山賊側が急遽、予定を変更したのだろう。しかもズンズンは何人もの子分を連れていやがる。さらにジンジンの萎縮ぶりからして、こいつは相当に強い。

急に俺が不利になってしまった。ここで俺が御陀仏になるのか。

いや逃げるという手段は残されている。選択はしたくないが。


「傍観者はやめにしよう。実戦で体を鍛えないと、いざってとき、広坂の親父を守れなくなるかもしれんからな」

なんとまた新たな声だ。

建物の陰から、高身長で細身の男が出てきた。部下も引き連れている。

俺は鳥肌が立った。こいつは知っている。三枚看板の一枚目、拳闘の鷹上(たかがみ)だ。

「ちっこいの。山賊四天王といい勝負しているから、観察していたよ。だが、やられたらやり返すが極道だ。俺の舎弟を潰した落とし前はつけてもらうぞ」

全国の極道を束ねた極道王の広坂は、高齢で戦えない。事実上、鷹上が極道最強なのだ。


ズンズンの子分と鷹上の舎弟が俺を取り囲んだ。

俺は強者三人に狙われ、最悪の事態に陥った。

「さすがに、どうにもできない。なんてこった。天下統一は他人のもんだったとは」

俺は諦めの境地で、恐怖すら湧かず、脱力していく。

「だがな、兄ちゃんは住民を気づつけてねえ。山賊どもは人をあやめた。そこに差がある。俺たち極道はな、堅気には手を出さないんだ。優先順位はてめえらだよ。ゲス野郎ども」

スーツできっちり決めた、オールバックで鋭い目つきの鷹上が、ズンズンに向けて、拳を突きだした。

ズンズンはニヤリとする。

「俺はよう、その出来損ないの弟分が一人で下山したから、連れ戻しに来たんだ。やるなら大軍団でやらねえとな」

「だけど兄貴」

「まだ機は熟してねえんだよ、ばかやろうが」


鷹上が鬱陶しそうに言う。

「内輪揉めは家に帰ってやれ。まあここで御陀仏だけどな。ってことで、兄ちゃんは今まで通り、そいつにトドメをさせ」

鷹上の舎弟たちが、ズンズンの子分たちに襲いかかった。乱戦が始まったのだ。

俺はとりあえず命を繋げられた。

「おい、ジンジン。負けを認めろよ」

鷹上との闘いに、少しでも体力を残しておきたい。だからズンズンは頑張れ。

「山賊の意地を見せてやるよ。握力野郎」

「融通が利かねえな、熊野郎」

複雑になった図式だが、俺の戦いは続くのであった。

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